まるで澤潟屋の「三つのS」みたいな「海賊」でした。「三つのS」?そんなこと言ったってバレエ見る人には何のこっちゃですよね(笑) 猿之助歌舞伎が提唱するスピード、スペクタクル、ストーリーの「三つのS」です。
ルジマトフが芸術監督をしていた時に、自身で演出を手掛け、長年踊り慣れた「海賊」の冗長なところをカットし、展開をスピーディにしたという「新版」なのですが、最初タイムテーブルを見たときには、正味1時間半?
ということでびっくりしましたよ。ただでさえ「海賊」は短めなのに、それでもの足りなく感じないかなとちょっと心配でした。ところが、次から次へとたたみかけるような見せ場の連続で、眠くなるところなんて全然ないし、もちろんもの足りないと思うこともありませんでした。
今まで「海賊」といえば、見どころは花形ダンサーが踊る「アリ」でしたが、実際のところアリの出番はそれほどありません。それでずいぶんもどかしい思いもしていたんですね。せっかくのルジマトフの「アリ」なのに、ちょっとしか踊らない、なかなか出てこない、出てもすぐ引っ込んじゃう~
って(Kバレエの「海賊」ではアリはいっぱい踊るそうですが)一方で、本来のストーリーからすれば海賊の首領であるコンラッドが主人公のはずなのに、今まで何だかずいぶん影が薄かったような気がします。もっといえば、あんな頼りない首領でよく海賊集団がまとめられてたよね
という感じ。その分奴隷のアリがしっかり首領を守ってくれていたのかもしれませんけど(笑)
ところが、この「海賊」は違いました。何たって当のルジマトフ本人が主役のコンラッド!本当に、本当にかっこいい首領でしたよ~
ああ「海賊」って本来こういうお話だったのね、と改めて思いました。そして、結構純愛物語なんですよ(笑)ルジマトフがアリを踊らないのは残念だけれど、かつての看板演目をこんな新しい魅力満載の物語につくりかえて戻ってきてくれた。それも今度は堂々と海賊の首領役で、恋と、冒険と、陰謀の海に漕ぎ出した!そんな感じでとても楽しめた2日間でした。
多分、踊りはほとんど(一つも?)削ってないと思うのです。じゃあどこを削ったんだといえば、お芝居のもたもたした部分?場面転換のところなどでしょうか。例えば、1幕(本来なら2幕の部分)の、眠り薬を振りかけた花で見張りの兵卒をコロンとかいう、ちょっと間抜けな部分などがカットされていました。場面転換がとにかくスムーズ。つなぎに真ん中の幕を閉めて、幕前をいろんな人物が通り過ぎる間に次の場面が準備されるというふうに、流れが止まらない。そして踊りも、いちいちルベランスなしで間髪を入れずに次の曲がドンジャンドンジャンと始まる、そのスピード感がたまらなく心地よかったです。
また、コンラッド、メドーラ、アリの3人に加え、パシャやランケデム、ギュリナーラ、ビルバントなどの登場人物のキャラ立ち加減がすごくて、あ~これだからレニ国大好き
って改めて思いました。
【第1幕】
最初、紗幕のむこうに揺れる海賊船、嵐にもまれる3人の影が見える。幕が開き、倒れている海賊たち。何と、コンラッドは上半身裸。これって反則でしょ
裸のコンラッドなんて聞いたことないわよ!嵐で上着が流されてしまったのでしょうか?引き締まった美しい筋肉が見れてうれしかったけど(爆)
アリ、ビルバントに支えられて岩陰に隠れると、そこへメドーラたちがやってくる。メドーラ役はペレン。もうすっかり名実ともにプリマですね。2日目のボルチェンコが「劇場の都合」(?)で降板になって2日ともメドーラ役を務めましたが、このあとすぐ「白鳥の湖」もあったので、何と主役4連投という、タッチキンのイリーナ・コレスニコヴァ並みのすごいことになりました。 ペレンとコレスニコヴァはワガノワの同級生だったような。そして同じイリーナという名前。 イリーナさんは二人とも働き者ね!
