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2009年7月 5日 (日)

新国立劇場 「コッペリア」

先週、2月の「ライモンダ」以来の新国立劇場に行ってきました。去年は「カルメン」「アラジン」「シンデレラ」と見たし、最近は割と、私にしては新国、見ているほうです。会場の大きさもそんなに大きすぎず、後ろの方でも見やすいというのがいいところ。オーチャード・ホールや国際フォーラム・ホールAなどは「これでS席??」と言いたくなる、遠い遠い席までSであきれてしまいますよね。それから、新国は前の方でも傾斜があるので(フォーラムAなんか、11列目までまっ平よ!)人の頭が気になることもなくて見やすくて好きです。また、ゲスト公演でもチケットの値段は同じで、割安感があるのもうれしいです。Img

またまた大分時間がたってしまいましたが、29日にタマラ・ロホ&ホセ・カレーニョで、ローラン・プティの「コッペリア」を見ました。プティ作品は昔、熊哲とデュランテの「カルメン」と、テレビで「ノートルダム・ド・パリ」、あとは小品をいくつか見た程度でしたが、何となく敬遠気味でした。それでも、この「コッペリア」は古典を下敷きにうまく構成してあり、小粋でおしゃれな雰囲気もあって面白かったです。

≪第1幕≫
まず、舞台がとてもシンプル。1幕の街の広場は、普通の、スワニルダの家とコッペリウスの家が左右に向かい合っているような舞台ではありません。何か都会の路地裏のような雰囲気で、グレーの石造りの建物が正面にあり、上手に小さなドア、そして石のバルコニー(というより、ちょっとコワイ、落っこちそうなところ)そこがアパートのコッペリウスの部屋のようです。一般的な「コッペリア」に比べるとずいぶん無機質な感じがします。

正面の建物は兵舎なのか、その右半分からぞろぞろと同じ制服姿の兵隊さんが出てきたり、左半分からはピンクやブルーグレーのロングスカートの街の女たちが出てきます。街の女たちは頬に赤い丸を描いたおふざけメイクで、まるでフレンチカンカンみたい。スワニルダのお友達6人はボディ部分が花柄のチュチュ姿で、ロングスカートの女性たちに比べると、ちょっと若い女の子、という感じです。

チャルダッシュは、ここでは兵隊さんたちとドレスの女たちの踊り。これが、生身の人間というよりまるでお人形さんのような、人形劇を見ているような踊りなんですよね。あれをきっちり正確にそろえて踊るのは大変だと思います。それがすごく楽しそうで、踊りもピタッとそろっていて、こういうのって新国バレエ団の得意技かなと思いました。珍しく群舞に対する拍手がすごかったです。

街の人たちがおもちゃの兵隊とフランス人形のようなのに、なぜかバルコニーの正真正銘人形(人が人形を演じているのではなく、本物の人形)のコッペリアは、逆にドキッとするほどリアルでなまめかしい。黒いチュチュと赤いリボン、赤い唇が印象的。時折ぜんまい仕掛け、というよりラジコン?のように扇が動いたりします。

そう、主役の二人は‥‥タマラ・ロホのスワニルダは、めちゃくちゃ気が強そうな感じがしたけれど、意外にもかわいらしく素敵でした。カレーニョのフランツも、しょうもない浮気者なんだけれど、本人のどこか生真面目そうな雰囲気もあって、なかなか憎めない好青年になっていました。この二人のやり取りに、普通はマイムが多く使われるのだけれど、プティの振付けは踊りとマイムとに分けずに、マイムの部分も全部踊りに組み込まれていて、踊り=言語のように延々と続きます。スワニルダが麦の穂を持って踊る部分の曲が、二人で踊るパ・ド・ドゥになっているのだけれど、ここで二人の関係がはっきり見えるのです。

