バレエ大好き2010前半

2010年6月12日 (土)

トロカデロ・デ・モンテカルロバレエ団(6月9日Aプロ)

100610_084501 1ヵ月半に及ぶ日本ツアーの初日を見てきました~ トロカデロ・デ・モンテカルロバレエ団は言わずと知れた男性によるコメディ・バレエ団です。私はもちろん見るのは初めて。普段バレエは一人で見に行くことが多いのですが、この日はお友達に誘われて行きました。多少興味はあっても、誘われでもしないとなかなか見る勇気はなかったでしょうね

同じ男性のバレエ団で、グランディーバのほうは一昨年見ましたが、そのとき男性コメディ・バレエに対する認識が変わりました。同様に、このトロカデロのほうも、やはり相当に高度な技術に裏打ちされた上での面白さなのだということを実感しました。

男のバレエというとすぐ思い浮かべるのは‥‥実は、昔仕事場の人に連れられて行った新宿の某ショーパブ‥‥今もあるようですが、あれは本当にびっくりしましたね。まだバレエなんて全然知らないときで、あれはトウシューズで踊っていたのか、どんな踊りだったのか、全く覚えていないのですが、すごく珍しいものを見たということだけは覚えています。そのときのダンサーさんは、多分ニューハーフとかいわれる女性以上に美しい方々だったかと思うのですが、そういう人たちがやっているバレエかというと、このトロカデロとグランディーバは一目で全然違う!ということがわかるでしょう。

この方たちはゲイでもニューハーフでもなくて、リアル男性なんですよ。だから優雅なバレリーナに扮していても、筋骨たくましく、胸毛・わき毛丸出し、歯もむき出し そして派手なアクションや過剰な演技で笑いをとるだけでなく、素晴らしいテクニックをこれ見よがしに見せつける。男性がチュチュを着て、トウシューズを履いて踊るおかしなものという概念は一瞬で吹っ飛ぶほど、ほとんどあっけらかんと、明るく、そして楽しく‥‥そういうものだったのです。

東京公演を皮切りに、これから九州、関西、中京、東北、そしてまた7月中旬に関東に戻ってくるという、それこそレニ国以上に全国津々浦々で公演するんですね。もしかして地方には、本来のバレエは見たことないけど、男のバレエなら毎年見てるなんて方もいるんじゃないでしょうか これから続く超過密スケジュールの日本ツアー、うっとおしい梅雨の季節をふっとばす勢いで、逞しいバレリーナの皆様、頑張ってくださいませね。

そんなわけで、初日なので公演の詳細は控えますが、爆笑に次ぐ爆笑で、初日から大盛り上がりでした。ノリのよいファンの皆さん(前方はほぼ常連?)ばかりで、私などは最初、普通のバレエを見るのと同じ頭で行ったので、そこここにどっと起こる笑い声に、え?何で?ということがしばしばでした。

第1部は「白鳥の湖」‥‥2幕の湖畔のシーンなのですが、見ているうちにだんだんバレエを見る頭からコメディを見る頭にシフトできて、のれるようになってきました。前にテレビで見たことがある、あの王子と王子もどき(従者?)が出てくるあれでしたね。二人の身長差がテレビで見たときほどではなかったので、それほどおかしくもなかったけど、やっぱり大げさなマイムは笑いを誘うんですね。

白鳥の皆さんはクラシックチュチュではなく、ロマンティックチュチュで白い長手袋をしています。それが皆立派な体格の男性なので迫力がすごい。コールドは8人?しかいないのに、ソーテ、パ・ド・シャで交差するところなど、ただのパ・ド・シャがめちゃめちゃダイナミック!途中白鳥の一人がコケたり、王子をいじめたりするコメディの部分もおかしかったけれど、純粋に踊りを見てもまた楽しかったです。

2部は、バックが「パキータ」のようなのであれ?と思いましたが、違いました。最初は「ハーレクイナーデのパ・ド・ドゥ」という作品。ハレルキナード?アレキナーダ?何か名前も音楽も聞いたことがあるようだったけれど、初見でした。男性はアイマスクのようなものをしていて、ちょっとおどけた道化のような演技。女性(もちろん男性)はちょっとコケティッシュで楽しいパ・ド・ドゥでした。次が「ラ・ヴィヴァンデール」。こちらはすっごく背の高い女性(多分ポワントで立ったら2メートル超える!ポワントも30センチ以上ありそうな特大)と小柄な男性と、その他バレリーナ4名の、出てきただけで笑っちゃうという作品でした。100609_204401

配役表が配られてなかったのですが、ロビーに掲示されているのを見たら、何だこりゃ?こんなの配られてもちんぷんかんぷんだったわ(爆!)‥‥というのは、配役表に書かれているのは全部芸名だったんです。表紙写真があまりに不気味だから、プログラム買うつもりはなかったのだけれど、気になったからやっぱり買っちゃいました。それによると、このバレエ団のダンサーの全員が男役と女役の両方ができるらしいのです。女性のときの芸名と男性のときの芸名、一人につき二つの名前を持っているんですね。何と楽しく、そしてややこしいことでしょう

気になった人というのは、その小柄な男性です。プログラムによるとロン・ゾウさんという中国の方でした。とにかくつま先がきれいで、柔らかくて伸びやかで、もうこれがコメディバレエということも忘れて彼に釘付けでした。ジャンプも2メートルの人と同じだけ飛んでいるし、着地も軽やか。あとで女性として「パキータ」でヴァリエーションを踊りましたが、やはりこの人が一番可愛くて、その上うまくて見入ってしまいました。

次の「ドン・キ・ホーテ」のグラン・パ・ド・ドゥはバレエとしても見ごたえがありました。いや、皆さん技術的には本当にお上手なんですよ。前にグランディーバを見たときは、バレエするには「え?」という体格の方とか、ひたすら個性的な(?)方とか、本当にいろいろでした。めちゃくちゃ上手い人がいる一方で、下手で笑いをとっている人もいたと思うのです。それはそれですごく面白かったのですが、こちらのトロカデロのほうは、ダンサーのレベルは本当に粒ぞろい。コメディとバレエのバランスが、前者にくらべればもう少しバレエ寄りという感じで、技術もしっかりと堪能できました。だって、ほとんどの人がグランフェッテでダブルを入れてブンブン景気よく回るんですよ。(もちろん客席からは大きな手拍子)ピルエットも一体いくつ回るの?というくらい。女性のパなのに、最後ザンレールしてポーズしたり、もう楽しすぎ~!

2部の最後は、これを見なきゃコメディバレエは語れないという「瀕死の白鳥」。グランディーバも同じものを看板にしていますが、どっちが元祖なんでしょうね。パ・ド・プレをしながらチュチュの間からごっそりと羽を振りまくあれです。また、これを踊るのがバレエ団の看板ダンサーというのも同じですね。

3部は「パキータ」。今年は私、なぜかパキータづいているようで、1月にレニ国の「パキータ」(ルジ様が出演しました)4月にはモスクワ音楽劇場の「パキータ」、そして4月末の娘のバレエのおさらい会が「パキータ」でした。振りまで知っている演目だったので、見ていて本当に面白かったです。「白鳥の湖」は、4羽の白鳥とか、結構振りを変えていたけれど、こちらはほとんどそのまんまパキータでした。

この演目は普通でも踊るときにかなり強めにアクセントをつけたり、スペインっぽいテイストを出したりするわけですが、それがさらに派手に強調されただけで笑いがとれる演目になってしまうんですね。そこここで笑い転げました。ヴァリエーションは、皆さん本当にお上手。例のポワントで立ったら2メートル超のジョシュア・グラントさんが、ちょうどおさらい会でうちの娘が踊ったヴァリエーションを踊りました。連続のグランジュテで斜めに舞台を横切る豪快さはすごかったです。

見ていたら、おさらい会のときもみんなこれくらい大げさにやったらかっこよかったのに、と思うくらい。素人の発表会では、本人たちは一生懸命踊っていると思っても、見るほうにはちまちま踊っているように見えてしまって、もっとアピールすればいいのにっていうのがよくあります。これくらいやったっていいんじゃない?と。そういう意味では、それで笑わせるぐらい作品の特徴をよくとらえていてお見事というよりほかはありません。コメディというよりも、私はやっぱりバレエとして見てしまいました。本当に面白かったです!

アンコールのサプライズも大爆笑でしたが、控えておきますね。全国ツアーが東京に戻ってくる頃、もう一度ぐらい見てみたいけれど、7月はちょうどルジさまで忙しいのでだめかもしれません。‥‥そうそう、ルジマトフの踊る「シェヘラザード」(バレエの神髄)が、もうあと1ヵ月を切りました!!そちらも楽しみです。

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2010年6月 9日 (水)

Kバレエ「眠れる森の美女」(5月31日)

ちょっとしたきっかけがあって見てきました Img_7

生熊川はバレエ協会の「ジゼル」(2002年)を見て以来なので、実に8年ぶり!有名人なのに今までそんなに何回も見ていなかったんです。だって、チケット高いんだもの。彼の踊るローラン・プティの「ボレロ」や「カルメン」を見たのが、ちょうど私がバレエを見始めたばかりの頃でした。昨年はKバレエカンパニーの創立10周年だったそうで、奇しくも私がバレエを知ってからと同じだったんですね。

Kバレエの公演は今までに「くるみ割り人形」と「ロミオとジュリエット」を見ていますが、どちらも熊川主演ではない日でした。最初に「くるみ」を見たとき、何て面白いんだろう!と思いました。彼はダンサーとしてもそうだけれど、もしかしたら演出家、振付家、芸術監督としても優れた人なんだろうなあと。だから、私としては作品を見たいので、別に主演は熊川でなくてもよかったんですけどね。だけど今回の「眠り」も、よく見てみると16公演中14公演を熊川自身が踊るんですね‥‥実際に見てみてもそれは納得。改めて彼の吸引力を目の当たりにしてすごいなあと思った次第です。

ひとひねりもふたひねりもしてある「くるみ」に比べると、「眠り」はすごくオーソドックスでした。まあ古典中の古典なのでひねりようがないかもしれません。もっとスペクタクルなものを期待してしまったけれど、ストレートに古典バレエとしての踊りを楽しめるものになっていました。高いので(3,000円だよ~)プログラムを買っていないから、その制作意図はわからないけれど、ストーリーはわかりやすく、悪と戦って姫を救い出す王子の構図みたいなものを中心に、初めてバレエを見る人にも容易に理解できる内容でした。

≪プロローグ≫
前奏曲が始まるとすぐに幕が開き、間の紗幕が現れます。その向こうに、カラボスとその手下が何やら怒っているような様子。そして、そのあとに今度はオーロラ姫の誕生を喜ぶ王様と王妃様。普通は何もない前奏曲の間に紗幕の向こうで見せる無言劇。それだけでこれから始まる内容が大体わかるような演出です。

パ・ド・シスの妖精たちがみんなクラシックチュチュでなかったのにはなぜ?と思ってしまいました。コールドの妖精は紫のクラシックチュチュだったのに。ロイヤル版のように、妖精たちにはお付きの男性が付いているんですね。贈り物を持ったお小姓はいなかったけれど。衣装はみな淡いパステルカラー。舞台もお城の中庭というよりは森の中のようなナチュラルグリーン系で、貴族たちの衣装も色味を抑えた淡い色調。いかにも遠い昔の絵本の中の世界という感じでした。

