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2008年12月13日 (土)

ボリショイの「明るい小川」

「ドン・キホーテ」「白鳥の湖」と見てきたボリショイの、三つ目の演目は「明るい小川」です。今まで聞いたこともありませんでしたが、これはソヴィエト時代に新しいバレエとして創作されたもので、プログラムによると何と初演は「レニングラード・マールイ劇場」と書いてあります。それってもしかしていまのレニ国?

半年後にボリショイでも上演されたけれど、すぐに共産党機関紙によって批判され、その後上演されなくなってしまいます。その「明るい小川」が2003年、現ボリショイバレエの芸術監督ラトマンスキーによって67年ぶりに再演され、現在のボリショイのレパートリーになったということです。開演前にラトマンスキー氏のプレ・トークがあったそうですが、残念ながら知らなかったので逃してしまいました。

幕が開くと、内側の白い幕に何やらロシア文字が書いてあります。これだけでつい引きそうになるかなり異様な雰囲気。鎌とハンマー?何かなと思ったら、旧ソ連の国章でした。周りに書かれていたのは「コルホーズの女性は偉大な力だ」などといういかにもなスローガンのほか、「バレエのまやかし」などと、かつて批判を受けた共産党機関紙の見出しなどが書かれていたそうですよ。

舞台は一面の黄金色。金色に実った麦畑(収穫のあとの麦束?)でしょうか?よく見ると野菜や果物も描かれています。序曲とともにミニチュアの飛行機が飛んだり、汽車が走っていったり。いきなり普通のバレエとは違った光景。プレ・トークでラトマンスキーさんは「登場するのは妖精や王子などではなく、皆さんと同じ普通の人間ですから、親しみを感じてもらえると思います。」というようなことをおっしゃっていたそうですが、バレエファンには飛行機や野菜より妖精のほうが身近なんですけど~

この登場人物いっぱいのごたごたストーリーをごく簡単に書きとめておくにはどうすればいいか?難しいですね。でも、まず中心になるのはこのコルホーズ「明るい小川」村の住人で、農業技師のピョートル(イワン・ワシーリエフ)とその妻ジーナ(アナスタシア・ゴリャーチェワ)の二人です。収穫を終えた村に、都会から収穫祭のための芸術慰問団(といっても3人だけなんだけど)がやってきます。ピョートルとジーナは他の村の人々と共に駅に出迎えにやってきたのです。

やがて汽車が着き、降りてきたのがバレリーナ(ナターリヤ・オシポワ)とそのパートナーのバレエダンサー(セルゲイ・フィーリン)、そして踊りの伴奏をするアコーディオン奏者(岩田守弘)の3人。ふと見るとそのバレリーナは何とジーナのバレエ学校時代の同級生でした。ジーナはピョートルと結婚してこの村で働いているけれど、もとはモスクワでバレエを学んでいたのです。そのことをピョートルは全く知りません。

収穫を祝う前夜祭、彼らの歓迎もかねて村人たちが踊り、バレリーナたちも踊りを披露します。このとき、何とピョートルはバレリーナにボーっとなり、さっそくナンパしている!ちょっとむかつくジーナ。一方、なぜかおかしな別荘住人という初老の夫婦がいるのだけれど(なぜ共産主義の農場にこんな変なプチ・ブル?っぽいキャラがいるのかわからない)その夫がバレリーナを、若づくりの妻がパートナーのダンサーを見染め、それぞれこっそりデートに誘ったりしている。

ジーナとバレリーナたちは一計を案じ、ジーナは仮面をつけてバレリーナになりすまし、バレリーナは男装してパートナーのダンサーになり、そのパートナーは何と女装してバレリーナになって浮ついた奴らを懲らしめてやろうという、つまりはドタバタコメディなんですね。

片や、アコーディオン奏者は、花束を持って出迎えてくれたかわいらしい女学生のガーリャ(クセーニャ・プチョールキナ)に本気で迫っています。ガーリャが不安そうに打ち明けると、トラクター運転手が犬の着ぐるみを着て一緒に行くことになって一件落着。

夜になり密会の場でそれぞれのコミカルなやり取りが繰り広げられ、浮気な人々がさんざんからかわれたあとに、収穫祭の賑やかな踊りが始まります。バレリーナと思って自分の妻を懸命に口説いていたピョートルはジーナに平謝りでハッピーエンド。まあ、かいつまんでいうとそんな他愛のないストーリーです。

だけど、これだけたくさんの登場人物の個性がぶつかり合い、それぞれが生き生きと輝いていて、まさに人間賛歌。それはみんな均一の労働力として歯車のように扱われていた共産主義への、明るく楽しい風刺劇だったのかもしれません。