スワニルダはフランツが好き。何とか振り向いてもらおうとしますが、フランツはバルコニーにいるコッペリアの方に気を取られっぱなし。せっかくいいところまでいくのに、フランツにがくっとはずされます。そしてやきもちやきっぽく怒ってみたりするのですが、そういうやりとりがパ・ド・ドゥの中に表現されていて、ちょっと面白い。

そして、二人を見つめるコッペリウス。ルイジ・ボニーノのコッペリウスは、普通の偏屈な老職人とか、うさんくさい老科学者?ではなく、洒落者で上品な紳士といったところ。展開は同じように、若い兵隊たちにからかわれたりするうちに、部屋の鍵を落としてしまいます。そして、そのカギを拾って、スワニルダたちはコッペリウスの部屋に忍び込み‥‥一方フランツはコッペリアのいるバルコニーへ。こちらは梯子なんかかけたりせず、直接ロッククライミングみたいに壁をよじ登っていく!のでした。

≪第2幕≫
コッペリウスの部屋に忍び込んだスワニルダと友人たち。部屋の中はがらんとしているのだけれど、正面の棚には不気味な人形のパーツが‥‥。スワニルダたちがコッペリアを見つけ、こわごわ近づいてみると、それは何とスワニルダそっくりにつくられた人形でした。そのあと、コッペリウスが帰ってきて、みんな逃げていき、逃げ遅れたスワニルダはコッペリアのあった場所に隠れるのです。

実は、コッペリウスは近所に住む若いスワニルダに恋していたのか?そんなアクションも1幕にはありました。それが古典にちょこっとスパイスを加えている感じがします。それで、コッペリウスはスワニルダそっくりの人形をつくって、夜毎テーブルをしつらえ、キャンドルに火をともし、自分は黒いフロックコートに盛装して、人形を相手にシャンパンを飲んだりする秘かな生活を楽しんでいたのです。このろうそくの火も、シャンパンも本物。舞台上でシャンパンをポンと開け、ビシャビシャこぼれるのもおかまいなし。1幕の街の人たちはお人形のような動きで現実感なく踊るのに、こういうところはすごくリアリティがあるのです。

そして、シャンパンを二つのグラスに注ぎ、コッペリアにも飲ませ、丁寧に口元をぬぐってやるコッペリウス。さらに、人形と一緒にワルツまで踊っちゃう!‥‥おしゃれ、というか、おかしいけどよく考えるとすっごく不気味ですよね。超キモいオヤジ!

この「時のワルツ」の曲を使ったコッペリウスと人形コッペリアの踊りがまた面白かった。よく見ると肩に斜めに人形を支えるひもが掛かっていて、足と手もゴム紐のようなものでコッペリウスの手足にくっついているんだけれど、それが時にリアルに、時にあり得ないような動きをして、すごく面白かったです。結構長く、終わりの方はかなりのスピード感もあって、びっくりするくらい。ここが一つの見せ場だったのかな。人形とボニーノさんに拍手!

そのあとはフランツが忍び込んできて、眠り薬の入った酒で眠らされ、ふとした思いつきでフランツの生気?を人形に移そうという秘術?を始めるのは同じ。人形に化けたロホが本当に人形みたいで、大きな瞳を見開いたまま瞬きひとつしないのがまた驚きでした。

人形のふりをしてコッペリウスの魔術につきあうスワニルダと、本当に人形に命が宿ったと喜ぶコッペリウス‥‥それも古典と同じ。コッペリウスの部屋にはコッペリアのほかには人形は見当たらないのだけれど、ちゃんとスペイン風の踊りと、スコットランド風?の踊りも踊り、この場面はいつも感心するけど、スワニルダの独断場ですね。演技達者のロホが過剰演技にならずに、ごく自然に演じていたのがかえってすごかったです。

でも、だんだんとつきあうのも面倒になって、早くフランツを助けなければと思うスワニルダは本性を現します。無残にも衣装を脱がされたコッペリアを見て、フランツは本当に自分が好きだったのはスワニルダだったと悟り(?プログラムにこう書いてあった。ずいぶん調子いいのね)二人手をつないで逃げていってしまいます。残されたコッペリウスは、部屋の中をめちゃくちゃにされた上に大事な人形まで壊されて呆然。

