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2008年11月26日 (水)

ハイデ版「眠れる森の美女」2

Simgp6595 シュツットガルト・バレエ団「眠れる森の美女」の舞台の感想の続きです。

プロローグ
幕が開くと天井まで抜けるような青空、若葉が茂る木々、白い雲。そう、舞台は明るい光が降り注ぐ野外だったのです。中央の中庭を白い回廊がぐるっと取り巻いていて、城の外のテラスという感じ。オーロラ姫の命名式に貴族たちが集まってきますが、それがみんなブルーの濃淡の、絹ずれの音も軽やかな衣装。白い回廊にロイヤルブルーが映えてとても明るくすがすがしい感じがします。皆プラチナブロンドの鬘。下手にはオーロラ姫の白いゆりかご。王国にやっと訪れた春を楽しんでいるような人々でした。

そこへ妖精たちがやってきます。6人の妖精はそれぞれお付きの男性とバラの鉢植えを持った子供を従えていますが、それぞれお揃いの衣装でかわいい。妖精たちの衣装はオーガニックカラーとでもいうのかしら、赤は赤でもまだ赤くなりきらないトマトのような赤だったり、緑色も柔らかい若草色で、黄色も干し草のような黄色なのです。妖精たちはオーロラ姫にそれぞれの贈り物と一緒にバラの鉢植えを贈ります。妖精のパ・ド・シスはよく見る振り付けとはちょっと違うところもあったけれど、それぞれが優雅でかわいらしい踊りだったと思います。

そこへ招かれなかったことに腹を立てたカラボスがやってきます。黒いロングドレスに黒いマント、黒く長い髪を翻しながらダイナミックに飛ぶ、回る!男性というのはわかっていたけれど、すごく鮮烈で魅力的な悪役でした。カラボスはオーロラ姫に、16歳の誕生日に針が手に刺さって死ぬという呪いをかけます。驚き嘆く王様と王妃様。リラの精はカラボスを退け、オーロラ姫は眠るだけだと言って一同を安心させます。

一度幕が閉まりますが、幕が閉まり始めた時からまるで暗雲が垂れこめるように上から黒いカラボスの大きなマントが降りてきます。それは閉まった幕を覆い、カラボスはその黒い幕に隠れて虎視眈々とその後のオーロラ姫の成長の様子を窺っているのです。カラボスがマントを少しめくると、その裏には5歳ぐらいのオーロラ姫がお人形で遊んでいて、それをリラの精がやさしく守護している様子が現れます。またもう一方の側のマントをめくると、今度は10歳ぐらいに成長したオーロラ姫。幕外では静かに1幕への時間の経過が語られているのです。

第1幕 ~オーロラの誕生日~
再び幕が開くと、また同じ中庭の風景ですが、妖精たちから贈られたバラの木は16年の間に大きく成長し、白い回廊にはバラのつるが絡まり、たくさんの花が咲き誇っているまぶしいばかりの初夏の風景。オーロラ姫の友人たちは淡いクリーム色のドレス、ワルツを踊る男女は淡いグリーンを基調にした衣装。白地の部分にはかわいらしい小花模様があしらわれていて、男性は淡いピンクの布のベルトを巻いています。幸せに成長したオーロラ姫を祝うような一面のやさしいパステルカラー。このワルツはけっこう回転やジャンプがたくさん入っていて華やかですが、合わせるのが難しい感じの踊りでした。

そこへ4人の王子が求婚にやってきます。4人はみんな衣装が違って、中近東風だったり、トルコ風?だったり、して楽しい。

回廊の上から階段を下りてくるオーロラ姫。前回書いたとおり、アマトリアンのオーロラ姫は本当にラブリ~淡いバラ色の衣装といい、この上なく優雅な雰囲気といい、はじけんばかりの若さというよりは、大事に育てられた深窓の姫君らしくシャイでつつましやかな感じがします。前述のとおりローズアダージョではちょっとヒヤッとしたけれど、ヴァリエーションは幸せいっぱいのお姫様そのものでした。振付が、プティパ調のガチガチのクラシックではなくて、動きと動きのつなぎが柔らかい感じになっているような気がしました。

続いて普通はお友達の踊りだけれど、その曲で4人の王子たちが踊ります。4人の王子は普通オーロラのサポートだけでほとんど踊らないけれど、ここでは一人一人の短いソロがあったり、4人でダイナミックにジャンプしたり回ったりして見ごたえがありました。

いつの間にか怪しげなマントを被った老女がやってきて、オーロラ姫に花束を渡します。これが全面パステルカラーの舞台の中にそれだけ浮き上がって見えるような真っ赤なバラの花束。オーロラ姫は珍しいものを喜ぶように花束を持って踊りますが、その中に仕込んだ針で手を刺してしまいます。とたんに不安な表情になって舞台を回り、倒れてしまうオーロラ。

