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2008年7月26日 (土)

世界一ゴージャスな‥‥「白鳥の湖」

Img_0001 アメリカン・バレエ・シアター日本公演。「オールスター・ガラ」「海賊」と見てきて、最後は「白鳥の湖」です。私はニーナのファンですが、ニーナの追加公演ではなく、23日のジュリー・ケント&マルセロ・ゴメスの舞台を見ました。後から追加公演なんて出されても、もうずいぶん前にチケットを買っちゃったし、主婦にはこれ以上家族をほったらかしての連日のバレエ鑑賞はいくら何でも無理ですよ~! やられた!と思いましたね。

でもその日もとてもよかったのです!感動と満足度は3演目中一番でした。今度こそ「世界一ゴージャスなバレエ」ってキャッチフレーズもそのとおりかなと思いましたよ。 特にロットバルトがものすごくカッコいいキャラクターなのにびっくり。貴公子に変身したロットバルト役のデイヴィッド・ホールバーグの魔力に吸い込まれそうでした

公演を見た当日、帰ってきてすぐ、感動したことについてわけわからないことをいっぱい書きました。でもなぜか、久しぶりですが、何かのミスタッチで全部消えてしまいました。何で~?舞い上がっていたときの客観的でないものごとは、あとで思い出そうとしても思い出せないことが多いのです。だから、立ち直れないぐらいがっかりしたけれど、どうせろくでもないことだったに違いないので、それでよかったのかもしれません。気を取り直して、今度は冷静に。

プロローグ
紗幕の向こうに、長い髪をなびかせたオデット(ジュリー・ケント)が現われます。華奢な、たおやかな人間の姿です。ところが、上手側に獣のような、爬虫類のような、気味の悪い悪魔ロットバルト(アイザック・スタッパス)がいます。よくあるカラスやフクロウみたいなものではなく、頭には角があり、筋肉隆々のプロレスラーみたいな身体にワカメか葉っぱが張り付いたような、ぬるっとした感じの醜い怪物です。ロットバルトは目ざとくオデットを見つけます。そしてマントで身を隠したかと思ったら、何と、瞬時に美しく魅惑的な青年(デイヴィッド・ホールバーグ)に変身したのです。オデットが引き寄せられるように彼に近づくと、彼は恭しくひざまずき、オデットの手にキスをします。すると、オデットはもう彼から離れることができなくなり、とうとうつかまえられて見る間に白鳥の姿に変えられてしまうのです。元に戻ったおぞましい怪物の手には、一羽の白鳥(ぬいぐるみ?)が押さえつけられ、もだえ苦しんでいました。何だか
いきなり恐ろしい衝撃的な幕開けです。

第1幕
いつもどおりの、お城の庭のようなところで、王子(マルセロ・ゴメス)を囲んで友人たちや村人たちが集まっています。上手奥に立派な階段があり、お城の中につながっているようです。衣装はみなスモーキーな中間色で、布の重なりが重厚な感じがします。踊ったり乾杯したり、王子様はモテモテの様子。そこへ王妃様がやってきて王子を諭し、弓を贈る展開は同じですが、道化は出てきません。
王子の友人など、男性が踊るシーンが多くて、王子のソロも確か2回以上ありました。ゴメスの王子は若々しくて、本当に育ちがよさそうで、踊りも伸びやかできれいです。

メイポールは高さがあって、舞台にアクセントを加えていました。リボンを持って踊るうちに、交差してだんだんリボンが編まれていくのですが、それが最後にきれいにほどけるのが見事。王子は中央で友人たちに担ぎ上げられ、誕生日を祝ってもらっているのでした。

パ・ド・トロワに加治屋百合子さんが入っていました。華奢で、見るからに柔軟性のある感じです。あとのほうのヴァリエーションを踊ったのですが、なぜか足音がすごく気になりました。もう一人のマリア・リチェットのほうはほとんど足音がないのに、加治屋さんは足音がやたらカツンカツン響くのです。シューズのせいもあるのかな?

