「ミハイロフスキー劇場ガラ」2
≪第3部≫
「エスメラルダ」より(エカテリーナ・ボルチェンコ&ニコライ・コリパエフ)
1部はクラシックの演目で、2部は目玉の「ムーア人のパヴァーヌ」。そしてそれに続く3部は「エスメラルダ」「スパルタクス」と、ちょっとストーリー性のある演目が並んでいました。
「エスメラルダ」と聞いて、実は始まるまでてっきり例のタンバリンを足で打つヴァリエーションのあるグラン・パだとばかり思っていました。それが、あれ?4人のバック付き?‥‥と思ったら、レニ国のレパートリーのボヤルチコフ演出、DVDにもなっているあの「エスメラルダ」でしたね。
一昨年からちょっと目をつけていたコリパエフ君。ことしは「眠り」と「白鳥」で王子役に大抜擢だったけれど、見る機会がありませんでした。なので、ここで見られて幸せ
確かにまだほんの若造で、危なっかしいところもあるけれど、それより何よりかわいいじゃないですか。ヴィジュアル大事ですよ、やっぱり。これからの強力王子要員だと思うのです。心配したほど(前回見たほど)大根じゃなく、ちゃんと演技もしていたと思うのですが。
エスメラルダ役は、20日前、演技力皆無で思いきりがっかりさせてくれちゃったボルチェンコ。どうなることかと思ったけれど、あれ?ちゃんと演技しているじゃない。できるんだ‥‥‥。あのとんでもなく生徒モードだった「白鳥」は一体何だったの?
処刑されそうになっていた詩人を偽装結婚することによって助けたエスメラルダなんだけれど、実はその詩人さんとはお友達以上の感情はなく、ホントは偶然一目ぼれしたフェブ隊長のことが忘れられない。でも、そのフェブ隊長には貴族の婚約者がいて、その婚約式に踊り子エスメラルダが悲しみをこらえて踊るのがこのシーン‥‥‥ということです。何だか「バヤデルカ」のようなお話だなあ~。
コリパエフくんは詩人さんのほう。二人で仲良く踊るんだけれど、フェブ隊長のことが気にかかるエスメラルダ。時折彼がいるということになっている下手側を悲しそうに見つめたりしているんだけど、何かその演技が、悲しいんだか踊るのが嫌なんだか、パートナーの詩人くんが嫌いなのかよくわからない。も~。。かわいいコリパエフくんをそんなに嫌がらなくても!
あとになって、持っていたけどチラッとしか見たことがなかったハビブリナ主演の「エスメラルダ」のDVDを見てみました。そうしたらこのシーン‥‥ハビちゃんが超かわいい
ということを抜きにしても、全然違っていました。もう、エスメラルダは好きな隊長への思いでいっぱいで倒れそうで、ショックでとても踊れないのだけれど、詩人役のクリギンさん(現バレエディレクター)は優しく彼女を励ましながら、心がここにはないエスメラルダと表面楽しげに踊るの。ほんとは自分も決して心中穏やかじゃないはずなのに。
‥‥‥申しわけないけど(ガラということもあるし)そんなドラマはちっとも見えてきませんでした。やっぱり演技力のレベルが違ってました。悲しいほど大根な二人
でも、長身ペアのヴィジュアルはよかったし、コリパエフくんの踊りもまずまずだったし、4人のタンバリン隊の助けもあって、華やかで楽しかったです。
余談ですが、そのDVDは何年か前に発売されたばかりと思っていたのに、かなり前(94年)の映像だったんですね。その解説によるとハビブリナは72年生まれ。ということは現在37歳!え~!?私が99年に初めて彼女の「ジゼル」を見たときはもう27だったんだ!あまりに可憐な容姿で、てっきり当時20歳ぐらいだとばかり思っていました。一昨年までは「くるみ」のマーシャを踊っていたけれど、今は踊っているのかな?私にとって彼女がレニ国で最初に好きになったバレリーナだったので、今シーズン来日していないのがとても残念です。(余談ばっかりになってしまいました
)
「スパルタクス」よりアダージョ(イリーナ・ペレン&マラト・シェミウノフ)
昨年、豪華でスペクタクルな作品として話題になったこのバレエ団の全幕の新作より。これを目玉にしたロンドン公演の成功を収めたことが、ルジマトフの芸術監督としての最初の華々しいお仕事だったというふうに認識しています。
何となく、彼は現役時代にこういう役を踊りたかったんじゃないかな‥‥私も見たかったし!でも、ボリショイならともかく、マリインスキーにはこういう作品に取り組む雰囲気はなくて‥‥よく知らない私がこんなことを言うのもなんですが。ルジマトフという人は「海賊」のアリ、「バヤデルカ」のソロルなどの古典の素晴らしい当たり役があっても、やっぱり自分に合った(あの強烈な個性を生かした)もっと演劇的、現代的な作品にも取り組んでみたかったんじゃないかと。ダンサーと振付家、そしてバレエ団の方針など、いろんなめぐりあわせがあると思うけれど、それが一人のダンサー生命のうちで必ずしもうまくいくとは限らないんだなあ‥‥。まあ、そのおかげで彼は毎年日本に来て、こちらのファンのためにたっぷりクラシックを踊ってくれたわけですけどね。