妖精たちが次々と踊り、誕生した姫を寿ぎ、この上ない幸福感の中、突然雷鳴がとどろきます。スチュアート・キャシディのカラボスの登場。よくある女装系ですが、この方の存在感はまた格別でした。手下の怪物たちが、ミイラみたいな仮面のと、ビラビラと黒い布切れに覆われているのと2種類で、結構よく踊っていました。カラボスの勢いに比べると、リラの精の松岡梨絵さんはちょっと弱い感じがしましたが、これが後になるほどどんどん存在感を増して、優しく慈愛あふれるリラの精として印象に残りました。

≪第1幕≫
カラボスが去ってから、休憩なしで1幕へ。よくある編み物をしている女たちから編み針をとりあげて死刑にするぞという場面は、何とカラボスとその手下がマントをかぶって変装して、こそこそと糸紡ぎの棒を持っているのです。それなのに、カタラビュットは何もしない。一度は取り上げた糸紡ぎをまた返しちゃったりして。何で??そして、カラボス扮するおばあさんは無罪放免になって行ってしまいます。

オーロラ姫の登場。荒井祐子さんは、前にジュリエットで見たときと同じ、小柄で華奢で、お人形のような顔のバレリーナ。髪も縦ロールが4つぐらいついていて可愛らしい感じにしているんですが、表情がいつも張り付いたように同じなんですよね‥でも、テクニックはすごくある人で、ローズアダージョのバランスも、1回1回アン・オーにしていても余裕でした。衣装が薄ピンクのチュチュなのですが、袖がシースルーのシフォンのような布で、ゆったりとした長そでのパフスリーブ‥‥それがちょっともったりと見えてしまいました。荒井さんのような細い人が膨張して見えるんですから、かなり難ありの衣装かも。。でも素敵なオーロラ姫だったし、この場面程よい緊張感とともに盛り上がりました。

よく思うけれど、このお話は世の中は善なるもの、美なるものだけではないという、それを見せてくれるお話じゃないかと思うんです。16歳になったオーロラはまさに我が世の春。求婚にやってきた4人の王子と踊り、この上なく美しく、完璧な世界が展開します。でも、その直後にカラボスが現れる。よく美しいカラボスがいるんですが、やっぱりカラボスというのは美や幸福とは対極のまがまがしきもの、老、醜、悪を象徴しているような気がします。テューズリーのカラボスは、老や醜より、とにかく迫力があって怖かったけど 

カラボスは1幕最初の糸紡ぎ棒を持ったおばあさんの姿で現れます。糸紡ぎをわたされ、それを珍しいものとして喜ぶオーロラ。あわてる周囲。そしてオーロラは針が手に刺さって倒れます。正体を現したカラボスと、4人の王子は戦うけれどすぐにやられてしまう。そして、誕生のときのお約束通りリラの精が現れて、城じゅうを眠らせるのでした。ここの演出ではよく城がツタのような植物に覆われていくような舞台セットになるのだけれど、これが‥ワカメのようなものが上から下りてきただけ

≪第2幕≫
プロローグと1幕は若葉が薫るような薄いグリーンの世界だったけれど、2幕は秋の紅葉のような色合い。貴族たちの衣装も茶系や赤を使って重厚な感じになっていました。久々に見た熊川さんは既に結構なベテランの部類のはずなのに、そんなことは微塵も感じさせない、エネルギッシュな踊りでした。やはりジャンプが高いし、回転のキレも素晴らしいです。今は日本人でもスタイルのよい人が多いから、昔見た以上にスタイルが難点と思ったものの、それが気にならないくらいの王子らしい存在感はありました。

貴族の目隠し踊り、目隠しされた侍従は最後、王子様を捕まえちゃう。的当て遊びもありました。そのあと人々を再び狩に送り出し、王子はその場で抒情的な曲を踊ります。例のヌレエフ版にあるような感じですが、あれよりは短かった気がします。このあとのオーロラ姫の幻影を見せるところが何だか記憶があいまいで多分、眠くなっていたんだと思います せっかくの生熊川なのに‥!

リラの精に導かれ、オーロラの眠る城へと向かう王子。王子はリラの精から剣を受け取り、カラボスらと戦います。この辺がまるで冒険ゲームみたいで面白かったです。全然戦わない王子もいるのに(マラーホフ版とか)しっかり戦ってえらい!(?)オーロラ姫は木の切り株のようなところで眠っていました。そういえば1幕の終わりにオーロラ姫を寝かせた奇妙な椅子のようなものは、この作りものの上にシートがかかっていたんですね。(だけど何でこんなヘンなところだけ覚えているのでしょう?)王子のキスで目覚めたオーロラ姫とともに、お城のみんなも目覚めてめでたしめでたし‥‥でした。

≪第3幕≫
今まで踊りのことは何も書かなかったけれど、振付はかなり細かいステップで、多分ロイヤルバレエのものに近いような感じだったと思います。だけど、ちょっと違和感があるようなところもありました。その一つは3幕の最初の宝石で、ロイヤルバレエと同じように男性一人、女性2人のパ・ド・トロワになっているのですが、これが、振付をこなすのがせいいっぱいのようで、伸びやかさも何もなく、カクンカクンとしたヘンな踊り。全体がそういう難しいステップの踊りだったのですが、ここの部分は特に何だかな~と思ってしまいました。
男性一人は遅沢さんで、背が高くスタイルもいいし、多分主役も踊っている方だったと思いますが‥‥。

猫はロイヤルバレエの猫みたいに、目の周りに不気味なマスクをしてる。。オオカミと赤ずきんのときは周りに柱?のようなものを置いて森に見立てていたのかな?この中で一番印象に残ったのはブルーバードでした。神戸里奈さんのフロリナが可愛らしく、橋本直樹さんの青い鳥も軽やかでよかったです。

グラン・パ・ド・ドゥはやはり一番見ごたえがありました。これでなくちゃね。前に「くるみ」を見たときは、舞台セットや衣装、演出の面白さで楽しんでいたのだけれど、最後のグラン・パ・ド・ドゥでちょっとがっかりしてしまったのです。いくらその前がよくても、やはり見せ場は見せ場、ちゃんとそれなりのものを見せてくれないと納まりがよくありません。その点では文句なかったです。熊川さんはサポートもとてもお上手なんですね。荒井さんが小柄なせいもあるけれど、的確できちんと美しく魅せる術にたけているというか、さすがだなと思いました。男性ヴァリエーションも、とてもスピード感があり、最後の超高速シェネには驚きました。

全体的によくまとまった美しい舞台でした。ただ、こんなに感想が遅くなってしまった理由でもあるけれど、オーソドックスすぎてインパクトがもう一つ乏しかったような気もします。食わず嫌い?でもないけれど、あまり見る機会のなかった熊川さんがとにかく一度見れてよかったです。

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2010年5月27日 (木)

マラーホフの贈り物(22日Bプロ)

Bプロは、今回初めて娘のバレエの先生にお願いして、某バレエショップのお教室向け?の割引チケットをとってもらって行きました。10人集めないとだめみたいでそれに協力した形でしたが、かなり安く見れてお得でした。初めての3階サイドC席。同じC席でも4階の正面はすごく見やすいんですよね。でも数が少ないせいか買えたことは1度しかありません。最初はサイドかぁ‥‥と思いましたが、これが正面よりずっと舞台に近く、意外に見切れも少なくて(1階のA席、三角のところの端よりずっといいです!)よかったです。Imgp9147

うちのグループは先生と先生のお友達、お母さん3名、子ども5名というメンバーでしたが、子どもはうちの娘が一人高校生で、ほかは小学生。(どう考えても子ども向きのプログラムじゃないと思うけど)後ろにもいかにもバレエを習っていそうな女の子たちのグループがいて、こちらは中高生ばかりのようでした。お教室割引も10人はハードルが高いよね。。。5~6人なら行きたいという人はいるのに。というわけで、いつもとはずいぶん違った雰囲気で見ることになりました。

「カラヴァッジオ」よりパ・ド・ドゥ(第1幕より)
ポリーナ・セミオノワ&ウラジーミル・マラーホフ

例によってショートパンツのマラーホフと、ベージュの短いシースルーで、内側に包帯みたいな布が巻いてあるような、ぴったりしたレオタード型の衣装のセミオノワ。何を意味するのかわかりませんが、これは物憂いような男女のパ・ド・ドゥ。何だかこのあと同じようなコンテが続いたので印象薄。

「ディアナとアクティオン」
ヤーナ・サレンコ&ディヌ・タマズラカル

第2部の「バヤデール」以外では、本日唯一のクラシック演目でしょうか(笑)。赤の衣装で小柄なサレンコは、同じ演目の昔の映像で、ルジマトフと踊っているレジュニナを彷彿させるかわいらしさ。狩猟の神ディアナはもっと強いイメージなんだけれど、レジュニナにしても、サレンコにしても、華奢でかわいい感じもいいですね。タマズラカルは、ルジマトフほどの色気も野性味もないけれど、やっぱり上の席から見てもお顔が似ています(バカです)いや、踊りはダイナミックでよかったですよ。この人好きかも

「カジミールの色」
エリサ・カリッロ・カブレラ&ミハイル・カニスキン

彼らの踊るこの演目を昨年のコールプガラで見ましたが、バレエフェスではマラーホフとヴィシニョーワが踊り、全く違った雰囲気になっていて驚いたものです。また元の二人で見ると、やっぱりこの二人がいいな。マラーホフとヴィシニョーワだと、身長も横幅もほとんど同じくらいで、何か双子の兄妹のような近親的な肉体がお互いに呼び合って、引っ張り合って、またピタッとくっついてしまうという、そういう「静」の部分だけが印象に残っていたのですが、意外に難しいリフトや派手な動きもあったんですね。細身で手足が長く浅黒い肌のカブレラと、大柄なカニスキンの身体は全然違う雰囲気を持ち、それが離れそうで離れない、内に向かう力と外に向かう力の微妙な調和を見せてくれた気がします。

「モノ・リサ」
マリア・アイシュヴァルト&マライン・ラドメイカー

もう~~!超すごかったです!ベルリン勢は数は多くても、このシュツットガルトの二人にAプロならずBプロまで全部持って行かれそうな感じ!シュツットガルト・バレエのガラがあったら最高だったかもしれませんね。(再来年くる時もガラはないみたいだけど)いや「アイシュヴァルトの贈り物」でもいいじゃん!(って暴言?)

「インザ・ミドル~」のような、機械音のビートにのって踊る刺激的&攻撃的な作品。一直線に開脚したアイシュヴァルトの脚をやたらにつかもうとする脚フェチ?のラドメイカー。脚をつかんで振り回したりする場面が本当に多いので、多分踊っているアイシュヴァルトはあざだらけかもというか、一歩間違ったらそれこそ怪我をしてしまうようなところを、絶妙のバランスとタイミングで次々とくぐり抜けていくスピード感とスリルにもう、一緒に見ていた小学生たちもみんな釘付けでした。素晴らしかった!