トロワが終わったあたりから、王子の様子が変わってきました。先ほど王妃に言われたことがこたえているのでしょうか。皆に混じって踊る中で、次第に心ここにあらずみたいになって、孤立が深まっていきます。ブルメイステル版のオディールのヴァリエーションの曲とか、そのあとのゆったりした曲もですが、普段使われない曲が使われていて、王子の不安や孤独などの心象風景を表しているようでもあります。王子のまわりではまだみんなが楽しそうに踊っているのに、それが色あせたスローモーションのようにも感じられ、王子だけが現実として浮き上がって見える不思議な場面でした。貴族たちは帰り、村人たちがまだ踊り続ける中、王子は一人フラフラと出て行ってしまいます。王子の友人(トロワを踊ったサッシャ・ラデツキー)が後を追いかけていきます。

森の中、王子に追いついた友達は、弓を渡して狩に行こうと誘いますが、王子は一人にしてくれと追い返します。

第2幕
森の中、廃墟のような建物の残骸の向こうに暗い湖が広がっています。上手奥に洞窟があり、そこが怪物の棲家のようです。普通の「白鳥の湖」の湖畔のようにロマンチックな感じではなく、薄気味悪い背景。迷い込んだ王子はここで白鳥が美しい姫に変わるのを見るのです。ジュリー・ケントのオデットはなぜかかわいい~。もうけっこうなベテランのはずなのに、「円熟」というより「かわいい」というのはどうしででしょうね。私の好きなニーナにしても、マハリナにしても、みんなベテランなのに「かわいい」んですよね。共通項を見つけた感じがしました。

びっくりして追いかける王子。逃げるオデット。オデットの恐れ方は、最初にロットバルトにうっかり近づいて捕まってしまったから、もうどんなに素敵な人でも男の人は怖いわ!という感じに思えます。でも、次第に真剣で誠実そうな王子に心を許し、マイムで身の上を語り始めます。「誰か、私に愛を誓ってくれたなら、私は元に戻れるの」というところで、王子がためらいがちに「じゃあ‥‥僕が‥‥?」と誓いのポーズをしようとするところが、ホントに芸が細かい!会ってすぐいきなり「誓うよっ!」って勢いよく右手を上げるのは軽薄でうすっぺらだといつも思っていたのです。

アダージョはとても素敵でした。もう二人のせつない心の通い合いがひしひしと伝わってきて、見た目が、踊りがというよりもそのドラマに感動しちゃって。ケントとゴメス、初日のガラでは熱々の「マノン」を演じていましたが、またもこの二人が奏でる世界に胸が熱くなりました。 

コールドは、最初のガラのときに、うるさいからもういらん!と思ったけれど、やっぱり同じような感じだった‥。私は、今回はかなり前方の、段差のない部分のA席だったので、前の人の頭を右に左によけながら舞台を見上げる形でしたが、それでもコールドが気になりました。前回はサイドの三角のところ(両方とも嫌いな場所だけど予算の関係上)だったので、きれいに見えなかったのかな?と思ったけれど、今回ほぼセンターで、列ぐらいはすっと一直線に見えていいはずなのに‥‥。正面後方で全体を見わたしていたらどんな具合だったんでしょうね?並び順も身長を考えていないような感じでした。やっぱりシンクロでもバレエでも、びしっと揃えることに命を懸けているのはロシアか日本ぐらいなのかしら?

最後、現われたロットバルトを王子が弓で射ようとしたとき、オデットは「撃たないで!」とまるで「ジゼル」みたいにロットバルトをかばいます。ロットバルトが死んでしまったら永久に元の姿に戻れなくなってしまう。でもオデット、もしかしてそれだけじゃない?そんな感じもしましたが、考えすぎ?

ロットバルトに引き寄せられ、強く抵抗しながらも去らねばならないオデット。最後まで離したくない!と手を握ってすがりつこうとする王子。その指がふっと離れた瞬間、もうオデットの心はその場から離れ、ぱあっと白鳥の姿に変わって、背中を向けてパドプレして去ってしまうところが感動的でした。

第3幕
舞踏会の場面。いろいろな版がありますが、これはとても納得がいくやり方のように思います。普通は花嫁候補の踊りがあって、王子が花嫁選びを渋っているところにロットバルトとオディールが現われ、そのときに「スペイン」を引き連れてくるのが多いようですが、じゃあそのあとに続く民族舞踊はただの余興?
かといって、ブルメイステル版のように、ロットバルトが民族舞踊全部を引き連れて、たった一人の王子を騙しにくるのはすごい迫力だけれど、その前の道化でお茶を濁しただけの手薄な宮廷が淋しく感じられます。

ABTのマッケンジー版?は、花嫁候補がそれぞれスペイン、ハンガリー、イタリア、ポーランドのお姫様で、それぞれがお国の舞踊団を引き連れてやってくるという設定。(まるで映画の「オーロラ」みたいだな~。あの王子たちも舞踊団も相当おぞましかったけど‥ほんと、あの中から選べといわれてもな~余談。)だからロットバルトが来る前に、まず民族舞踊になります。順番にその国の王女が式典長に導かれて王妃と王子の前に進み、そこに用意された椅子に座り、自国の踊りを披露するもの。そうやってチャルダッシュから始まります。スペインは、ロットバルトの手下じゃないので、やたらと濃いワルカッコよさはなく、ふつうの民族舞踊みたいだったのがちょっと残念。ナポリはいつものタンバリン持った踊りと違い、男性二人の踊りで、回転技の掛け合いみたいなところがすごく面白かったです。