古典では3幕になりますが、ここで場面転換があって、もとの1幕の広場になります。街の女達と兵隊さんたちが踊る中に、今逃げて来たばかりのフランツとスワニルダが加わって大騒ぎのうちの大団円。そう、あけぼのとか、祈りとか、仕事とかいうディベルディスマンは一切ありませんでした。まあ、鐘落成のセレモニー自体がないわけだから必要ないといえば必要ないですけど。

スワニルダとフランツのパ・ド・ドゥは、通常スワニルダのヴァリエーションとして踊られる曲だったかな。そのあとすぐにコーダになり男女のヴァリエーションはありませんでした。でも、それまでも結構主役二人が踊る場面があったので、もの足りない気はそれほどしませんでした。

ロホはスタイルはそれほどよくないので、新国のメンバーの中に入ってもザハロワほど飛びぬけて目立つことはないのだけれど、やはり「押し出し」というのか、そういうものが強く、確かなテクニックも加わって、ちょっと小柄にもかかわらずどっしりした存在感を感じさせました。

カレーニョはもう、よく飛びよく回る。それも一生懸命というのではなく、軽~くやっている感じなのに、一つ一つが丁寧だし、正確なのがすばらしい。もうかなりベテラン?マラーホフと同じくらいだと思うけれど、全然まだまだ大丈夫!という感じがしました。大柄で、どちらかというとがっちり体型なのにちっとも重く感じない。何年か前に見たゼレンスキーもそうだったなあ~なんて思い出していました。ゼレちゃん、あなたは今いずこ??

スワニルダとフランツもおさまるところにおさまってめでたしめでたしなのだけれど、最後、お祭り騒ぎのような喧噪が去ったあと、舞台の片隅で、壊れた人形を抱えているコッペリウスに、ちょっとホロッときてしまいました。それまでのスピード感あふれた展開が、ここでちょっとしんみりするのです。若さという特権を持った連中に置いてきぼりをくった初老の紳士。何だか自分も置いてきぼりを食うほうの年代になってきているので、こんなせつない終わり方は涙が出ちゃうsweat02

ボニーノ演じるコッペリウスは、粋でおしゃれだけれど、何だかいじらしいんですよ。そりゃ好きな女の子そっくりの人形なんかつくって、夜ごとダンスをしたりするのは変態っぽいけど、それは孤独で気ままな彼の生活の中だけのことで、誰にも迷惑はかけていない。それなのに、若いというだけの奴らにその甘い生活をめちゃくちゃにされ、大事な人形まで壊されて、おまけにひそかに思いを寄せていたスワニルダには見事振られちゃって、もう踏んだり蹴ったり。でも、それが哀れっぽくならないで「ホロリ」程度に笑い飛ばせちゃうのは、ボニーノの演技ならではか、この作品の持つエスプリ?なんですね。

そう、古典の「コッペリア」は、スワニルダが性格悪そうで、余り好きではありません。踊り満載で音楽も楽しいし、バレエということでは面白い作品なんだけれど、その根底にあるものを思うと不気味だったり、残酷だったりします。何で孤独な老人を偏屈だというだけでいじめるのか。音楽もダンスもひたすら明るいけど、そこには若さのもつ傲慢さにあふれています。その辺が、プティ版ではコッペリウスのリアルで暖かい生活ぶりと、まったく現実味がなく、コッペリアよりも人形っぽい街の若者たちとの対比によって表現され、ちょっぴりのアイロニーも感じられます。

それから、ほろ苦い結末も、古典版の、お金をもらってまあいいか‥みたいな終わり方より、ずっと心に残りました。ピーターライト版の、最後に奇跡が起こるようなファンタジーでもない、酷な現実のまま‥‥こんな「コッペリア」もあったのね~。最後、一人たたずむコッペリウスに、ちょっと涙しながら感動してしまったのでした。

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