「瀕死の白鳥」
ベアトリス・クノップ

よくある、フォーキンの普通の「瀕死」でした クノップは長身で細身で、本当にガラスのようなはかなさで、静かに寿命が尽きていく様子を清楚に表現していました。不思議ですが、こんなパ・ド・プレと腕の動きを中心にした、シンプルで、大技は何もない演目なのに、踊る人によって全然雰囲気が変わってくるんですね。それはこれを踊るほとんどの人がプリマと呼ばれる人だからだと思うのです。クノップがプリマかどうかは知りませんが、ひねらずストレートにきれいな、教科書通りというような「瀕死」を久々に見たような気がしました。

さて、これで第1部終了‥‥と思いきや、プログラムには載っていないのに、何とマラーホフが現れたんですよ。これは最初から?それともサプライズ?Aプロで踊った振付で、もう一度「瀕死の白鳥」を見ることができました。ラッキー!‥‥しかしマラーホフは、これをファンサービスのつもりで入れたのか、それとも、これをBプロのお客さんにもぜひに見てもらいたかったのか?はたまた踊りたかったのか?でも、これって、ちょっとクノップがかわいそうでした。前座にされてしまったのですから。

「ラ・バヤデール」より“影の王国”
ポリーナ・セミオノワ&ウラジーミル・マラーホフ、東京バレエ団

ことし1月にルジマトフのソロルを見て、私はもうあれが決定版、もう誰のソロルを見てもあれ以上のソロルはないと思っています。だけど、マラーホフが踊るなら見てみる価値があるかもということで、見ました それでもやっぱり私のソロルはルジ様です。

月の光に照らされて、岩山の上から一人、また一人と降りてくる「影」たち。東京バレエ団のコールドはぐらつく人もなく、とてもよく揃っていました。上から見るとそれが怖いほど十分に幻想的でした。しかし‥‥ポリーナちゃんにはびっくり。なんてまあ立派で強そうなニキヤだこと!他の人より一回り大きい上に、チュチュも大きく、そしてああいう衣装だとまたさらに上半身が立派に見えちゃって、とてもはかない「影」には見えませんでした。マラーホフも‥‥ちょっとあのニキヤにびっくりして、どういう演技をしていたのかよくわかりませんでした。

この「影の王国」だけをガラでやるときは、ソロルのヴァリエーションがあるはずだと思うけれど、マラーホフはこれを踊りませんでした。まあ、本来全幕では別の部分にあるものだから、なくていいといえばいいのだけれど、マラーホフだって踊ってないじゃん‥‥と思ってしまいました。でも、最初の登場のときのジュテがだんだん高くなっていくところはさすがにしっかりと美しく飛んでいましたね。

3人のヴァリエーションは最初がサレンコ。2番目が乾さんで3番目がカブレラ。これ、別にサレンコやカブレラを投入する必要はなかったんじゃないのかな。サレンコはここに登場したから1演目少なくなったようですが、それよりもう一つサレンコのクラシックを見たかったです。三人三様なのだけれど、乾さんが音に遅れているのが目立ってしまっていました。

「ロミオとジュリエット」より“バルコニーのパ・ド・ドゥ”
マリア・アイシュヴァルト&マライン・ラドメイカー

アイシュヴァルトってすごい!Aプロで身も心も憔悴しきったようなマルグリットを演じていたのに、第1部ではあんなにすごいコンテを踊って、そしてまたすぐに初々しい十代の少女を演じるんですから。バルコニーに現れたアイシュヴァルトは、今まさに恋におちたばかりで、あふれる気持ちを抑えられずに外に飛び出した、そんなジュリエットそのものでした。

クランコ版の「ロミオとジュリエット」はかなり前にマラーホフで見ているのだけれど、マラーホフが素敵だったこと以外覚えていなくて でも、このパ・ド・ドゥはいいですね。ジュリエットはまっすぐに階段を下りてくるんじゃなく、踊り場でためらってちょこんと座り、それをロミオが抱き上げて下におろし、戻るときもその場所に乗せてあげる。それだけで胸キュン、かわいいです。

振付も、とにかく初々しさが前面に出てかわいい。ときめきが感じられるようなスピード感と躍動感。そしてまたまたラドメイカーの全力疾走!きらめく星空をバックに、どこまでも未来が続いていそうな初々しい恋人たち。そうでないことを知っている観客はそれが幸せそうであればあるほど、その一瞬のきらめきを見て涙してしまうのです。

「カラヴァッジオ」よりパ・ド・ドゥ(第2幕より)
ベアトリス・クノップ&レオナルド・ヤコヴィーナ

前半の(第1幕より)というのとどう違うの‥?
「カジミール」といい、このあとの「ファンファーレ」といい、何か同じような男女がからむ演目が並んで、ほとんど覚えてないんです衣装とか、音楽とか、何か特徴的なところがあれば覚えているんだけれど‥‥ヤコヴィーナは前日マラーホフと踊った時と同じ、ベージュ?のハーフスパッツでした。それだけ。

「レ・ブルジョワ」
ディヌ・タマズラカル

この作品はダニール・シムキンが踊っているDVDが出ています。あれはあれで、大人の服を着せられてちょっと背伸びしている少年という雰囲気でかわいかったけれど、多分これが本来のこの作品のイメージでしょうね。小粋な大人の世界でした。いや、これって酔っ払いの踊りだったんですか?シムキン君の映像ではそんなふうには感じませんでしたが、酔っぱらって足元も危ういような感じなのに、さりげなく超絶テクニックを入れてみんなをびっくりさせちゃう、そんな楽しい作品だったんですね。

会場では会わなかったけれど、たまたま同じ公演を見ていたという友人は、あれを見たら91年のニーナのガラのアンコールでソロを踊ったルジマトフを思い出してしまったそうです。(顔似てるし‥しつこい)あのときはもう、会場じゅうが大騒ぎだったとか。同じように、途中から後ろに座っていた女の子たちがキャーキャー言い始め、カーテンコールでは黄色い声でブラボーの連呼。タマズラカルのほうもこっちを見ていましたね。楽しかったです。

「ファンファーレLX」
エリサ・カリッロ・カブレラ&ミハイル・カニスキン

二人とも真っ赤な衣装で‥‥実は覚えているのはそれだけなんですカブレラもカニスキンもいいダンサーなのに、何でこんなに同じような踊りが続いたあとにまだダメ押し的にコンテなんでしょう?このあとのマラーホフのソロもコンテだし、ここで一つぐらいクラシックかネオクラシックを入れてもよかったのに。小学生たちも飽きてモゾモゾし始めてしまいました。プログラムの並べ方にもう一工夫ほしかったです。

「ラクリモーサ」
ウラジーミル・マラーホフ

白のショートパンツだけのマラーホフが暗闇に浮かび上がる。すみません、トリなのに忘れましたプログラムによると音楽はモーツァルトの「レクイエム」で、死者の贖罪を表しているのだとか。マラーホフは、私の中では「陽」の人なので、こういう暗そうな作品よりも、さっきの「レ・ブルジョワ」みたいな、もっと明るい作品を踊ってほしいな‥‥と思った次第です。

フィナーレはAプロと同様「バヤデール」の曲にのってダンサーが次々に出てくる趣向でした。サレンコがさりげなく何回転もピルエットを回ったり、マラーホフがジュテで舞台を横切るところ、幕の間からジャンプして飛び出すところなども一緒でした。そして最終日なので、上から「SAYONARA」の文字が‥‥最後の最後で、子どもまで笑ってしまうようなダサい演出にちょっと唖然。上からテープが落ちてきたときも、後ろのほうにいっぺんにバサッと落ちたので、やっている割には感動が少ないというか。やっぱりテープとキラキラ紙吹雪はダンサーたちの上に降り注いでほしかったような‥‥。

しかし、マラーホフ健在というか、ベルリン国立バレエの芸術監督になって何年になるかわからないけれど、この人のしなやかさ、軽やかさは変わらずに、永遠の王子様を見せてくれて満足でした。現代作品やサポートが多かったのはもう仕方ないと思うけれど、フィナーレで舞台をジャンプして横切る、そのほんの一瞬だけで観客をうっとりさせてしまう力は、まだまだ若手の追随を許さないところでしょうね。コンテンポラリーがちょっと苦手な私にはつらいところもあったけれど、出演ダンサーのレベルが高く、楽しめた公演でした。

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2010年5月25日 (火)

マラーホフの贈り物(19日Aプロ)

京都のお殿様の余韻はまだまだ続いているのですが、今度はベルリンの王子様です (正確にはウクライナの王子様か)ほんとに、ミーハーはあっちこっち忙しい!Imgp9146_2

確か前回の「マラーホフの贈り物」は2年前でしたよね?あのときはフィーリン&アレクサンドロワとか、ドヴォロヴェンコ&べルツェルコフスキー(合っているかどうか、難しい名前でわからない)とか、多彩な面々がそろっていましたが、今回は何だかすごく地味‥‥。それというのも、ボリショイのニーナ・カプツォーワとイワン・ワシーリエフの二人が急に出演できなくなってしまったからです。その代わりにベルリン国立バレエのベアトリス・クノップとレオナルド・ヤコヴィーナという多分初お目見えの方々の参加で、プログラムも当初のものと一部違うものになっていたようでした。それでも、そのおかげで珍しい演目を見ることができたし、マラーホフも4演目を踊る活躍で満足できる公演だったと思います。

いや、正直言うと眠いところも‥マラーホフ振付の「仮面舞踏会」より“四季”というのは、目を開けているのがやっとというか、何回も目がくっついてしまったというか。誰かほかにもいたけれど、優れたダンサーが優れた振付家とは限らない例がまた一つふえてしまったかも‥ごめんなさい!

よかったのは「『カラヴァッジオ』よりパ・ド・ドゥ」というのが、何とマラーホフのまた違った一面を見てしまったような感じでした。(容易に想像はできたけれど)男同士のパ・ド・ドゥが男女のパ・ド・ドゥ以上に濃密に繰り広げられていたのには目が点でした。

そしてAプロの一番は何と言ってもマリア・アイシュヴァルトとマリイン・ラドメイカーの「椿姫」だったでしょう。実に圧巻でした!これを見れただけでこの日は満足というくらいに感動してしまいました。物語の中に引き込んで人を感動させるタイプの踊り、やっぱりこういう踊りが一番好きです。

最後に「バヤデール」の3幕のコーダの曲で出演者が次々に出てくるフィナーレがあり、そこで、マラーホフは上手奥から斜めに連続のグランジュテで舞台を横切ったんですよ!それがもう、衣装といったって白いショートパンツだけなのに、それがかえって、まるで羽の生えた天使みたいに見えました。

超~美しい!