花嫁候補の踊りも変わっていました。それぞれお付きの男性ダンサーがいて、自国の姫を優雅に舞わせます。その一人一人と交代して、王子は踊りますが、やっぱり心ここにあらず、そのうち周りだけが踊っているという状態に。王妃がこの中から結婚相手を選べと言いますが、王子は全くその気がありません。そのうち王妃は怒り出してしまいます。

そこへ、正面の扉が開きロットバルトとオディールが登場します。ロットバルトは優美な貴族の姿でやってきます。デイヴィッド・ホールバーグのロットバルトは、ツンツンと立てたような金髪にヘアバンド。まるでロックスターのようです。ものすごいカリスマ性!その登場に一同あっと驚くのです。王子はといえばオディールの姿に釘付け。あっという間にオディールを追って狂喜乱舞で走り去ります。

さて、ロットバルトですが、ここで「ルースカヤ」の曲が流れ、ロットバルト・オン・ステージの始まり、始まり~!あの哀調を帯びた「ルースカヤ」の曲って、こんなにセクシーだったでしょうか?おもむろにマントを脱ぎ捨て、まず王妃のところへ一直線。「どうかこちらへお出ましください」と誘います。王妃が玉座から降りてくると恭しく手をとりキスをする。最初嫌がっていた王妃も、妖しく美しい紳士にまっすぐに見据えられ、いきなり心がとろける思いがしたのではないでしょうか。そうやって王妃の警戒心を解いてから、次に各国の姫を一人ずつ魔力で引き寄せて、一緒に踊ります。姫たちは糸で引っ張られているように、すうっとロットバルトに魅入られて引き寄せられてしまうところが、まるでプロローグのオデットのようです。あの目で正面から見据えられたら、まるで鷲の標的になった小鳥みたいなものです。ロットバルトは姫たちをほとんど強引に、乱暴に扱っているようなのに、姫たちは気持ちが飛んでいってしまったように、一心不乱にロットバルトを囲んで踊るのです。曲の最後に、そのロットバルトが王妃の隣の席にすっと滑り込んだので、王妃もびっくり。多分誰の心にもある、心の隙間に入り込んでしまう悪魔。恐ろしくも魅惑的な場面でした。

何だか昨年のコールプのセンセーショナルなアブデラフマンを髣髴とさせるのですが、同様に会場全部を魅了してしまうこのロットバルトって、ものすごくおいしい役どころだわ~。この役、コールプが踊ったらきっとはまるだろうな~。私の一番好きなあの人でも‥うわっ、とてつもなくカッコいいだろうな~(想像しただけでよだれが‥)優柔不断王子なんかいっぺんでかすんでしまう。(バカ!)でもね、ホールバーグのロットバルトは氷のように冷たい「悪」を秘めたハードなカッコよさなので、前記のお二人の熱さとは明らかに違うでしょうね。

グラン・パ・ド・ドゥは、うぅ、思い出せない。あの魅惑のロットバルトで一番肝心なシーンが飛んでしまったじゃない。。アダージョは普通に、夢中で近づけばかわされる、あれ?もしかして違うのかな?と正気に戻りそうなところで、またとろけるような目で誘惑する。そういうやり取りはあったと思うけど、王子はオデットに似ているので間違えたというよりも、オディールそのものに魅せられた人のようでした。ときおりロットバルトがオディールの耳元で何かをささやきます。そのたびに自信たっぷりな笑顔で王子に近づくオディール。ケントのオディールは線が細く、それほど邪悪な感じもしないのですが、魅力的ということではもうメチャメチャ魅力的。

王子のヴァリエーションは、大柄なゴメスが何てきれいに飛ぶの~ちょっとおすましなくらいにノーブルでした。オディールのヴァリエーションはとてもエレガント。そんなに高く脚を上げたりしないのに、輝くように美しかったです。コーダーまで一気に盛り上がりました。

グラン・パが終わると、王子は「この人こそ僕の結婚相手です」と王妃に告げます。王妃は喜んで、「ではあの人にごあいさつなさい」とロットバルトを指すところが何とも。オディールと王子のつないだ手の上に王妃が手を重ねようとすると、ロットバルトは「それなら誓いなさい」という。あ~誓っちゃダメ~と何回見ても思うのですが、お話ですから王子は喜び勇んで誓いのポーズをするわけです。軽い奴だな~。とたんに正面の扉が開き、火花が散り、怪しげなスモークが流れ込んでくる。正面には嘆くオデットの姿が映し出され、王子はやっと正気に戻ります。