「スパルタクス」はボリショイ版のDVDが出ていますが、見たことないので、どんなものかよくわかりません。カーク・ダグラス主演の映画は昔見たことが‥(どんだけ昔?)でも、これから反乱軍を率い出陣しなければならない、その別れの場面だということはわかります。
見たこともないようなリフト満載のアクロバティックな振付の中に、二人の愛のきらめき、別れの悲しみなどが織り込まれた、短いけれど息つく暇もなく見入ってしまう作品でした。ペレンもこういう作品ではすごく豊かな感情表現ができるんですね~。シェミウノフとの息も合っていてダイナミックで思いきりのいい踊りを見せてくれました。
「アダージェット」(ファルフ・ルジマトフ)
真っ暗な舞台。あおむけに寝た姿勢から、まず手だけが静かに空中に弧を描き‥‥やがて向こう向きに起き上がり、ゆっくりと右に左に顔を向け横顔を見せる。何度見てもこの瞬間に鳥肌がたってしまいます‥‥。今生まれたばかりの無垢なまなざしのまま、虚空を見つめ、何かを求めてさまよっている。
ところが、間もなくこの世は自由や憧ればかりではないことがわかる。後ろに回って自由にならない腕。重い苦しみから解き放たれようとあがけばあがくほど深みにはまる者のように。宿命?絶望?ねえ、何でそんなに悲しそうな顔?
でもやがて、一瞬何かが落ちたように、軽やかに飛翔し始める。後ろ向きに腕をはばたかせ、アントルシャを繰り返す姿は、必死で何かを求める姿のようにも見える。一筋の光を見、そして、その光のもとに行ったのか、または力尽きてその場に残されたのか、静かすぎるラストは多くを語ってくれない‥‥‥。
以前見た時は、ダンサー・ルジマトフの見事な筋肉の、一つ一つの流れるような動きが信じられないほど神々しく見えて、こんなに美しい人間の肉体ってあるのだろうかと思ったくらいでした。年月を経ても、相変わらずの鍛えられた素晴らしい身体だけれど、何というか、もっと昇華された何かを今回は感じました。生々しさが薄れ、見ている者も一緒に同じ光を希求して舞台上をさまよっていたような‥‥‥なんて意味不明な感動~。
だけど、踊りってやっぱりそのダンサーの精神性までも、そっくりと映し出してしまうものなのだと思います。ダンサー・ルジマトフが歩んできた道のり。その上に今があり、そしてこれからがまた続いていく。彼が日本でこの演目をまた踊ってくれて、今のありのままの姿を見せてくれた。それだけで涙が出るほどうれしかったです。
しばらくこの感動の余韻を味わっていたかったのに‥‥ガラですから、すぐ次の演目が容赦なく始まってしまいます。それも「海賊」の3幕の花園なんて、何てまあノー天気な演目!この感動のあとにあんなラブリーな、ピンク・ピンク・ピンク
の場面なんか見たくないよ。も~このまま帰っちゃってもいいわ!‥‥と思ったけれど、とんでもありませんでした。帰らなくてよかったよ![]()
「海賊」第3幕より花園の場~第2幕より(シェスタコワ、ミリツェワほか)
花のアーチを持ったコールド、例の大きい二人と小さい二人、シェスタコワのメドーラ、ミリツェワのギュリナーラ。ラストは本当に華やかな「海賊」の一場面でした。そしてそれが終わるや、すぐに2幕のパ・ド・トロワの音楽が‥‥そのあとは前に書いたとおりの興奮の坩堝でした!
もうあれから1週間もたっているのに、まだ思い出して時々にこっとしてしまう薄気味の悪い私
あとで冷静に考えたら、あれはサプライズなんていうより確信犯。だって、あのためにわざわざアリの衣装をトランクに入れて日本に来てくれたのよ
いや、もしかして、黄金の奴隷やソロル、アルブレヒトまで全部一式持ってきてたかも?と思うほど踊る気満々じゃなかったですか?‥‥‥それに、こんなにミーハーファンのツボを激しくプッシュする人だったっけ?今まで期待を裏切って、カーテンコールなどには一切姿を見せなかったルジマトフ。それだけに、こんな爆発する姿を見られてホントに狂喜乱舞でしたね~。(すみません、思いきりバカです
)
今まで、冬は全幕公演と決まっていたレニ国のツアー。新しい試みの「ミハイロフスキー劇場ガラ」は、本当に新生ミハイロフスキー劇場の「今」を見せてくれたと思います。また来年もぜひこんな素敵な公演をやってほしい。そして、そして私にとっては大本命の人を見ることができ、さらに思いがけず、もう見られないと思っていたアリ姿も拝むことができました。幸せ~
ファン冥利に尽きる舞台でした。













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