王子様健在!この一瞬だけで来たかいがあったと思いました。いや、私は特にマラーホフのファンというわけではありません。それなのに、これだけ興奮させてしまう魅力ってすごい!ルジマトフだけじゃなくて、彼の代わりも当分みつかりそうにありませんね。

こんなふうに書いていると、前置きだけで終わってしまいそうですが、改めて。

「ザ・グラン・パ・ド・ドゥ」
エリサ・カリッロ・カブレラ&ミハイル・カニスキン

このベルリン国立バレエのお二人は、以前コールプのガラに出演していましたね。そのときカブレラはコールプと一緒に同じ演目を踊っていました。相変わらず楽しい演目だけれど、コールプと違ってカニスキンは、ずいぶんおっとりした王子様という感じでなかなか素敵です。怒っていてもどこかエレガント。それに対しカブレラのほうはバレリーナの優雅さ
かなぐり捨ててすばらしい 手足をつかんで振りまわされて「ぎゃ~!」っと叫ぶ声もすごかったです。去年見たロパートキナは、きれいだったけれどいまいちギャグになりきれてなくて笑えなかったんですよね。それに比べたらちょっとはまりすぎだけれど、素直に笑っちゃいました。バッグがちょっと大きかったかも。

「ジュエルズ」より“ダイヤモンド”
ポリーナ・セミオノワ&ウラジーミル・マラーホフ

しょっぱなから笑った後に、ちょっと苦手なバランシン。二人の衣装は、白一色に銀糸の刺繍と、ダイヤモンドを表す大きめのラインストーンをちりばめたような豪華なもの。こんな衣装を着たマラーホフはやっぱり永遠の王子様ですね~相変わらずセミオノワとの身長のバランスはよくないんだけれど、それを自然に、しかもより美しく魅せてしまうサポートの妙というか、さすがだなあと思いました。

これは多分他の人で見たら全然違うものなんだろうな。他の人といっても見たことはないけれど、ダイヤモンドというのだからもっと硬質でクールな感じになるのが本当なのかもと思ったりします。ストーリーは特にないのだけれど、マラーホフはどこか物語を感じさせるような、けだるく甘美な、独特の世界をつくりだしているのです。スローテンポの曲でゆったりと踊る二人は、ダイヤモンドとは正反対の、ガラスのようなはかなささえ感じさせてうっとり。素敵でした。

「ボリショイに捧ぐ」
マリア・アイシュヴァルト&マライン・ラドメイカー

プログラムによるとボリショイ・バレエが初めてロンドンで公演したときに、それを見て衝撃を受けたクランコが、ボリショイへのオマージュとして創作したものだそうです。そのとおり、リフトで現れリフトで去っていくといった、短いけれどアクロバティックな技満載の作品でした。アイシュヴァルトの衣装は、ただの短いスカートがついた、白いキャミソール型のレオタード。ラドメイカーは白のパンツだけだったと思います。そのシンプルな衣装で、次々と難しいリフトを繰り返す二人が、一陣の風のように舞台を通り過ぎていきました。

「アレクサンダー大王」
エリサ・カリッロ・カブレラ&レオナルド・ヤコヴィーナ
二人で絡み合ったり舞台を転げ回ったりの、全編禁お子様なんだけれど、それ自体が色っぽいのではなく、不思議な感じの作品でした。衣装は男女とも腰に黒くて長い巻きスカートのような布を巻いていて、その間から見える脚にドッキリ。何でもろ官能的な動きより、そういうチラッと見えるものにドキっとするのかよくわからないけれど。

カブレラは最初のおとぼけ姫とはうって変わって、しなやかで野性的な官能美を見せていました。初見のヤコヴィーナは大柄でがっちりした体型だけれど、柔軟性があって力持ち(?)‥‥こういうコンテの演目では、男性はほとんど踊りというより持ち上げ役なので何とも言えませんが、裸の上半身に黒のロング腰巻はやはり怪しかった

「コッペリア」よりパ・ド・ドゥ
ヤーナ・サレンコ&ディヌ・タマズラカル

タマズラカル(変な名前‥)も初めて見たダンサーです。何かお顔が若かりし頃のルジ様にちょっと似ているんですね似てるくらいですから、素敵ですよ(爆!)もう少しスタイルいいといいんだけれど。サレンコは2年前の「贈り物」にも出ていたし、昨年のバレエフェスにも出ていましたね。テクニックはすごくあるのに、何だか地味な感じでいつも印象に残ってなかったのですが、今回は注目してしまいました。

というのも、この「贈り物」、コンテンポラリーばっかりでクラシックが少ないんですよ。サレンコは結局、AプロBプロ通してクラシック担当のようでした。そのとおりに、クラシックを踊らせたら可憐で、テクニックを見せるところはしっかりと見せ、どれもみなよかったです。この「コッペリア」も、アダージョの最初のバランスを繰り返すところや、コーダで回るところなど見ごたえがありました。

「仮面舞踏会」より“四季”
東京バレエ団+セミオノワ&マラーホフ
最初にも書いた、マラーホフ振付の作品。なぜか最初は
「冬」から始まるんですね。上野水香プラス4人の男性。水香ちゃんの衣装はスカートの前の部分が開いていて、後ろが長くなって、フリルで厚みがあるような衣装。そして羽のようにふわふわした髪飾りがまた彼女のコケティッシュな雰囲気とよく合っていました。

「春」は吉岡さんとそれにつき従う牧神(?羊みたいな狼みたいな)、それからコールドの女性が10名?ぐらい。この衣装はとても可愛かったです。吉岡さんはピンク、そしてコールドは若草色の小花模様。柔らかい薄物の、胸のところで切り替えのあるゆったりした衣装で、早春の野のようなイメージでした。色的にはヴィーナスの誕生?っぽいのだけれど、リボンが襷のように背中で×になって脇からひらひらしていたりする雰囲気が、高松塚古墳?いや、観音様‥?ちょっと古代東洋チックな雰囲気がありました。

「夏」はセミオノワとマラーホフ。二人とも太陽の絵が胸にプリントされたタンクトップに、マラーホフはショートパンツ、セミオノワは短めのスカート。そして踊りは豊潤な夏のイメージ。「秋」は中央の田中さんと松下さんのほか、8組?くらいの男女で、紅葉色のコブラン織のような衣装だったかな?よく覚えていないということは‥‥どうやらこのあたりで爆睡していたようです 踊りはクラシックなのだけれど、やっぱりクラシックでストーリーや感情が動かないものはつまんない‥‥と思ってしまいました。

「カラヴァッジオ」よりパ・ド・ドゥ(第2幕より)
ウラジーミル・マラーホフ&レオナルド・ヤコヴィーナ

これは当初のプログラムには入っていなかったものです。メンバーが変更になったからこそ見れた作品かもしれません。「カラヴァッジオ」は2008年にイタリアの振付家ビゴンゼッティがベルリン国立バレエのために振付けた全2幕の作品で、見たことはありませんがマラーホフ主演のDVDも出ています。カラヴァッジオというのは16世紀の画家だそうですが、プログラムによると芸術家の生涯を描くというよりは、彼の絵画作品の世界を舞踊で描いたもののようです。

闇の中に一人浮かび上がるマラーホフは、ショートパンツ姿。すると後ろにいつの間にか影のように現れるヤコヴィーナ。この男性二人によるパ・ド・ドゥは、同じ男性二人でも、2月に見た「失われた時を求めて」のような背徳的な感じはなく、マラーホフはもう完全に身体を預けてリフトされる側なんですよ~。マラーホフとヤコヴィーナはかなり身長差があるのでそれが全然違和感なく、コンテンポラリーを踊る男女のような感じで、抱えられてぐるぐると振り回されるマラーホフ‥。いや、執拗に絡み合う肢体は男女のパ・ド・ドゥ以上に濃厚で、それでいて異様なものはない、何か凄いものを見ちゃったという感じでした。

「ゼンツァーノの花祭り」
ヤーナ・サレンコ&ディヌ・タマズラカル

びっくりの後は、ほっとするクラシック作品 何かこの二人、よいですね~。タマズラカルのちょっと茶目っ気のあるお芝居がとっても素敵です。そしてサレンコも、今まで髪の色のせいか顔がちょっと老けて見えたけど、よく見るとかわいい 二人とも地に足が着いているほうが短いような、ジャンプだらけのステップを軽やかに舞っていました。

「椿姫」より第3幕のパ・ド・ドゥ
マリア・アイシュヴァルト&マライン・ラドメイカー

前の二人がいいと思ったら、すぐ次の瞬間、あっという間にこの二人にさらっていかれちゃいましたね。誰が見てもこの日の一番はこれ!だったと思います。

マントに身を包んだアイシュヴァルトは、もう登場した瞬間から死を目前にしたマルグリットでした。若いラドメイカーに比べるととても老けて見えて、そしてその動きから、ああこの人は病気なんだとすぐわかる‥‥辛そうなんですよ。心もそうだけれど、身体も。今まで「椿姫」のこのパ・ド・ドゥを見ても、そんなことは感じたことがありませんでした。

ラドメイカーも、もともと若いんだろうけれど、とにかくアルマンの若さを全身で表現しているようで、若さからくる残酷さ、愚かさ、そして激しさや情熱まで全部伝わってくるよう。こんなアルマンも初めてでした。倒れかかるマルグリットを全力疾走で支え、何度も何度もそれを繰り返すところなど、見ていたらいつの間にか涙があふれてきてしまいました。

ドレスを脱ぎ去った後は特に、痛みを伴って、すべてを燃やしつくすような、こんな「椿姫」は初めて!ギエムも、フェリも見たけれど、今まで見て一番感動したのはこの「椿姫」でした。終わったとたんに起こった嵐のような拍手がそのすごさを表していたと思います。圧巻でした。

「トランスパレンテ」
ベアトリス・クノップ&レオナルド・ヤコヴィーナ

素晴らしい「椿姫」を見た後で放心状態というか、気が抜けてしまってよく覚えてないんですよね。今度は女性と踊るヤコヴィーナ(笑) クノップも急な代役でやってきたベルリン国立バレエの人です。細身で長身、手足が長いバレリーナ。ちょっとけだるい感じの歌をバックに、赤のロングドレスのクノップと、白シャツ黒ズボンにサスペンダーのヤコヴィーナの、小粋な雰囲気の作品でした。

「瀕死の白鳥」
ウラジーミル・マラーホフ

おなじみの白のショートパンツのほかは何もまとわず、何もない黒い背景の中でサンサーンスのあの有名な曲に溶け込んでいくマラーホフ。彼はやはり神から選ばれた者なのだなと思う瞬間‥‥永遠の少年のようでありながら、逃れられない何かに必死で抗い、そこから飛び立とうとするけれど力尽きて死んでゆく、その折れた天使の翼が見えたようでした。

Bプロに続く。

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2010年5月 6日 (木)

モスクワ音楽劇場「白鳥の湖」(18日)

もう2週間以上たっているのに、まだちまちま書こうとしているのはおかしいですよね。いい加減忘れてしまったんですけど。

というより、この日私は時間を勘違いしてしまって(まさか昼の12時に始まろうとは思ってもみなかった!)大慌てで出て行って、駅からは走りに走ったけれど10分ほど遅刻。それでこのブルメイステル版の大きな特徴であるプロローグが見られなかったばかりか、なかなか中に入れてもらえずに2階ロビーのモニターを見ながら待機。やっと入れてもらえたと思ったら、何と2幕を続けて上演する演出だったので、そのままあの湖畔のシーンへ。結局休憩まで最後列の後ろの壁のところで立ちんぼすることになってしまったのでした。

今思い出しても悲惨ですねえ。せっかくのS席が~ そんなことがあったせいかあまりのめり込むことなく、いつになく冷静に見てしまったかな?

