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2008年12月17日 (水)

東京バレエ団「ザ・カブキ」

食わず嫌いのベジャール作品でしたけど、見てきました。12月14日は赤穂浪士討ち入りの日。そう思うとなかなかいいものですね。「くるみ割り人形」みたいに毎年恒例にすればいいのに、なんちゃって。

「討ち入りペアシート」で半額‥「歌舞伎ファンの方にもぜひ」というメールの宣伝文句がちょっと受けてしまい、歌舞伎ファンの目にはどういうふうに映るのか興味がありました。でも、私はやっぱりバレエ好きなので、バレエを見る目で見てしまいました。あとで歌舞伎好きの友人にプログラムを見せたら、やっぱり舞台が簡素で、照明も暗そうだし、くま取りやカツラがないのが物足りないと言っていました。表現方法はともかく、まずあの歌舞伎のぱあっと明るい舞台や、華やかな衣装、派手なカツラやくま取りが、歌舞伎の持つ重要な要素なのかもしれませんね。歌舞伎ファンにはそれがまず「ザ・歌舞伎」なわけですから。

大体、私は「仮名手本忠臣蔵」を全部は見ていません。それも、あっちの場面、こっちの場面と細切れには見たことがあっても、その間何年もたっているのでつながりもわからないし、ほかの「元禄忠臣蔵」や「十二刻忠臣蔵」、「松浦の太鼓」などが頭の中でごちゃごちゃになっています。おまけに大河ドラマだの、お正月の12時間時代劇だのが入ってくると、大体の筋はわかるけど、エピソードなどはどこのものだったかとても思い出せません。

ちょうど10月に平成中村座で通しを上演していましたよね。あれを見ていれば頭の中の整理がついたのでしょうが、あれは確かAプロからDプロまであって、いろんな組み合わせで見せていたので、どれを選んだらいいかわからず、ちょっと敬遠してしまったのです。2回ぐらいで全部を網羅できるようにしてくれていたら見たのに‥‥なんて、もう遅いですね。

その長く膨大な忠臣蔵の世界を2時間で駆け抜けるバレエ。86年に初演されて以来、海外15ヵ国、通産160回以上の上演を重ねている東京バレエ団の代表的な演目だそうですが、私は今まで見たことがありませんでした。何かうさんくさそうで敬遠してたけど、見てしまえばそれなりに面白かったです。ちゃんとストーリーがわかったし、ほとんど忠実に物語を再現していました。

最初は「ザ・カブキ」なんて大仰なタイトルがいけすかなくて、「ザ・忠臣蔵」ぐらいにしておけばいいのになんて思っていたけれど、やっぱりそうじゃなかったですね。忠臣蔵のストーリーを借りてはいるけれど、表現するものは明らかにそこからはみ出しているのです。それは外国人から見た日本人のイメージかもしれないけれど、それを改めて日本人ダンサーによって見せられて、ドキッとしました。

一番の圧巻はやはり結末の集団自決シーンでしょう。歌舞伎では表現できてない「何か」があるとすればそこです。それは江戸時代ではなく、武士が滅びた後も(明治~戦時中)日本人の中に残っていた昇華された武士道のようなもの。戦時中に日本人はそこをいたずらに鼓舞され、間違った道に進んでしまいました。あれだけ集団ヒステリーのように国を挙げて破滅に突き進んだのも、人々の中にそういう精神が残っていたからだと思います。
(これは一般論ではなく、あくまでも私が感じただけのものです)

戦後、その部分は悪いものとしてまず進駐軍によって塗りつぶされ、その後の教育によっても長い間封印されてきました。特に被害を受けたアジアの国々からは今でも攻撃され続けているわけです。でも、全部あっけらかんと忘れてしまったような現代の日本人のDNAのどこかにも、武士道というか、忠誠心というか、そんな精神の記憶は残っているかもしれない。これは突然それを呼び起こされた若者たちの物語なのだと‥‥勝手に解釈しました。

最初の場面は現代の都会の大きなクラブか何か?たくさんのモニターにいろんな映像が映し出され、大音響の音楽でヒップホップのようなダンスに興じている若者もいれば、ただ無気力に群れる若者もいる。そのグループをまとめるリーダーが、ふとそこに一振りの日本刀を見つける。その刀に手を触れた瞬間、一瞬にして若者たちの頭脳に電撃が走り、さまざまな映像が流されていたモニターは、全部日の丸に変わっていた。何この演出?すごっ。右翼チック。

それはまるで眠っていたDNAのスイッチが入れられたように、現代の若者たちは室町時代か江戸時代か?架空の時代にタイムスリップしていったのでした。あとは忠臣蔵のストーリーが展開していきます。

兜改めで高師直が塩冶判官の奥方の顔世御前を見染め、言い寄るが相手にされない。怒った師直ははらいせに塩冶判官にねちねちと意地悪をする。判官はこらえるが、我慢しきれなくなり刃傷に及ぶ。そして切腹を命じられる。Imgp6643