ここでカラボスが現れるのですが、とたんに照明が、トンネルの中などによくある黄色のライトに変わって、バラの咲き乱れる明るい初夏のテラスが、一瞬にしてセピア色に色褪せた世界に変わってしまうのです。そしてカラボスだけに普通のライトが当たり、無彩色の中にカラボスだけが異様に存在感を放つという照明の妙!その色彩感覚に脱帽してしまいました。

そこへリラの精が現れ、みんなを眠らせます。回廊の正面奥に運ばれたオーロラ姫のまわりで人々は眠り、その上に妖精たちが白い薄布を幾重にもかけていきます。(まるで閉店後のお店のように‥?)そうやって人々は100年の眠りにつくのでした。

第2幕 ~狩りの場、幻を見るデジレ王子、オーロラの目覚め~
休憩後、幕が開くと‥‥何だ、同じ場所じゃない‥‥‥。同じ城の回廊に囲まれたテラス。しかし時間はずいぶんと経過したようで、回廊に絡まったバラの木は恐ろしく伸び放題に広がって、枯れたような色をしています。周りの木々も茶色く覆いかぶさって、まるで廃墟。秋の終わりのような荒涼とした感じがします。
そこに狩りにやってきた一行は、いきなり20世紀初頭?のような、簡素な服装。男性はオレンジの燕尾服、女性もシルクハットをかぶって、グレーベージュの長いフレアースカートのスーツ、ネクタイ姿。

王子のフィリップ・バランキエヴィッチは‥‥それなりに素敵だし踊りも悪くなかったと思うけれど、なぜかあまり覚えていないの。(ごめん!)この登場の瞬間はやっぱり夢見るような王子様であってほしいんだけど、狩りに連れまわされて疲れちゃったような王子でした王子が一人になった所でリラの精と妖精たちが登場します。妖精たちはひざ丈のスカート付きレオタードみたいな簡素な衣装で、色も淡い茶色地のすそに枯葉模様が描かれたようなかなり地味な感じ。

リラの精は王子にオーロラの幻影を見せます。枯れ木の中にひっそりと咲いているバラの花のような姫に王子は一目で恋におち、妖精たちの間に見え隠れするオーロラ姫を追っていきます。このあとが普通長くて、王子とリラの精がゴンドラに乗ってはるかかなたのオーロラの眠る城に向かう場面があったりしますが、ここの場所自体がオーロラが眠っているその場所だから、場面転換はいらないのです。場所はそのままで、時間軸だけが動いているという設定になっているのです。時折ライトの加減で回廊の正面奥の人々が眠っているところが見えるのですが、何と、かぶせた薄布の下に、じっと動かないけれどちゃんと人がいる!この2幕の間中、ずっとこの姿勢で動かないで控えていたのでしょうか?すごく大変そう!

カラボスが現れ、また一暴れ。今度は手下も大活躍。大きな黒いマントで王子をぐるぐると巻き付け、執拗に苦しめます。王子は情けないけどやられる一方。(もっと頑張れ!)王子がへたっているところをまたもリラの精に救われます。リラの精がカラボスの相手をしているうちに、王子はテラスの奥へ行き、オーロラを見つけます。こちらがリラの精とカラボスの戦いに気を取られているうちに、王子は奥から姫を抱き上げてきて、オーロラはめでたく100年の眠りから目覚めたのでした。

そのあとちょっとびっくりしたのが、眠りから覚めた王様、王妃様、式典長などが、まるで玉手箱を開けた浦島太郎のように、ぼうぼうの白髪頭だったこと!これは一体どういう意味なんでしょうね?100年の眠りのリアルさを追求?他の人もそうだったのかな?あんまり不思議だったのでついオペラグラスで追いかけて、ほかの人は見逃してしまいました皆様、じっと我慢でお疲れ様でした!