モスクワ音楽劇場バレエの看板演目であるブルメイステル版の「白鳥の湖」は、マリインスキーなどで上演されているプティパ・イワーノフ版とは少し違った趣のあるものです。私は3年前に見て同じ「白鳥の湖」でもこんなに切り口が違うのか~とびっくりしたと同時に、そのドラマチックな世界に引き込まれ、感動してしまいました。

よく一度これを見てしまうと何を見てももの足りなくなると言われていますが、そこまでではないまでも人物の心理までよく考えられた面白い版です。珍しいと思う割にはミラノ・スカラ座のザハロワ&ボッレ、パリ・オペラ座のピエトラガラ&デュポンなどのDVDが出ていて、見ようと思えば見ることができます。もうどうせ忘れてしまったことも多いと思うので、今回はブルメイステル版と一般の版との違いを中心に書いてみようと思います。

≪プロローグ≫
今回はそんなわけで見られなかったのです 多分、序曲のところで長い袖のストンとしたドレス姿の王女オデットが、無邪気に花を摘んでいるところから始まるんですよね。舞台上手に岩山があって、そこに咲いている花を摘もうとそちらに行ったとたん、その上にいたロットバルトの長い翼に取り込まれ、白鳥にされてしまうのです。見れなくて残念でした。

≪第1幕≫
私が中に入れたのはちょうどワルツが終わったところでした。拍手のタイミングで遅れてきた客を入れているようです。もう少し前からいた人もいるし、まだあとから入って来る人もました。この日は何と最後列の端まで満席だったので動くこともできず、ひたすら立っていました。暗くなってからもライトで足元を照らして客を案内することがあるのに、これだけ遅れてきた人が多いとそれもできないのか、お子様連れもいて何だかかわいそうでした。

今回はキャスト発表以前にチケットを買っていたので、配役は福袋状態‥‥私はチュージンが見たかったのだけれど、今回の王子役はミハイル・プーホフ。ガラの時「ワルプルギスの夜」に出ていた人です。そこそこマッチョなためか動きがちょっと重い印象で、手足ももう少しすうっと伸びればいいのになあという感じはしましたが、それでもなかなか知的で素敵な王子様でしたよ

1幕の違いは、パ・ド・トロワを女性2人、男性2人のパ・ド・カトルにしているところ。ここで男性ヴァリエーションを二人がシンクロして踊ります。このときも3年前に見たのと同じハムジン&クジミンの二人が踊っていましたが、何だっていつもこの二人はワンセットなんでしょうねえ?ルックスはよいので次期王子様候補と思いきや、万年パ・ド・トロワだったかな‥(いや、踊りもよいのですけど)

そのあと、3幕で王子と黒鳥オディールが踊るアダージョの曲で、王子が踊ります。あまりに有名な曲なので最初見たときはかなり違和感がありましたが、この曲は元気のよい前半と、愁いを帯びた後半とに分かれているんですよね。前半は王子が弓を持って踊るソロ。そして後半は、道化が連れてきた貴族の女性とのアダージョになっています。今回、遠くから俯瞰していたのでわかったのですが、このとき踊っている王子に両側から二人の女性が近づいてくるんです。どちらも王子に声をかけられたいと思っているような雰囲気。でも王子は気付かない。そして、道化が上手の女性を王子に引き合わせるのです。そして王子はその女性と踊り始める。それを見た下手の女性は淋しそうに引き下がっていったんですよ。こんな細かいところにも演劇的な要素があったんですね。

女性はあこがれの王子と踊りながら夢見心地ですが、王子の心はここにあらず。先刻王妃に「遊んでばかりいないで、明日は花嫁を選ぶのですよ」ときつく言われたことを思い出したのか。その王子の陰りのある心境と、この哀切なメロディとがぴったり合っていたことにちょっと感動しました。王子はやがて、空を飛ぶ白鳥に吸い寄せられていくように、踊りもそこそこにその場を飛び出していってしまうのです。あとに残った女性はかわいそう‥‥この王子とアダージョを踊ったのが今回大活躍のミキルチチェワ。本当に彼女はかわいらしいですね。あとでまた花嫁候補として出てきましたが、同一人物(役の上で)?‥‥じゃないでしょうけど。

≪第2幕≫
ここでは一旦幕を閉めて演奏だけになるのに、私たち後ろに立っていた10数名の客には何の案内もありませんでした。仕方なく立ち見のまま2幕に突入!

ここで幕を閉めずに中間の幕の後ろを白鳥たちが横切っていくレニ国版(旧)は、やっぱり情緒があってよかったなあ~。愁いを帯びた王子のソロもたっぷり見られたし。この版では幕が開いてから遠景に白鳥の作り物が動いていくだけなので、ちょっと物足りない気がしました。

オデットはナターリヤ・ソーモワ。まるで少女漫画から抜け出したような、お目々にお星様が10個ぐらい光っていそうな人でした。ちょっと華奢で線が細いのですが、イメージぴったり。ヴィジュアル的には申し分ないオデットでした。

2幕は一般的な版と大きな違いはないようで、オデットと王子の出会いの場面、コールドが出てくる前の部分がちょっと長くなっている程度かな。コールドは16人で普通よりは少ないけれど、そんなに貧弱な感じはしませんでした。

≪第3幕≫
休憩になってやっとここで自分の席に座れました でも、座ってみて気がついた。前のほうの端というのは、後ろに比べ角度が大きくなるので見づらいんですね。それにオーチャードホールは前のほうはほとんどまっ平ら。おまけにちょうど斜め前に座高の高い人がデーンといて、もしかして一番後ろ(30列ぐらいありますが
)のほうがよく見える??せっかく席に着いたのにそんな感じでした

ブルメイステル版ではここでこういう演技をするというのが細かく決まっているらしく、3年前に見て超演技派!と思ったスミレフスキの時と、やっていることはそんなに違いはないようでした。それにしてもやはり演じる人によって、同じことをやっていてもずいぶん違うものだなと改めて思いました。

スミレフスキはこの舞踏会のシーンが一番印象に残っていたのですが、いつも隣に座った王妃のほうを気にしている超マザコン王子という印象で、その上オデットを思い浮かべてぼーっとなったまま、花嫁候補なんかに目もくれずに、オデットが落としていった羽をもてあそんで、透かして見たり、匂いをかいでみたり、その呆けっぷりがものすごかったのです。

それからすれば今回のプーホフは、スミレフスキほどすごい演技力はないものの、かなりしっかりした理性と常識を持った大人の男という感じで好感が持てました。そういう王子だからこそ逆に、彼の心をぐいぐいと正気でなくそうとするロットバルトの気迫が生きてきたなと思いました。こういうのはお互いの演技の拮抗があってこそ面白いのですよね。今回はロットバルトの演技も迫力があってよかったです。

ここではオディールとロットバルトが、すべての民族舞踊のダンサーをひき連れてのそうそうたる登場になります。これだけ大勢の一団が、ただ一つ、王子の心を惑わせるためだけにやってきているのですから、その迫力は何度見てもすごいですね。ソーモワはオディールとしてはちょっと弱い感じもしないでもなかったけれど、この民族舞踊のダンサーの中に紛れて見え隠れするところは王子ならずともドキドキしてしまいました。

一般的な版とブルメイステル版の大きな違いは、ここの一番の目玉のグラン・パ・ド・ドゥの音楽がそっくり違う曲に入れ替わっていること。やっぱりオーソドックスなのがいいという人にはだめだけれど、これがまたなかなかドラマチックにつくられていることに改めて驚きました。

チャイコフスキー・パ・ド・ドゥにも使われているアダージョの音楽。これはチャイパドではさわやか系カップルの踊りだけれど、これが王子を翻弄し、やがて堕としていくという手練手管の音楽になろうとは‥‥。その最後、ついにオデットの羽を手放し、陥落した王子の腕の中へオディールが走り込んで横っ跳びダイブするその高揚感はすごかったです。打楽器がジャーン!と鳴り響くクライマックス。見ている者の心の高まりとともに、音楽もまた最高潮に盛り上がるのでしたね。

王子のヴァリエーションはチャイコフスキー・パ・ド・ドゥの音楽と同じ。オディールのヴァリエーションはボリショイのグリゴローヴィチ版と同じミステリアスな曲。そしてコーダはまた全然違います。民族舞踊軍団も加わって何という賑やかさ。王子はもう有頂天。そして、この人を花嫁にするといって王妃を呼びに行き、王妃も喜んで二人の手をつなごうとするのだけれど、それをロットバルトが押しとどめる‥‥このあと普通は王子が誓って急転直下となるのですが、これはそうではなくて、このあとまた花嫁候補の音楽が流れて、オディールがその場を一回りしてほかの娘たちを睥睨するシーンがあるのですが、この辺ちょっとまどろっこしい感じがしなくもない。王子が自分の間違いを悟るまでに時間がかかるんですね。

ロットバルト軍団が嵐のように去った後、王子は道化たちに止められながらも王妃に別れを告げ、オデットを追って再び湖へと飛び出していくのでした。

≪第4幕≫
それまではちょっと音楽が違うだけで大筋は合っていたのですが、この4幕はほとんど違うといってもいい感じで、実は私はこの4幕が好きなんですよね。4幕はまるで「ジゼル」。王子はひたすら白鳥たちに許しを乞うのだけれど、まるでウイリーのように怖い白鳥たちは、王子を決して許さないのです。マリインスキーみたいに
カッコよく戦ってロットバルトを倒す王子なんかじゃなく、ほんとにひたすら情けない王子様仕方なく最後はオデットが勇気をふりしぼって、ロットバルトの餌食になろうとしている王子を助けるのですから‥‥

さて4幕、王子が湖にやってきても、白鳥たちはオデットを取り囲んで会わせてくれません。王子は力尽きてその場に倒れてしまいます。 オデットはそんな王子のもとに駆け寄ろうとするのだけれど、白鳥たちに止められて列に戻されてしまいます。どこに行こうとしているのか、倒れている王子をよそに粛々と舞台を横切って歩みを進める白鳥たち。

でも、ついにその列を振り切ってオデットが一人王子のもとに戻っていくあたりで涙が‥‥そのときの音楽が普通の「白鳥」には使われてない音楽で、まるで葬送のように暗い悲痛なメロディが、連打されるティンパニとともにどんどん高鳴っていくんですよね。音楽が人物の感情とともにとても効果的に使われている場面だと思います。

ともに運命に飲み込まれそうになりながら、ふと意を決したオデットは王子に別れを告げ、一人でロットバルトのいる岩山へ。やがて現れたロットバルトに王子も立ち向かおうとしますが、湖に落ちて溺れそうになります。(こう書いていると本当に情けない奴みたいだよね頑張れ、王子!)ここの場面の、布の下に空気を送って波を表現するのはまるで歌舞伎みたい。そして、岩の上にオデットが現れる。

このあと王子は岩の下からオデットをリフトして暗転するのだけれど、そのときに火花が散ってロットバルトも滅びてしまいます。二人の強いきずなが悪魔を倒したのでしょうか‥‥しばらく真っ暗な後、今度は最初のときと同じドレス姿のオデットがリフトされて現れるのです。人間に戻れたんですね‥‥めでたしめでたしなのですが、ほかの白鳥はどうしちゃったのかな?