メドーラやギュリナーラたちが一通り踊り終わってから岩陰に潜む海賊たちを発見するのですが、そこでいきなりじ~っと見つめ合っちゃうコンラッドとメドーラ(笑)そして、ここは危ないからと彼らを逃がすも、メドーラ達はへんてこなトルコ兵を従えたビルバントらにつかまってしまいます。
真ん中の幕が閉まり、幕前の場面は奴隷市場へ向かう人々。つながれた男女の奴隷たちが通り過ぎるさまは、次の展開を期待させる効果大。幕が開くと、玉ねぎみたいなターバンをかぶった金持ち連中が値踏みの最中。ひときわ立派なパシャ(シェミウノフ)が現れ、奴隷たちの踊りが始まります。この中で目新しいのは男の奴隷たちの踊り。これが圧巻でした。「バヤデルカ」の太鼓(インド?)の踊りを思い起こさせる激しくダイナミックな男性群舞に圧倒されました。
そしてランケデムとギュリナーラが踊る「奴隷のパ・ド・ドゥ」ですが、これも単なる踊りではなく物語の中の一場面となっているのが楽しい。周りの見物人たちが踊りに合わせてあっちに行ったりこっちに行ったり、みんなギュリナーラに注目している様子で盛り上がります。
ギュリナーラ、1日目は大好きなヤパーロワでした。相変わらずかわいかった~
ただ、この場面は嫌な顔して踊らなきゃいけないのに、つい笑顔になっちゃうの。ほんとに踊るのが楽しそうで、キラキラしてて、超らぶり~
だから、ま、いいか。2日目はミリツェワ。彼女を見たのは久しぶりな気がしますが、とても上手なのですね。そして美人ですごく華があって主役を食っちゃいそうな勢いです。ミリツェワはこの場面、しっかりイヤイヤっていうお芝居をしていました。むしろ死にそうに嫌そう(笑)
ランケデムは、1日目はオマールで2日目はモロゾフ。眼帯してるし、ヒゲ付けてるしで顔が全然わからないんだけど、オマールのほうがちょっと大柄だったかな。踊りはオマールのほうがよかったけれど、キャラが濃くて面白かったのはモロゾフ。それぞれに持ち味があって楽しかったです。
次にメドーラが連れ出され、パシャはメドーラをいたく気に入りますが、メドーラは当然嫌がります。でも、そこに入ってきた連中がコンラッドたちだとわかると、急ににこにこ顔に。ルジマトフのコンラッドは想像以上に似合っていて
あのヒゲメイクといい、若い連中を従えて踊りまくるところといい、5~6年前の「ラスプーチン」を思い出しましたよ。今までのぼ~っとして影の薄かったコンラッドではなく、実力で海賊を束ねている、頼れるキレ者の首領ですね。見る者をくぎ付けにする存在感はアリだったときのままでした。そして本当に楽しそうに踊っていて、ファンとしてこの上ない幸せ。
だってだって、一昨年の「最後のバヤデルカ」のときは、ソロルのヴァリエーション省略だった。昨年は怪我をする前の「ジゼル」でもリフトは一部省略してたし、何しろそのあとの怪我で一切ジャンプをしない「白鳥」や「ドンキ」を見た者にとっては、この人がここまで復活するとは思ってもいなかったでしょう。確かに、身体のキレやスピード感はYouTubeに上がっているプハチョフのコンラッドに比べるとそりゃちょっと‥‥でしょうが、リフトもしっかりやって、あんなに楽しそうに踊りまくって、やっぱりすごい。だって、このために筋トレしたりしてたそうじゃないですか。そして自分の改定した新版を引っ提げて日本へやってきて、自分でしっかり主役を踊って見せてくれた。ファンには最高のプレゼントでした。あ~今までファンでいて本当によかった。
てなことで、2幕というところなのですが、ここが新版では休憩なしでつながって一つの幕になっています。また間の幕が下りて、幕前では市場で奪った奴隷たちと財宝をわんさかと隠れ家へ運ぶ海賊たち。そして、ラブラブのメドーラとコンラッドも(笑)
