7月歌舞伎座 夜の部
歌舞伎座さよなら公演が続いていますが、今月の筋書きの表紙を1枚めくった写真‥‥何かこんな光景を見るとせつなくなりますね。あと10ヵ月、この入口を何度入ることができるでしょうか。
7月はバレエ公演が多いので、歌舞伎は行かないつもりでした。でも、せっかく澤潟屋の方々(笑也、春猿、笑三郎)が歌舞伎座にご出演なので、見られるうちにと、先週初めに行ってきました。
今回の夜の部は海老蔵が大活躍。2演目とも面白くて退屈することはありませんでした。ただ、私が行ったのはまだ初日から間もなかったので、セリフをかむ人、止まる人もいてありゃりゃ‥‥(まあ、聞き流せばわからない程度ですが)若手中心はいいけれど学芸会みたいだなと思っていたら、釣舟の三婦(さぶ)役の市蔵さんは前日からの急な代役ということでした。もともとの猿弥さんは病気休演とか。猿弥さんの恰幅のよさそうな三婦も似合っていると思ったのに残念です。
よく思うけれど歌舞伎って、1ヵ月の興行が終わって次の初日まで1週間ぐらいしかありませんよね。朝から晩まで舞台はお客さんが入っているから、リハもゲネプロもないという話は聞いたことがありますが、公演中に次の公演の稽古もして、間の数日で合わせるのでしょうけど、すぐ初日になってしまう。だから最初のほうと後のほうは違うのは当然?‥‥といっても私などは1回しか見に行かないのでわかりませんが。
よくテレビのドキュメンタリーなどで見ると、終演後のロビーにゴザを敷いて稽古していたりして、ホントかなあと思うけど、歌舞伎ってそういうものなのでしょうか。その上さらに急な代役なんて、多少なりとも素人芝居に関わっていたりすると、もう信じられません。プロはそれを当然のこととしてずっとやってきているのだからすごいなあと思います。
≪夏祭浪花鑑≫
現代でも人気のこの演目は江戸時代中期、享保の改革のあとの時代、有名な「菅原伝授手習鑑」や「仮名手本忠臣蔵」よりちょっと前に初演されたものです。実は私は生で見るのは初めてでした。勘三郎さんのはテレビで2種類(勘九郎時代のニューヨーク版と、昨年のベルリンでの録画)見ていますが、とても面白いお芝居ですよね。
序幕:住吉鳥居前の場
最初は、まず主要な登場人物が次々に現れる趣向。喧嘩沙汰で投獄された主人公、団七九郎兵衛(海老蔵)が釈放されるというので、住吉大社の前まで来て待つ釣舟の三婦(市蔵)。そこへ駕籠に乗った磯之丞(笑也)がやってきて何やら駕籠かきとトラブルに。それを納めて磯之丞を先に茶屋にいかせると、今度は団七が役人に連れられてやって来る。
団七は罪人の扮装で、ひげも月代も伸び放題。そのむさくるしい姿で、「おありがとうござりまする」なんて言うのだけれど、あまりの似合わなさにまず会場から笑いが‥‥。そのあと、床屋に入ってすっきりした姿で出てきたときは、普通はかっこいい!となるのだろうけれど‥‥イケメン俺様な外見のためか、町人も大阪弁も似合わないんだよね
この大阪弁も何日かすれば滑らかになっていくのでしょうか?(初役ではないはずだけど)どうもこの役は、勘三郎さんの軽妙洒脱な味がスタンダードになっているので、変な感じでした。
恋仲の磯之丞を追ってきた傾城琴浦(春猿)。春猿さんは相変わらずきれい
団七は琴浦を横恋慕する悪者から救い、磯之丞のところへ向かわせる。そのあとまた、琴浦を返せと一寸徳兵衛(獅童)なる者が言いがかりをつけ、派手な喧嘩になるんだけど、それを住吉大社のお参りを済ませて出てきた女房お梶(笑三郎)が仲裁する‥‥という、ごちゃごちゃとわかりにくいのですが、要するに、ここでひととおり登場人物の紹介をしたというわけですね。笑三郎さんのきっぷのいい世話女房役は合っていますね~。
徳兵衛はお梶に恩があるということがわかり、さらにこの夫婦と縁がある磯之丞は自分にとっても主筋‥‥ということで、さっきまで大立ち回りをしていた二人なのに、ここで片袖を交わして義兄弟の仲となるのでした。