3年前は最後、とにかく感動して涙、涙だったのですけどね。今回は最初からずっと立っていたり、やっと席についても見づらかったりしたせいか、あ~こんなだったかなというだけでした。あの怖いウイリーのような白鳥たちは助からなくて、オデットだけが助かるのってどうよ、と突っ込みを入れてしまうくらい冷静だったのは我ながら失敗だったかなと いや、きっとほかの白鳥たちも助かった‥‥のでしょう?(と言い切れないのがもどかしい)

3年ぶりに見たブルメイステル版「白鳥の湖」は、人物一人一人の中身まで緻密によく考えられたつくりになっていることを再確認しました。やはりこれは王子の物語でしたね。悪の巧みさ、人間の心の弱さを前面に出して、冷静に考えればひどく情けない王子のはずなのに、それをそうストレートに感じさせないプーホフの骨太の王子像がまたよかったと思います。

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2010年4月28日 (水)

モスクワ音楽劇場「エスメラルダ」(15日ソワレ)

「エスメラルダ」というと、まず思い浮かべるのはあの有名な足先でタンバリンを打つヴァリエーション。あれは曲も踊りも魅力的で大好きです。

それから去年のレニ国のガラで見た、フェビュス(フェブ隊長)の婚約パーティに招かれた踊り子のエスメラルダが、仮の夫である詩人グレンゴワールと踊る場面。あれはバックの4人の女性とともに「パ・ド・シス」ということで、独立して踊られているそうです。

このブルメイステル版「エスメラルダ」は、現芸術監督であるフィーリンの演出で昨年復活上演されたリバイバル版だそうですが、これにはそのどちらの踊りも入っていませんでした。

「エスメラルダ」というバレエは、もともと「ラ・シルフィード」や「ジゼル」と同じロマンティックバレエと呼ばれる古い時代の作品だそうです。音楽はプーニの音楽が主で、元振付はぺロー。あのタンバリンのヴァリエーションが入ったグラン・パ・ド・ドゥは、ドリゴ作曲で振付はプティパなんですよね。よくわからないけれど、「せむしの仔馬」における「海と真珠」みたいに、あとでプティパが改訂した時に付け加えられたものがそのまま独立したのではないでしょうか?わかる方がいらっしゃいましたら教えてください。

レニ国のボヤルチコフ改訂演出版のDVDが出ているのですが、それにはタンバリンのグラン・パはないけれど、そのアダージョの音楽や、男性ヴァリエーションの音楽は確か別のところで出てきていたと思います。そして、パ・ド・シスはもちろんそのままありました。ところが、このモスクワ音楽劇場の「エスメラルダ」には、まず詩人は登場しないし、エスメラルダがフェビュスの婚約パーティで踊る場面も、ちょっと違ったシチュエーションになっていました。

そして、まあ何と悲惨なお話!レニ国のも悲惨だけれど、それに輪をかけ‥じゃなくって、何十倍も悲惨な話にびっくり「おしん」や韓国ドラマも真っ青で、これでもかというくらい主人公をいじめるんですよ。大体何でフェビュスが生きてるの?(レニ国版では一撃で死んでます‥)何でもなかったんだったら死刑になる必要ないじゃん!なんて突っ込んでもだめですね。見終わってしばらくはどよーんとした気分になってしまいました。

でも、全体的にいえばこれでもかというくらいの踊りの洪水で、コールドの一人一人に至るまで渦のように一体になって一つの物語を見せてくれたど迫力に、とにかく圧倒されました。

≪第1幕≫
最初にプロローグとして寺院の中庭か何かの場面があります。髪はボサボサ、ボロボロの服を着た母親が小さい女の子を抱いてふらふらとやってきて、マリア像の前でひざまずき、二人で一心に祈ります。そのあと、空腹で疲労困憊した二人は倒れ込んだまま寝入ってしまいます。すると、ジプシーの女たちが通りかかり、母親を見て行き倒れと思ったのか顔にスカーフをかけ、子どもを連れていってしまいます。‥‥目覚めた母親は半狂乱になって子どもを探しますが見つかるはずもありません。

エスメラルダの母クドゥラ(インナ・ギンケーヴィチ)は踊らない役かと思いきや、コンテンポラリーのような感じで激しく踊り、嘆きの心境を狂わんばかりに語ります。まずこれが真に迫ってすごいものでした。

それから十数年が過ぎ、ここは町の広場。舞台のデザインが一貫してノートルダム寺院を思わせるゴシック調で、この広場もその寺院の前と思われます。美術・衣装デザインはレニ国の「チッポリーノ」や、ルジマトフ改訂版の「海賊」でも美術を手掛けているワレリー・レヴェンターリ。重々しい舞台美術とは反対に、衣装はどれも明るくてきれいな色使いでした。

広場では祭の王を決めているのか、カラフルでかわいい衣装の3人の道化や、つぎはぎで色あせた衣装の3人の大きい元道化(?)が、町の人々やジプシーたちと入り乱れての大騒ぎ。まずここの踊りで、ガラの時の「石の花」や「ワルプルギス」のような楽しい高揚感を味わいました。キャラクターダンスの好きな人にはこたえられない楽しさだろうし、そうでない人にはもういい加減にやめてくれない?と思うくらいのボリュームでした。

この大きくて汚い道化さんたちの中心になっていたのが、ガラで鬼の親玉?を踊っていたマヌイロフ。やっぱりひときわ顔芸があって目立ちますねえ。この方のはじけっぷりがすっごくツボ思わずファンになってしまいました

祭の王に選ばれたのは醜いガジモド。彼が王に祭り上げられて騒いでいると、育ての親であるフロロがやってきて怒りだします。ガジモドはフロロには絶対服従なので必死で許しを請います。そうこうしているうちにジプシーの一団がやってきて、エスメラルダが踊ります。ひときわ美しい彼女にフロロは一目ぼれ。(なぜっ?!)

その後、エスメラルダが一人になったのを見計らい、フロロはガジモドに命じて彼女を連れ去ろうとしますが、そこへかっこいいフェビュス隊長がやってきて助けます。エスメラルダはフェビスを一目見て好きになってしまいます。一方ガジモドは捉えられてしまいますが、エスメラルダが許してほしいと懇願してガジモドは釈放されます。ガジモドもまた、エスメラルダの優しさにぽーっとなりますが、醜いゆえに相手にされない自分を嘆き悲しみます。何だかみんないっぺんにエスメラルダが好きになってしまったようでとても複雑。これで詩人が出てきたらさらにややこしくなるからカットしたのかな?

≪第2幕≫
1幕の混沌たる民衆のエネルギーあふれる世界とはうって変わって、2幕の初めは優雅な貴族の世界。クラシック・バレエのアダージョやヴァリエーションをたっぷり見られる場面になっていました。フェビスと貴族の娘フルール・ド・リスとの婚約を祝い、彼女の親族や貴族たちが集まっています。そこで踊られる人々の古風な踊りや、4人娘のヴァリエーションなど、1幕とは全然違う世界が展開していきました。

ヴァリエーションを踊ったクラマレンコ、ミキルチチェワは、ガラの時から今回の来日公演の注目ソリストです。この二人、すごくかわいくてお上手。あと、フェビュスにくっついてくる将校役のハムジンとクジミンもなぜかいつも二人ワンセットなんですねこの二人はまたみごとにシンクロして踊っていました。

やがてこの場に、ジプシーたちとともにエスメラルダもやってきます。エスメラルダとの再会を喜んでフェビスも一緒に踊りますが、ジプシーたちがしきりに、エスメラルダに「あの男はやめなよ」と言っているような雰囲気が感じられました。また貴族たちのほうも、このジプシーの一団をよく思うはずもなく、またせっかくの婚約披露なのに、当のフェビュスがエスメラルダと踊るのを見て嫌な顔をしないわけがありません。そのあとちょっと忘れたけれど、エスメラルダたちは追い出されてしまったんですよね?

エスメラルダ役のレドフスカヤは、ちょうど10年前にジュリエット役で見たことがあります。もう大ベテランだと思うけれど、とてもはつらつとして美しい。フェビス役のスミレフスキもなかなかの色男ぶりで、貴族と踊れば優雅に、エスメラルダと踊れば粋なプレイボーイに。このあと見せる信じられない冷たさもそうだけれど、やはりこの人の演技力は抜群でした。そしてジプシーを踊ったベラヴィナもかっこよかった。

場面は変わって、民衆の集まる居酒屋。フェビュスが訪れエスメラルダを外へ誘い出し、再び愛の語らいのような甘いパ・ド・ドゥを踊ります。ところが、そこへフロロがやってきて後ろからフェビュスを刺して逃げて行ってしまいました。突然倒れたフェビュスに驚くエスメラルダ。何が起こったのか考える間もなく、兵士たちは彼女を捕えて連れて行ってしまいます。あとに残ったガジモドが凶器のナイフを拾い、これはフロロがやったことだと確信したのでした。

≪第3幕≫
地下牢のようなところにいるエスメラルダのもとにフロロがやってくる。フロロは自分がフェビュスを刺したくせに、その罪をエスメラルダに着せるなんて何て奴でしょう。その上エスメラルダには助けてやるから自分のものになれなどというとんでもない破戒僧。「バヤデルカ」の大僧正だってここまで悪くはありませんよ。

この役を演じたキリ-ロフはかつてこのバレエ団で活躍していた人で、すでに引退して他の劇場の芸術監督になっているのだそうです。それが、ゲストでこの役を演じたら大絶賛で、今回の公演にも参加したということです。確かに一番悪いのはフロロだけれど、やっぱりただの悪者じゃありませんでした。聖職者でありながらジプシーごときに心を奪われ、嫉妬に狂って殺人まで犯し、そしてそれでもまだあきらめきれずに言い寄り、拒絶されれば自分の罪をなすりつけて平然と死刑台に送るという‥‥‥その考えられない冷酷な人物像さえも、思いがけない恋に身を堕として「苦悩する人」というふうに見せてしまう力量にうなりました。(ドルグーシンの大僧正ほどツボではなかったが

エスメラルダはこんな申し出は死んでも嫌に決まっています。フロロは怒り、エスメラルダは処刑されることになるのです。町の広場での処刑の日。またもやフロロはエスメラルダに助けてやるからと言い寄りますが(何てしつこくて卑劣な奴!)それでも彼女はフェビュスのことが忘れられないのです。

ところが、その当のフェビュスが、傷が癒えたのか婚約者とともに広場を通り過ぎて行くのでした。エスメラルダは彼の前に出て行きますが、フェビュスは一瞬立ち止まっても彼女と視線を合わせることもなく、もう全く違う世界の人間のように婚約者とともに立ち去ってゆくのでした。これが本当に信じられなくて、思わずエスメラルダに感情移入してしまった場面でした。彼女が好きになったのは一体誰だったのか。あんなに情熱的にエスメラルダを誘惑しておいて、全く何事もなかったようにふるまえるなんて、いくら遊びだったとしてもそれは人間のやることじゃありません。

友人が前日のチュージンのフェビュスを見て、イケメンがこんな嫌な役のバレエって初めて見たと怒っていたのが面白かったです。だって、アルブレヒトもソロルも、知ってて二股かけた悪い男だけれど、あとでどうしようもなく後悔にさいなまれたりしますよね。それが、フェビュスは全然何ともないのが余計に腹が立つ。もうこの役のダンサー(チュージン)の顔も二度と見たくないほど!‥‥って、すごいですね。あの甘いマスクのチュージンがそこまで嫌な役に徹していた技量もさることながら、スミレフスキはさらにその上を見せてくれていたと思います。

いくらフェビュスが嫌な奴でも、たとえ一時の遊びでも、かつて関わった女性が目の前で処刑されようとしているのを見て心が乱れないはずはないのです。だって、彼の背中を刺したのがエスメラルダでないことは彼が一番よく知っているのだから。それでもなお婚約者の手前どうすることもできず、エスメラルダが近寄ってきても平静を装って、冷たい表情さえ浮かべて平然と立ち去らねばならなかった(エスメラルダはもうすぐ死刑になっちゃうんですよ)その心中。全く無表情なふるまいの中でもそんなところを見ることができたので、私はひどい奴だとは思ったけれど、もう見るのも嫌っ!というほどではありませんでした。フェビュスもまたかわいそうな男だったわけです。

しかし何でこんなにひどいシーンがあるのか。フェビュスが生きているのも、婚約者とこれみよがしに通り過ぎるのも、観客の気持ちを逆なでするに余りある設定じゃないですか。レニ国の「エスメラルダ」にはこんなのありません。処刑されたあとにタンバリンが転がっていく、あのシーンのように情緒的に、エスメラルダはただ哀しく死んでいくだけです。