ジーナ役のゴリャーチェワは小柄でかわいらしい人。「白鳥の湖」でもパ・ド・トロワを踊ったり、ナポリの王女役で鳴らないタンバリン持って踊っていて目につきました。本が好きでおとなしく控え目なジーナ役がとてもよく似合っています。

一方バレリーナは、復活初演のときはアレクサンドロワだったそうですが、そのアレクサンドロワのキャラクターそのものの元気で活発な役柄。オシポワもキャラとしてはぴったりですが、あとで男装したときは、ああアレクサンドロワの男装の麗人はかっこよかっただろうな~と思ってしまいました。男性のパを踊るので、もちろんオシポワはばっちりでしたが、迫力という面ではやっぱりアレクサンドロワのほうがはまっていたのだろうなあ。

でも、ジーナとバレリーナの仲良し二人がまるで双子のように同じパを並んで踊るところがたくさんあるんですよ。ゴリャーチェワとオシポワは体型も似ているし、ほんとにそこがぴったり息が合って一つの見せ場をつくっていました。おみごと!でした。アレクサンドロワだと対抗できる人がいないかも

ピョートル役のワシーリエフくんはおとぼけ役もうまくてかわいい相変わらず明るい青春オーラ満開です。バレリーナと思って自分の妻を誘惑するなんて、なんておバカな役。情熱的に踊ったあとは熱いキスでおやおや 帰りがけに話していた人の話(立ち聞き)では、前日のメルクリエフはここでキスなんかしていなかった‥とでも、思いがかなったあとに3回ぐらいガッツポーズを繰り返していたのが何ともかわいかった。私の好きなタイプとは違うけど、この子好きだわ~(あくまでも応援モードで。うちの息子と二つしか変わらないんだもの19歳だって…)

今回、ゲスト出演だったセルゲイ・フィーリンは、再演当初からの役。1幕ではバレリーナと素敵なパ・ド・ドゥを踊りますが、2幕では何とポワントを履いて、自転車の後ろに乗ったり、グランディーバ顔負けのコミカルな踊りを展開したりします。最初、回転の時にはドゥミで回っていたので、やっぱり本職?のグランディーバには勝てないかな?と思っていたら、最後の何回かは見事ポワントで立って回っていました。ちゃんと甲も出ていました。どちらかというとカマっ気はなく、男っぽいフィーリンのバレリーナ姿は逆の意味でおかしさ満点でしたね~。

そして岩田さん。前日テレビで放映された、その番組中で猛練習をしていた「アコーディオン奏者」の踊り。とび職のようなニッカーボッカー(というのか?)パンツで、ちょび髭‥‥テカテカリーゼント(というのか?)はまるで一昔前のヤンキーだわ‥‥それがコミカルだけれど真剣にねっちりと迫ってくるのが結構コワい。だけど肝心なところになると、着ぐるみの犬に追いかけられてびっくりして木に登る‥‥じゃなくてベンチに飛び乗る!そんな姿、かなり笑わせてもらいました。踊りは本当に音楽にコンマ1秒までピタッと吸いつくようで、あの難しいショスタコーヴィチのキラキラした音楽が完全に身体の中に叩き込まれているよう。超一流のアコーディオン奏者!ブラボーでした。

笑っていたらあっという間に終わってしまった楽しい舞台でした。あれだけどうでもいいストーリーでドタバタ劇が展開しているのに、一人一人のきっちりとした高い技術の上に成り立っているから、ちっとも厭味がなく下品にもならず、素直に楽しめるいい演目でした。だけどこれ、また見る機会ってあるのかな?ボリショイは3年に1回ぐらいは来るだろうけれど、まだまだ上演してほしいレパートリーはたくさんありますよね。どんなものかわからなかったので迷っていたけれど、やっぱり見てよかった。本当にもう多分日本では見られないとても貴重な機会、この演目、このキャスト、まさに一期一会だったと思います。

今回のボリショイ公演、本当に楽しかった~ 一昨年、マリインスキーも「海賊」「白鳥の湖」と見ましたが、同じロシアバレエでもマリインスキーの優雅さに比べ、ボリショイはエネルギッシュというのがよくわかりました。男性のイケメン率高し。一人一人の技術水準もすごいし、第一マリインスキーのようなトンデモプリマ(あの子、プリンシパルに昇格したそうですが)は一人もいませんでした。マリインスキーのほうがどちらかというと親しみがあったけれど、もしかしたら私、このボリショイのパワー、大好きかも!グダーノフ王子という素敵な王子も発見できたしとにかくよかったです。‥‥もう十分、満足でした。

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