海賊たちの踊りはルジ・コンラッドを中心にしてカッコいいことこのうえなし。そうそう、ツァルのビルバントもすごくかっこよかったですね。身長があるし、イケメンだし、何より華がある。悪い海賊にしておくのはもったいない(笑)踊りもダイナミックで迫力ある踊りを見せてくれました。
サラファーノフのアリを加えたパ・ド・トロワは至福
今までこの踊りは真ん中でメドーラとコンラッドが踊っていても、端でじっと控えているアリばかり見ていたんですよね。踊らないときも一瞬も気を抜かずに、ずっと「奴隷」に徹していたルジマトフを
そんなわけで、初めてしっかり見たようなパ・ド・トロワ(笑)は、ああ、これってコンラッドとメドーラの愛の踊りだったんだなあ~って今さらながらわかりました。美しい曲に涙が出てきてしまって‥彼の改訂した「海賊」を彼の主役で見れるなんて、こんな日が来るとは思ってもいませんでした。
というのも、初めルジマトフがコンラッドを踊ると聞いた時点で、もうアリは踊らないんだなという淋しさと、それからあ~とうとうルジマトフもコンラッドになっちまったかという、ちょっとがっかりな気持ちもあったんですよね。ところが、そんなのは見た途端に吹っ飛びました。「海賊」はやっぱりコンラッドが主人公で、彼は長年の奴隷役からついに海賊の首領に成り上がったのですよ。そりゃ楽しいでしょうね~、ご本人も(笑)
サラファーノフのアリは、しなやかで、軽やかで、素晴らしかった。ルジマトフファンばかりの前でアリを踊るのは‥なんてプレッシャーは、もはや世代的にないのかもしれないけど(笑)彼の場合は観客のほうも全然問題なかったですね。誰も文句のつけようがない踊りでした。あのインディアンみたいな衣装もとてもよく似合っていてかわいかったです。ただ、やっぱりこのワイルドな海賊集団の中では浮いてしまったかな
ルジマトフは自分の改訂版で「アリを奴隷から解放した」と言っていましたが、いや、おっしゃるような「コンラッドの友人」にはとても見えず、何と言うんでしょう、「バットマン」のロビン少年?(誰もわからないたとえ)かわいいアシスタントって感じ?でも、逆にいえばルジマトフのファンを「アリ」という呪縛から解き放ってくれたような気がします。今まで誰のどんなアリを見ても満足がいかなかったのが、まあこれもいいじゃんと思えるようになったというか。アリというキャラの持つ獣のようなしなやかさ、野生的なセクシーさ、奴隷としての抑えられた情感とか影、せつなさみたいなものは、あれは全くルジマトフだけのものだったと納得しました。
サラ・アリの一番の萌えポイントはこの幕の最後、ルジ・コンラッドを真ん中に、左にビルバント、右にコンラッドの脚にすがりつくようなポーズのアリという構図が、私的には超ツボでした
(一体何で?YouTubeの映像ではそんなんじゃないのに
)ルジマトフは長年自分が踊ってきたアリを「奴隷」ではなく、結局自分のお小姓にしちゃったわけね。
飛びましたが、トロワのあと、メドーラに友達を解放してほしいと懇願され、コンラッドはいいよ~
ってな感じで女の子たちを自由にして、奪って来た財宝もホイホイと彼女たちに与え始めました。すると黙っていないのはビルバントです。ビルバント一味はこれに反対して財宝をまた奪い返し‥‥そんな仲間割れの最中でも、肝心の首領はメドーラといちゃいちゃ。おい、大丈夫か(笑)
力ではかなわないと思ったビルバントは、ひそかに反乱を企てます。捕まえてあったランケデムを引き出し、酒に眠り薬を入れさせて隠れる。そして再び出てきたメドーラとコンラッドの熱々のパ・ド・ドゥ。メドーラに酒をすすめられて平気でぐいぐい飲むコンラッド(おいおい‥)毒の廻る演技がまたセクシー
いや、これってちょっと間抜けだよね
そしてコンラッドが酩酊した隙にビルバントらが現れ、メドーラをさらっていってしまう。コンラッド危うし!