第3幕 ~オーロラの結婚式~
ストーリーはここまでで、あとはお楽しみのディベルティスマン大会。これがまた楽しかった~。舞台はプロローグからずっと同じ場所。背景の枯れたような色の木々はそのままですが(紅葉?)夜の、たくさんのキャンドルや松明の明かりのような暖かい色調の光に照らされています。正面テラスの上には赤い垂れ幕がかかり、その前に玉座が置かれ、華やかな宴が始まるのです。

白髪頭になってしまった人々は皆元に戻り、今度は全体的に重厚で濃い色調の衣装を着ています。冬の暖炉の傍のような、そんな色合い。先の4人の王子たちも、衣装がちょっとグレードアップして登場。他にもいろいろな仮装をした人々が入ってきます。シンデレラ、ピエロ、白雪姫と小人たちなど、衣装を見ているだけでも楽しい。

その中でも最初の宝石の踊りが面白かったです。色鮮やかなショーガールのようないでたちのルビー、サファイア、エメラルド、アメジスト。そしてそれを束ねている虹色のハーレムパンツ姿の「アリ・ババ」。このアリババ役のアレクサンダー・ザイツェフがすごくかっこよくて(王子よりも!)もうぼーっと見入ってしまいました。踊りはダイナミックで、グランジュテなどは浮き上がったまま静止しているよう。こんな人がいたんだ~素敵でした

長靴をはいた猫と白い猫はとてもユーモラス。白猫が長靴猫の頭をバシっと音がするくらい本気で叩いているの。時折笑いも起こって楽しかったです。青い鳥のグラン・パはヒョー=チャン・カン(東洋系の顔立ちの人)とアレクサンダー・ジョーンズ。ジョーンズのほうはソリストですが、ヒョー=チャン・カンはプログラムに写真が載っていないのであれ?と思ったら準ソリスト。(そういえばリラの精のミリアム・カセロヴァは何とコールドバレエの人です。大抜擢だったんでしょうね。)赤ずきんちゃんはちょっと年のいった赤ずきんちゃん?オオカミはかぶりものではなく、メイクでした。

そしていよいよオーロラと王子のグラン・パ・ド・ドゥ。白地に花模様のとっても可愛いペアルックの衣装なのですが、王子の似合わなさ加減といったら‥‥ というのも、バランキエヴィッチという人はいわゆる純粋な「白王子」ではなくて、ほかの回ではカラボスを踊っているくらいの人なので、こういうばかばかしいほどかわいらしい衣装はまるで似合わないの。

一方アマトリアンのほうは、幅広い演技ができる(たぶん)人ながら、古典のお姫様としても本当に可憐で愛らしいのです。アダージョは3回のフィッシュダイブがある華やかなヴァージョン。最初不調のようだったアマトリアンが心配でしたが、見事踊りきりました。ほんとに、速い回転のあとでも何事もなかったようにふわっと優雅なフィニッシュを決めたり、その音のとりかた、腕や手先の使い方などが美しくて見とれてしまいました。

カラボスは、この版では滅ぼされたのではなく、最後までちゃんと共存しています。予言を実現することができずに、くやしそうに回廊の上からこのフィナーレを見つめていますが、人々の幸せな顔、愛の力には勝つことができずに去っていくのでした。

以上、何か今回は舞台や衣装のことばかりになってしまいましたね。とにかく色彩が淡いパステルカラーから濃い重厚な色調まで順々に変わって、まるでマジックのようでした。場所はずっと同じ場所で変わらないのに、時間軸の経過に従って変化していく衣装やその場の様子。そういう趣向がとても面白かったです。

踊りは全体的に、プティパの元振付を柔らかくしたような感じに見えました。踊りもまた時の流れとともに変わっていき、最初の妖精たちの踊りは古いおっとりとした時代を表わすように簡素で優雅なのですが、3幕の宝石になるととても複雑で早いステップが入って、まるでショーダンスのよう。そんな変化も楽しむことができました。

普通の「眠れる森の美女」は、青い鳥と王子ぐらいしか男性の踊りの見せ場はありませんが、このハイデ版では最初の4人の王子もそれぞれソロの踊りがあるし、とにかくカラボスの跳ぶわ回るわの大活躍がすごかった~。さらに3幕では「アリ・ババ」のダイナミックな踊りもあり、男性の踊りがとても見ごたえがあって楽しかったです。

また、カラボスを女性とし、それを男性が踊る設定は「歌舞伎をヒントにした」とありましたが、歌舞伎の影響があるとしたら「女形」というよりも「悪」の扱い方ではなかったでしょうか?歌舞伎では得てして正義よりも「悪」がかっこいい。歌舞伎は庶民のものですから、「悪」は権力への対抗として扱われ、「悪」の美まで存在するわけです。

カラボスは「悪の美」とまではいかないまでも、エネルギッシュな「悪」のパワーを表現して、リラの精たち「善の妖精」に対抗しています。そうすることで甘いおとぎ話の世界を、ちょっとドキドキする一味違ったものに変えていますよね。この夏に見たABTの「白鳥の湖」のロットバルトのように、バレエに「美しい悪」が存在するのもまた魅力的なのではないでしょうか。(こういう感覚はキリスト教世界にはあまりなかったのかな?)とにかく、よかった~また機会があればぜひ見てみたいと思える「眠れる森の美女」でした。

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