ある意味これは階級社会の悲劇なんですね。1幕の民衆やジプシーたちのエネルギッシュな世界と、2幕の貴族たちの優雅な世界は、もともと住むところが違うのです。フェビュスは貴族の側の人間だったんですね。だからジプシーであるエスメラルダが違う世界の人間に惚れたということ自体が悲劇だったわけです。その不条理が第一に描かれていたように思います。処刑場を平然と通り過ぎるフェビュスの存在は、その不条理を描くには不可欠だったのだと思います。

そして、これで終わりではありませんでした。さらにさらに不条理は続きます。絶望のあまり倒れたエスメラルダをガジモドが抱き上げて寺院の中に隠そうとしますが、それはフロロに引き戻され、まわりの人々の訴えも空しく処刑台に。そのとき、民衆の中から一人のぼろぼろの乞食のような女が現れるのです。彼女はエスメラルダのお守りを見て自分の娘だということに気付きますが、時すでに遅く、短い親子の名乗りのあと、その場で息絶えてしまうのでした。

この母親のクドゥラって、原作(ノートルダム・ド・パリ)にはあるのでしょうか?この人の存在も物語をさらに悲惨なものにしているのだけれど、狂った表情から、自分の娘とわかった瞬間の正気に戻る表情に思わず泣けてしまいました。もしかして、この人最初からボロボロだったけれど、実はこの母もエスメラルダも元貴族だった?なんて、そんな運命のいたずらも考えられなくもないような。そして、これを演じたギンケーヴィチの踊りもまたすごかったです。

そしてやはり原作もそうですが、この主人公はガジモドだったのかなと思わせるラスト。寺院の塔の上‥‥両側にガーゴイルの像があり、水墨画のようなセーヌ川の遠景の中で、ガジモドがエスメラルダの死を悲しんでいると、そこにフロロがやってきます。フロロには育ててもらった恩があり、絶対に逆らうことのできない存在。でも、ガジモドは彼がフェビュスを刺した真犯人だということを知っています。そして、愛する人を死に追いやってしまったにもかかわらず、聖職者として何食わぬ顔でいるフロロを許すことができなかったのでしょう。突然フロロに襲いかかったかと思うと、ガジモドはフロロを塔から突き落としてしまったのでした。

それまでただ醜い役、醜いゆえにバカにされ、醜いゆえに愛も伝わらない‥‥それが、ラストシーンでは自分にとって絶対的な存在であったフロロをその手で裁くことになる。私はなぜかこの最後の瞬間で一気に泣けてしまいました。醜いガジモドの心が、実は一番悲しくて一番美しかったんです。

もちろんエスメラルダ役のレドフスカヤは最高でしたが、この作品はただ運命に翻弄されるだけのエスメラルダよりも、彼女をとりまく人々、貴族と民衆、ジプシーなどが入り乱れる混沌とした世界を見せるものだったような気がします。そんな中で起こった悲劇。そして最後の最後で自らを葬るにも等しいガジモドの決意。それはこの舞台であるノートルダム寺院の上で下界を見守るガーゴイルたちの意思のように、こんな結末を迎えることになったのではないでしょうか。

決して後味がいいとは言えないし、私の友人のようにもう二度と見たくないという人もいると思うけれど、やはりガジモドが仇を討ってくれた?最後のこの一瞬の驚きで、すべてよしだったと思います。スピード感のある踊りと物語で満たされ、レニ国版(DVDでしか見たことがないけれど)の何十倍も見ごたえのある作品になっていました。

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2010年4月18日 (日)

モスクワ音楽劇場バレエ「オープニング・ガラ」

4月13日、オーチャードホール。
3年ぶりのダンチェンコはすご~く楽しかったです。

バレエを見始めのころ、このモスクワ音楽劇場のワシーリエフ版「ロミオとジュリエット」を見たことがあります。それからかなりたって、次に見たのは2007年。何と7年ぶりの来日だったそうです。そのときは「くるみ割り人形」とブルメイステル版「白鳥の湖」を見ました。シンプルで現代的な「くるみ」はともかく、ドラマチックで濃厚な「白鳥の湖」に圧倒され、次の来日公演も楽しみにしていました。

今回は「ロシア文化フェスティバル」への参加ということで、助成金も出ているのでしょうか?チケット代も前回よりかなり安くて、場所は大きなオーチャードホール。プログラムも前回より充実していてよいですね。だけど、なかなかキャストが発表にならなくて困りました。あちらではキャストなんて当日発表みたいなものだと聞いたことがありますが、早くからチケットを買うのにやっぱりキャストがわからないと買いづらいんですよね。それでもかなりお得なセット券が出ていたので、あとで買えなくなるよりはと、適当に行けそうな日にちを選んでチケットを購入しました。

別に誰を見てもいいんですけどね。特に言えば、ニューフェイスのチュージンを見たかったのです。彼は、本国ではミハイロフスキー(レニ国)にもゲスト出演していたりするようですし、You Tubeなどの映像で見る限り顔もスタイルもなかなかよくてちょっと期待していたんですよ。だけど、キャスト発表されてみたら(その後もまた変わった)結局「エスメラルダ」も「白鳥」も、両方ともチュージンをはずしてしまいました でもこの日は3演目に出演する大活躍でした。

この公演は、例の半年にわたる「ロシア文化フェスティバル」全体のオープニングとなっていたようで、開演に先立ち、ロシア、日本両国の大使?のあいさつがありました。ロシアの方のほうは通訳がまずくてよくわかりませんでした。日本の方はバレエなどにも親しんでおられる様子でした。1階のボックス席が記者席になっていて、カメラが並んでいて、記者の方がたくさん来ているなと思ったら、このあいさつが終わったら皆さんきれいに帰られていましたね。。

また、この公演では、ボリショイを引退してこのバレエ団の芸術監督となったセルゲイ・フィーリンが出演するということで楽しみにしていました。でも、前日になって急にキャンセル。体調不良ということですが、あとで舞台に上がったのを見たら‥‥最初から客寄せだったのかな?と勘繰ってしまうほど、何でもなさそう(キャンセルについても)でした。フィーリンは知名度も高くファンも多いから、特に有名な人がいるわけでもないこの劇場では唯一名前を出して宣伝できる人だったのでしょうけど。もしこれがルジマトフだったりしたら、それこそ大騒ぎで、当然払い戻しもあったでしょう。それからすれば、上手く利用されて(こちらも騙されて?)しまったのかな。

ともあれ、公演自体はとても盛りだくさんだったし、内容も濃くて満足できるものでした。ダンサーたちのレベルも高く、この値段でこれだけのものを見せてもらえて文句のつけようがなかったです。

≪第1部≫「パキータ」
マリーヤ・セメニャチェンコ&セミョーン・チュージン
ガラということで、バックは簡単な、何だかわからない絵でした。コールドの衣装は黄色系、ソリストは赤系でやや地味。最初の8人が出たところで、もうすでに何だか違う雰囲気。1月にレニ国の「パキータ」を見たけれど、やっぱりサンクトペテルブルクとモスクワでは流派が違うんでしょうか。最初はちょっと違和感を感じましたが、それでもコールド全員のピッカピカの笑顔に和まされました。

「パキータ」だからじゃないけど、皆さんすごくパキパキ踊ってる(シャレのつもり)というか、動作や首の付け方がはっきりしていて、特に上半身の使い方に特徴があるように思いました。パキータ役のセメニャチェンコは、この中にあってはとびぬけて長身細身で手足が長く、マリインスキーによくいるようなタイプでした。でも何というか、やっぱり踊り方なんでしょうか、無駄な動きが多くてガチャガチャしているような感じ。回転の軸が甘いというか。これは特に彼女に限ったことではなくて、この劇場の傾向か先生の指導かでしょうけれど、精度より勢い重視な印象を受けました。

チュージンも、首から背中にかけてのラインがすっきりしない印象はあるものの、テクニックはしっかりしていて素敵。長身でスタイルもよく、ルックスはまさしく王子様白い衣装がよく似合って、とても華のあるダンサーでした。

だけど、やっぱりコールドがずらっと斜めに並んで男性プリンシパルが登場するところは、もう音楽を聞いただけでことし1月に見たルジ様を思い出してしまって ああ、あの意表をついた白づくめのルジ様‥‥ダメですねえ、私って。

ソリストは、最初の華やかなヴァリエーションを踊ったクラマレンコと、次の優雅なヴァリエーションのミキルチチェワが特に印象に残りました。この二人かわいい~そして皆さんお上手。男性では、3年前に「白鳥」のパ・ド・カトル(普通はトロワ)を踊っていたハムジンとクジミンがまた二人ワンセットで登場。タイプは違うと思うのですが、この二人は身長も同じくらいでよくシンクロしてました。演目のせいもあるけれど、最初から結構盛り上がりました。

≪第2部≫
「石の花」より

「石の花」という全幕バレエがあるのは知っていましたが、何とここでは、ソリストは出てこなくて、ただただ街の喧騒シーンだけを見せるという、ガラでは珍しい趣向にびっくりです。衣装はみなカラフルなロシアの民族衣装のようなもので、踊りも民族舞踊的で最初からパワー炸裂!「明るい小川」か「イワンと仔馬」かという感じで、プロコフィエフの混沌としたエネルギーを感じる音楽もよくて、楽しかったです。そう、このオーケストラがいいんですよ。打楽器がめちゃめちゃ元気で、気分がとても高揚しました。

「グラン・パ・クラシック」
金子扶生&ゲオルギー・スミレフスキ

3年前に「白鳥の湖」の王子役で、濃~い演技を見せてくれたスミレフスキは、このバレエ団のトッププリンシパルです。そして金子扶生(ふみ)さんは、昨年のモスクワ国際バレエコンクールのジュニア部門で銀賞を受賞したそうです。フィーリンがコンクールを見て絶賛し、このガラに出演させたそうです。最初はコンクールの受賞者がゲストなんてと思いましたが、とんでもない。18歳とは思えないテクニックに加え、まるで吉田都さんのように正確無比で一分のぶれもなくもう完璧。おそらくこの劇場のダンサーにはいないタイプじゃないでしょうか。それがまたどっちがいい悪いじゃなく面白いと思いました。

ただきっちりと正確に踊るだけではなく、緩急の付け方も絶妙で、それが踊りに彩りと表情を加えています。スミレフスキと組んでも全く臆することなく(こういうシチュエーションだと先生と生徒みたいに見えちゃうことがあるよね)堂々と自分の踊りを踊り、素晴らしかったです。ヴァリエーションで1か所ちょっとつまづいたようなところがあったけれど、ほとんど完璧で驚きました。スミレフスキもかっこよくさすがなところを見せてくれて、とても見ごたえがありました。

「ジゼル」
ナタリア・レドフスカヤ&セミョーン・チュージン

なんて羽のように軽いジゼルなんでしょう。小柄なこともあるけれど、リフトされふわっと浮かび上がるところは、本当に精霊のよう。低いリフトで左右に揺れるところは、まるで風にそよいでいるようでした。ただ、ソロの踊りは何だか上半身が動きすぎで、この劇場独特?のガチャガチャした要素がやはりありました。そのせいかそんなに情緒を感じさせるものではなかったのが残念。