前半で美しかったのはこの切腹シーン。どう見ても初日がファーストキャストだよね。首藤さんの判官、ちょっと見たかったかな。でも、東京バレエ団って何年たっても同じ人ばかり出ていて、何だかそんなに見ていない私でもいいかげん違う人も見たいって思うくらい!‥‥一体どうしてなんでしょうね。(だから初日は避けた)もし、この中に去年「カルメン」で一目惚れ?した大嶋さんでもいれば、今頃東京バレエ団通いをして、オペラグラスで大嶋さんを追っかけていたかもしれませんが‥‥そういう実力のある中堅どころの人が出番がなくて外に出て行ってしまう。そういうバレエ団ってちょっと淋しいと思います。

話がそれましたが…。顔世御前が能面のように無表情のまま、白装束で桜の枝を持ってすり足で通り過ぎるだけというのが、究極の悲しみの表現のようでちょっとじ~んときました。あとで登場する時はこの桜は散って、枯れ枝だけをずっと持ち続けているのがまた悲しかった。

判官は切腹の作法通り腹に刀を突き立てます。その瞬間、若者のリーダー(後藤晴雄)がかけつけ、なにやら遺言を耳うちされます。そして判官は刀を引きまわして果て(ここ、かっこよかった!)その刀を譲り受けた瞬間、若者は由良之助となります。

短い中におかる、勘平、そしてそれを見つめる現代のカップル、定九郎の話まで盛り込んであって(イノシシも出た!)びっくり。事件は家臣たちの人生も変えていく。そんな中で若者たちが集まり、盟約を結ぶ。この血判状を押すシーンも美しくて印象にのこる場面でした。巻紙を舞台端からぱーっと転がして広げ、そこに並んだ若者たちがウエーブのように血判を押していく‥‥こういう印象的なシーンをつくるアイデアがすごいなと思いました。

印象的なシーンといえば、あの突如現れた赤フン軍団は何だったんでしょうね~。途中ちょっと眠くなったりしたけれど、あれでとたんに目が覚めました。幕前にずらっと並んだフンドシ一丁の青年たち。あの~、一体何考えてるの?(壮観だけど!)それが、お手手つないで端からぐるぐる巻きにひと塊りになっていくのボリショイのイケメン軍団を見たばかりの目には、あの赤フン軍団はかなりイタかったそりゃ、ふだん鍛えているダンサーたちですから、一般の人よりはまあ許容範囲ですけど。何がやりたかったんでしょうね?

歌舞伎では意外ですが素肌を見せることはそんなにないと思います。ばっと肌脱ぎになっても、下には彫りものなどを描いた「着肉」を着ているし、褌姿も奴(やっこ)とかが尻をからげたときに見える程度で、上に何も着てない素っ裸の褌姿って、私の乏しい鑑賞歴だと確か「椿説弓張月」の白縫姫にいたぶられる武藤太ぐらい。雪の中、体に釘を打たれ白い雪に赤い血がたら~三島ワールドですね。

そういえばこの作品にも白地に赤い血というのがたくさん出てきます。ベジャールは三島由紀夫を題材にした「M」という作品も残しているから、単にサムライ、ハラキリというイメージだけじゃなく、三島の世界に共鳴したところがかなりあるんでしょうね。薔薇族?風のフンドシ軍団からそんなことを連想してしまいました。Imgp6644

最後、討ち入りの場面はそれなりに圧巻でした。こんなに男性ダンサーばかりたくさん出演するバレエも珍しいのでは?日本にもこんなにたくさん、バレエやる男がいたんだ~。みたいな変なところで感動。師直の首を打ちとると、どこからともなく面をつけた判官の亡霊が現れ、首を受け取り無言で去っていく。ラストシーンは火事装束のだんだら羽織を脱いだ白装束で、朝日の登る中、47人はそろって切腹して果てる。。。とても早い展開でした。

踊りの面では最後の後藤さんのソロがとてもよかった。やはり由良之助役の後藤さんが踊りは一番よかったです。クラッシック中心の振り付けだったせいかな?ほかは、変な(将軍とか師直とか)ロボットみたいな動きでわけわからん。おかる、勘平も足がフレックスになった変な踊りだったし。それならそれで全部通すのならわかるけど、ときどきクラシックバレエの動きが出てきたりして‥‥。

女性の衣装も、動きやすいように帯がなく、うちかけ状になっていて、着物の裾を黒子が広げたり、衣装を脱いでレオタード姿で踊りだしたり、また黒子が衣装を着せたり、いろんな工夫がされていました。女性はポワントをはいていました。でもやっぱり、着物の下のレオタード姿は何も着ていないように見えてしまって、かなり違和感がありました。

初めて見たけれど、舞台としてはそれなりに面白かったところもありました。でも、やっぱりこの趣味ってどうよ、みたいな‥‥。外国では受けるかもしれないけれど、あくまでもベジャールの見た「ザ・ニッポン」の世界で、これを日本人のダンサーたちが演じ、日本人の私が見るにはちょっとの世界だったかも。

そして、私の一番の興味だった、歌舞伎ファンが見たらどう思うだろうということについては‥‥‥多分面食らったでしょうね!

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