今までならここですぐに頼れるアリが飛び出してきて守るのだけれど‥‥遅いよ!ビルバントは気が付いたコンラッドに襲いかかろうとはせずに、アリの手前何もなかったふりをして、メドーラがランケデムにさらわれたことを告げます。一大事!ビルバントの離反を知らぬまま、コンラッドはアリ、ビルバントを従えてまたメドーラ奪回に向けて出発します。
【第2幕】
1幕2幕を続けて上演したので、これは今までの3幕です。パシャのハーレムでは、先に買われたギュリナーラが一番の寵愛を受け、贅沢に暮らしています。どっちかというと手玉にとって小馬鹿にしてるって感じかな。パシャはメロメロ。1日目のヤパーロワも2日目のミリツェワも満面の笑みでパシャにべったり侍っちゃって、3人のオダリスクが踊っているのに、そんな小芝居に目が離せなくなっちゃいました
あんなにイヤイヤしてたのに、ちゃっかりパシャのお気に入りに収まってるじゃん。二人のちょっとオカマっぽいお付きもツボでしたね。
そのあと、海賊の仲間割れに乗じてメドーラをさらってきたランケデムがやってきて、再び値段交渉を始めるという抜け目なさ。メドーラとギュリナーラは再会を喜びます。そして、このあとがちょっと唐突なのだけれど、マントで身を隠した怪しい一団がぞろぞろとやってきます。これはもちろん、コンラッドたちが修行者に化けて乗り込んで来たのです。彼らは神に祈るようなふりをしてパシャをまるめこみ?ますが‥‥一度全員引っ込み、ここから花園の場面へ。
ABTの「海賊」では、はっきりパシャのお昼寝中の夢の中ということになっていますが、これははっきりしないけど、きっとそんな夢の世界でしょう。とてもとても美しくゴージャスな世界
舞台美術も衣装も統一感があって、センスがよくてかわいくて、適度にエキゾチックで、時代&地域不詳だけど(笑)これこそおとぎの国ですねえ。そして衣装をクラシックチュチュに着替えたメドーラとギュリナーラ。華やかで美しくて、何だかうるうるきてしまいました。好きなバレエ団の好きな演目を好きなダンサーで見れる幸せ。涙ものです。
「花園」の踊りが終わると、また現実に戻って修行者たちが出てきますが、ランケデムはこれを見破ってパシャに耳打ち。その中には裏切りもののビルバントもいて、密かにランケデムと意を通じていたのか‥‥どうかはわかりませんが、一斉に被っていた布をとって正体を現すと同時にチャンチャンバラバラが始まります。ところが、なぜかこれはすぐに紗幕が下りてきて、紗幕の向こうの出来事に。あとはご想像にお任せしますということでしょうか?
ここ、すごくかっこいいんですけどね。スピード感ある立ち廻りもそうだけど、海賊たちが一列になってウエーブをつくるところなんかかっこよすぎて感涙もの。その団結の中心にルジ・コンラッドがいるんですから。ファンにはそれこそ紗幕のむこうの夢でしょうが(笑)ここは紗幕なんかかけないで、それでもっと長くやってほしかったような。そんな中、混乱に乗じてコンラッドはメドーラ、アリはギュリナーラをリフトしたまま舞台袖に走り込んでいく。ちゃんちゃんちゃん‥‥
か~っこいい~
再び船は冒険の海へ漕ぎ出し、怒涛のように駆け抜けた「海賊」のお話は終わります。
ということで、「海賊」の東京公演は2回で終わってしまいました。本当にスピーディーでエネルギーにあふれ、楽しかった~
観たばかりなのにもっと観たい!と思うのは何なんでしょうね。ルジマトフは演出家として他の古典バレエも「三つのS」で手掛けてほしい気がしますがどうでしょうか。
現振付を極力残したままで展開をスムーズに、よりドラマチックなものにしているし、お芝居を省いたところはあってもコミカルな場面はちゃんと残しているのです。
そしてやっぱりストーリーの根幹は、船が難破して浜にうちあげられたコンラッドが偶然メドーラに助けられて恋に落ちるという、そこのところだったと再認識することができます。だから奪い奪われのドタバタ劇という感じはしない。内部抗争の最中でも、肝心の首領が心ここにあらずでいちゃいちゃしたりして、もうそんな場合じゃないだろう!とあせる場面もあるにはあるけど(爆)ああこれはラブストーリーだったんだよねと納得できます。
そうそう、ルジマトフの髪型ですが、映像でプハチョフが付けていたようなロン毛のカツラはなし。2幕の最後で、1日目は金髪に染めた髪がライオンのように広がっていたけれど、2日目は高い位置で一つに結わえていました。こんなところもファンには注目ポイントではなかったかと(笑)
もっともっと細かく思い出してはほくそ笑んでいたのですが(変態っぽいファン
)いかんせん余韻に浸っているうちに時間がたちすぎてしまいました。でも、これだけ覚えていたというのは私の中では快挙かも?このあと西宮に遠征してその印象を再び焼き付けることができたのも大きいですね。あ~、もう一回見たい、もっともっと見たい、と思うレニングラード国立バレエの新版(ルジマトフ改訂演出)の「海賊」でした。
(関連映像リンク パ・ド・トロワ 1幕ラスト コンラッドはプハチョフ)
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