二幕目:難波三婦内の場
定式幕を閉めただけで休憩なしで次の場面へ続きます。難波に住む釣舟の三婦(さぶ)のところに磯之丞と琴浦がかくまわれているのですが、二人は大変な状況もどこ吹く風で、仲良さそうに痴話喧嘩などをしています。私は笑也ファンなので、笑也さんの立役姿を見たかったというのが、今回これを見た第一の理由。きりっとした女形が素敵な笑也さんが、こんなふわふわした女以上に頼りない若殿役なんて~と思ったけれど、貴人特有の鷹揚で、どこか放っておけないところがある、そんな「つっころばし」の雰囲気はうまく出ていました。
この磯之丞の親の殿さまは、よほどいろんな人に恩をかけている大人物なのでしょうね。こんな、遊女にいれあげ勘当されるようなダメ息子でさえ、たくさんの人が助けてくれる。それどころか、このあと、こんなバカ殿のために庶民が血みどろになって殺し合いまでしてしまう‥‥その馬鹿らしさ悲しさが、一つのテーマかと思われます。
祭りにかこつけて様子をうかがいに来る悪者もいて、ここでは安心できないので、三婦の女房は訪ねてきたお辰(勘太郎)が国元に帰るというので、しばらく磯之丞をかくまってもらえないかと頼みます。お辰は二つ返事で引き受けるのですが、三婦は、突然任せられないと言い出す‥‥ここからがお辰の見せ場。
勘太郎さんはさすがに、海外公演や地方巡業でお辰を演じ続けていたので、めちゃくちゃこなれていて、もうそこだけ別世界というくらい濃い演技をしていました。テレビでは見ていましたが、本当にうまかったです。これでは代役にたったばかりの三婦ではたじたじ。顔に焼きコテを当て、傷をつくってまでやり通そうという女の心意気。ハラハラしながらも胸のすくような思い。すごかったです。引っ込む時の「ここでござんす!」にはもう大拍手でした。
そのあと、義平次が駕籠で迎えに来て、三婦の女房をだまして琴浦を連れて行ってしまう場面~団七がそれを知り、一大事とばかり追いかけていく場面は、とてもスピード感のある展開でした。
大詰:長町裏の場
そして、この演目の最大の見せ場。義父の義平次が意地悪く団七をいじめ抜き、それにじっと耐え続ける団七。義平次役の市蔵さんは、代役の三婦と大変な二役。三婦のほうは少し貧弱で物足りない感じがしたけれど、本来の役の義平次はもうこのねちねちといやらしい感じがすごかったです。
団七は磯之丞と琴浦のことを引き受けたのに、ここで琴浦を連れて行かれたら男が立たぬと訴え、必死で義平次に駕籠を戻すように懇願するのだけれど‥‥う~ん、海老さま、やっぱりこういう役は合ってないかな‥‥。
ところが、雪駄で額を割られ「男の生き面を!」とキレるところからはすごかった。やはりルックス、体格ともに恵まれているので、このあとの殺し場、様式美を見せる見得の数々は、どれもすごく決まっていて、カッコよかったです。
逃げる義平次を執拗に追いかけて殺すシーンは、一見残酷なように思えますが、誤って付けてしまった刀傷でも、親を手にかけることは当時としては最も重い罪。殺したあと、井戸の水で刀を洗うところ、足が震えて滑るところ、最後に「悪い人でも舅は親、親父殿、許してくだんせ」と言うところなどが、凄惨な殺し場だけれども、平気で人を殺したわけではないことも見ての通り。侠客というか、チンピラのような男でさえことさら節にこだわり義を重んじる‥‥何か、現代のちょっとのことで平気で人を殺してしまうのとは違うと思いました。
表通りの神輿を担いだ若い衆がなだれ込んで、祭りの喧噪の中で逃げ惑う団七。最後まで息つく暇もなく見入ってしまいました。よくできたお芝居、とても面白かったです。
長くなってしまったので、もう一つの「天守物語」はまたこのつぎに。























最近のコメント