でももう遅い。オディールとロットバルトは王子をあざ笑い、去っていきます。扉が閉まり、その扉を必死でたたく王子。で、幕。でもすぐに、休憩なしで4幕へ続きます。1幕と2幕の間も休憩なしで、休憩は1回だけでした。とてもスピーディに展開して飽きることがありません。

第4幕
再び湖畔の場面。この部分は退屈であまり好きではありませんでした。マリインスキーやレニ国の版はよくわからない?黒鳥も現われて、きれいだけどあまり意味がないようなコールドが延々と続くし、王子が現われてからも同じようなパ・ド・ドウが続いて、ちょっと飽きてしまいます。でも、昨年ブルメイステル版を見て、4幕が一番好きになりました。王子ははっきり、オデットとの誓いを破る罪を犯したのです。「ジゼル」や「バヤデール」と同じ、心弱さから二股かけようとしたのです。その運命をまっすぐに受け止めなければなりません。
(そんな王子が都合よくロットバルトを倒してハッピーエンドなんてムシがよすぎ~。確かにハッピーエンド版は見ていてほっとしますけどね。その点、悲劇で終わるレニ国版は最後にちょっと泣かせてくれますが。)

ブルメイステル版では、白鳥たちは王子を許しません。当然よね‥‥そして一つ一つの踊りに意味があって、ドラマチックに展開していきました。4幕こそ、「ジゼル」の2幕に匹敵する懺悔と赦しと愛の世界なのだと思ったのです。このABTの4幕もとてもドラマチックでした。

城を出て森へ向かった王子は、もうボロボロで今にも倒れそうです。そこへ白鳥たちが現われるのですが、とりつくしまもなく、王子を無視して通り過ぎるだけ。一体どうしたらよいのか、白鳥たちは王子に襲いかかるようにさえ見えます。森を表す幕が開き、湖畔の岩の上にオデットの姿が。ここで、普通王子の登場に使われる音楽が流れ、オデットを映し出します。孤独に、泣いているオデット。王子はオデットのもとへ向かおうとしますが、白鳥の群れがまとわりついてなかなか進むことができません。そのあとはブルメイステル版に使われている暗い音楽。王子の懺悔の心と、運命に翻弄される二人を表すような、リフトを多用した哀しみあふれるパ・ド・ドゥが、音楽と共に徐々に盛り上がり‥‥うまいなあ、音楽の使い方が。。このへんからもう涙が出てきちゃいました。

醜いほうのロットバルトが現われ、立ち向かう王子をこともなく蹴散らします。オデットは王子をかばい、もう自分が死ぬしかない、自分が死ねばロットバルトも滅びるからと(多分‥そういうことだろうと)王子に言いますが、王子は死ぬなんてダメだ、死なないで!とオデットに必死ですがりつくのです。そして再び王子がロットバルトにやられそうになったとき、オデットは意を決して一直線に岩にかけ上り、ためらいなく湖に飛び込んでしまいます。それを見た王子もまたあとを追い、あっという間に湖へ(ダイブする背中のそりがすごかった!)‥‥‥え~っ!?すごい展開。

薄気味の悪い悪魔はのた打ち回り、廃墟の上で力尽き、白鳥たちの上に大きな朝日が昇ります。その日輪の中に二人の姿が‥‥最後まで泣かせてくれました~。

もう、見てから時間がたってしまったので、忘れてしまったりいい加減なところもあるかもしれませんが、とにかく刺激的な展開で満足度の高い「白鳥の湖」でした。もちろん主演のケントもゴメスもすばらしかった。二人の間に愛がひしひしと感じられ、素直に感動することができました。

この版の「白鳥の湖」はマーフィー&コレーラのDVDが出ていて、会場でも売っていました。記念に1枚と思いましたが、国内版は6,000円と高価なのでやめました。でも、やっぱりほしくなって、帰ってから早速、アマゾンで輸入版(2,821円)を注文しました。(リージョン1って何?うちの機械で映るのだろうか)注目はゴメスのロットバルト‥一体どんなロットバルト?

今回のABT日本公演の「白鳥の湖」では、私を魅了したホールバーグのロットバルトはこの1回だけだったと思います。他の人だったらあれほど感動したでしょうか?もしかして、私ってものすごくラッキーな出会いをした?それくらいホールバーグのロットバルトがセンセーショナルでカッコよかったのです。あの氷のような非情さ。妖しい美しさ。他の人でああいう雰囲気が出せるかしら?それはDVDが届いてからのお楽しみということで。

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