チュージンはベテランのレドフスカヤと組んでも、サポートはうまいし、しっかり物語の世界をつくっていて、あの短い中でもジゼルへの愛や苦悩をめいっぱい表現していてよかったです。演技力もある人だと思いました。

「ロマンス」
イリーナ・ベラヴィナ&ロマン・マレンコ

クラシック以外の踊りはよくわからないことが多いのですが、これは踊りというよりは演劇のようでわかりやすかったです。どこかで聞いたような哀切きわまりないメロディーが流れ、闇の中に浮かび上がった粗末な二つの木の丸椅子。片方は誰もいなくて、片方にはシンデレラのようなグレーのボロボロの衣装をまとった女が淋しげに座っています。そこへ闇の中から粗末な麻袋のようなものを持った男が現れます。男は粗い織目のパジャマのような服なのだけれど、それもかなり汚れている感じ。

男がそっと荷物を椅子の上に置くや、女は喜んで男と踊りだす。それがだんだん激しく、音楽とはまるで正反対の狂喜乱舞という感じになっていきます。しがみつき、足をばたつかせ、男が帰ってきたことがよほどうれしいのか、または楽しかった日々の回想なのか。そんなに激しく愛情を表現していたのに、ふと男が椅子に置いた荷物を手にした瞬間、女は一転して恐怖と哀しみの表情になるです。そしてどんなにすがっても、男はまた闇の中に消えていってしまう。音楽は同じメロディを繰り返し、女は絶望に沈む‥‥まるで一つのドラマを見るようでした。

「ゼンツァーノの花祭り」
ガリーナ・イスマカーエワ&奥村康祐

この奥村君も、金子さんと同じ昨年のモスクワ国際バレエコンクールで銀賞をとったそうです。ほとんど飛び回っているとしか思えない難しいブルノンヴィルの振付を、まるで羽が生えたように軽くこなして、またパートナーとのやりとりも芝居っ気を含んでいてほほえましかったです。小柄で華奢なせいかかなり若く見えます。身体能力に優れていて、ちょっとシムキン君を彷彿させるタイプでした。
イスマカーエワも小柄なほうだったかな。表情豊かに踊っていました。

「悲しみの鳥」
マリーヤ・セメニャチェンコ

第1部でパキータを踊ったバレリーナ。例のモスクワ国際コンクールでこのレパートリーを踊り、金賞をとったということです。ひときわ長身でスリムな彼女によく合った踊りでした。衣装は上半身にベージュが入っているところ以外は白で、所々グレーの羽のようなピラピラがついているユニタード状のもの。音楽はピアノのソロでした。

踊りは「瀕死の白鳥」に似たパドプレや、鳥の羽ばたきのような表現もあって静かだけれど、大きく手足を伸ばすポーズやジャンプなど、躍動的なところもありました。指がいつも日本舞踊のようにくっついていて、指先を反らし、手首をカクンと直角に曲げたりする手の表情が特徴的。1960年に発表されたというから、コンテンポラリーとしては古い作品のようだけれど、セメニャチェンコのすっきりとしたしなやかなフォルムが、この作品を現代的なものに生まれ変わらせているようでした。

オペラ「ファウスト」より「ワルプルギスの夜」抜粋
ナターリヤ・レドフスカヤ、ミハイル・プーホフ、ドミトリー・ハムジン

キャスト表には載っていなかったけれど、鬼どもの頭領のような(パーン?)役を踊っていた大柄なダンサーがすっごく目立っていて、そのパワフルなマッチョぶりに思わず釘づけになりました。あとで聞いたらセルゲイ・マヌイロフという人だそうです。プログラムに写真が出ているけど、あのすごい鬼メイクだと誰だかわかりません。ああいうキャラクターを迫力満点に踊るような人も、イケメン王子さまとはまた別の意味でカッコいいですね。

いきなりレドフスカヤが高々とリフトされて登場‥‥ああ、ここの部分はレニ国でエフセーエワが踊ってたなあ~なんて感慨に浸ったりしました。あそこまでアクロバティックではなかったけれど、それでもかなりのすご技満載。プーホフもなかなかワイルドで素敵でした。それからまた鬼どもの脚の編み上げ紐?みたいなスタイルもカッコいい。頭に角をつけて虎の皮のパンツ一丁のマンガチックで笑っちゃう鬼スタイルなんだけれど、これ好き、好き!やっぱりこんな血沸き肉躍るような踊りが大好きです。

あとから登場するハムジン扮するギリシア神話の人みたいなのはバッカス?いや、プーホフがバッカスかな?よくわからないけれど、ハムジンはこのワイルドな連中の中にあってただ一人端正な雰囲気をもったキャラでした。酒に酔った踊り?なのかよくわかりませんでしたが。あとになるほど音楽も盛り上がり、高揚感がありました。この演目が一番楽しかったです。

「ドン・キホーテ」より
ナターリア・ソーモワ、ゲオルギー・スミレフスキ、セミョーン・チュージン、セルゲイ・クジミン

この演目にフィーリンが出演することになっていたのですが、芸術監督であるフィーリンは出演のためのレッスンをするどころじゃなく忙しかったそうで、最初から無理だったようです。でも、出ないと発表されたのは前日。それでも何も文句を言わない観客というのがいいですね。いや、このチケット代じゃ文句は言えない

今回が初来日というナタリア・ソーモワとスミレフスキのアダージョから始まりました。スミレフスキは何を踊ってもはまる感じですね。ソーモワはスリムで小柄な感じ。きれいな人だけれど、華というにはちょっと弱いかも。ヴァリエーションの高速の足技などは軽やかでよかったです。

どういう順番か忘れたけれど、ヴァリエーションが二つ入りました。よくある元気なほうの曲を踊ったのは「パキータ」で最初のヴァリエーションを踊ったクラマレンコ。ジャンプがきれいでよかったのですが、最後のほうでステンと滑って豪快に尻もち。バレエでは珍しいですよね?フィギュアスケートの選手のように何事もなかったように立ちあがって踊り続けましたが、大丈夫だったでしょうか。もう一つのヴァリエーションはミキルチチェワ。踊りもうまいけれど、彼女の持つ優しい雰囲気がいいですね。

男性ヴァリエーションはクジミン。悪くはないけれどやたらにびしっ、びしっとポーズを決めようとする感じが、動きが硬く見えてしまって残念でした。彼は小柄で顔が女性的なので、バジルという感じじゃなかったなあ~。

コーダは最初にチュージンが踊り、ソーモワのグランフェッテが入り、そのあと男性が回るところでスミレフスキが登場して回ろうとすると、左右からチュージンとクジミンが出てきて3人のピルエット合戦となり、華やかに締めくくりました。

会場は後ろの端のほうにわずかに空席が見られる程度のほぼ満席。「パキータ」で最初から盛り上げて、レドフスカヤやスミレフスキなどのベテランやコンクール受賞者たちの踊りをじっくりと見せ、「ワルプルギスの夜」で最高に盛り上げて「ドン・キ」で締めくくるという、すばらしく満足のできるプログラムでした。

カーテンコールにはフィーリンも登場しました。みんなを立てて拍手をするところがほほえましかったですが、やっぱり踊るところが見たかったかな~。黒のスーツを着ていたからよくわからなかったけれど、ちょっと体型が変わって?しまったということですけどね。

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2010年3月28日 (日)

グルジア国立バレエ「ロミオとジュリエット」(14日)

ひゃあ~。あれから早くも2週間経ってしまったんですね。忙しくてなかなか見てきた感想が書けないでいたら、もう大方忘れてしまってる。見たんですから感想ぐらい書かないとと思うけれど‥‥何とこの日NHKのカメラが入っていたんですね。かなり大きなカメラが正面奥と左右と。だからいつか近いうちにテレビで放送されるでしょう。そのときにまた細かいところは思い出すとして

Simg いや、本当にニーナのジュリエットはひたすら純真無垢で、可憐で、かわいらしかったです。年齢を考えると信じられないことですよね。私とそんなに変わらないのに!!も~一体何なのっ!

大ベテランのジュリエットといえば、以前、舞踊生活50周年とかで森下洋子さんがジュリエットを踊ったのを見ています。確か53歳の時でした。森下さんも本当に少女のようなジュリエットでしたが、森下さんのジュリエットは努力によって磨きに磨き、10代の少女に見えるよう角度や仕草までさまざまに計算されつくしたジュリエットだったような気がしました。だけど、ニーナのジュリエットの可憐さはまさに天性だと思うのです。

見るほうのバレエファンじゃなくて自分で踊る人や、あるいはバレエを教えたりしている人の中には、私の知っている中にも数人、なぜかニーナをあまり好きじゃないという人がいるんですよね。万人に愛されるバレリーナと思っているから、私もついうっかりある人に「この間ニーナのジュリエット見てきたの~やっぱりかわいかったわ!」などとノーテンキに言ってしまったら、あ、この人に話しちゃいけなかったんだ‥‥というのをあとで思い出しました。どうしてかよくわからないけれど、そういう人は「表現力がない」とか「見せる努力がない」などとおっしゃる。それは若いころの、超高速フェッテやスーパーバランスなど、圧倒的なテクニックを見せつけていたころのニーナの印象なのか?いや、私はそもそもこの「天性」というのがお気に召さないんだと解釈しているのですが。

私は無条件にニーナ大好きで、見るだけで本当に幸せな気持ちになるのだけれど、よく考えるとキトリなんか何もしなくてもニーナそのものだし、オデットも、オディールも、そしてこの間見たジゼルも、ことさら役をつくってなんかいない。もうそのまんまでオデットだし、オディールだし、ジゼルなんだもの。今回のジュリエットだってそう。46歳のニーナがそのまんまでジュリエットというのはある意味奇跡ですよ。ファンの私は踊りがどうのよりも、まずその奇跡のかわいらしさを見られただけで満足です。

多分、ニーナがジュリエットを踊るのは(ジゼルも?)日本ではこれが最後ということなので、その舞台が映像に残るというのはとてもうれしいことですね。‥‥なんて、私ったら忘れちゃったからその映像に期待してるみたいですねえ。でもある意味映像に残るだけの価値のある舞台だったのだと思います。ウヴァーロフだって引退が近いような噂もあるし、岩田さんの踊るマキューシオも多分もう二度と見れないでしょう。そう、岩田さんはとても元気に飛び跳ねていました。マキューシオの道化っぽい演技もちょっと哀愁が漂って、なかなか味のあるものでした。ウヴァちゃんは多少おじさん臭くなったものの、それでも去年マリインスキーのガラで見たイワンチェンコより何百倍も若々しくて素敵なロミオでした。

グルジアバレエのダンサーで目立ったのは、プログラムにニーナの相手役としてたくさん写真が載っているワシル・アフメテリがティボルトを演じていて、このティボルトがすごく憎々しくてよかったです。あと「ジゼル」でアルブレヒトの従者だったユーリ・ソローキンがキャピュレット卿。グルジアってところは男も女も本当に一度見たら忘れないくらい「濃い顔」が多いから、この人も見てすぐにわかりました。「ジゼル」ではミルタを演じたラリ・カンデラキが、今度はかわいらしいジュリエットの友人。ペザントでヴァリエーションを披露したヤサウイ・メルガリーエフは、キャスト表には「吟遊詩人」、「道化」と出ていましたが、場面場面で思いきりのよい踊りを見せていました。

舞踏会のシーンも街のシーンも、そんなふうに濃くて暑苦しい顔ばっかりずらっと並んですごかったのですがその中ではパリス役のダヴィド・アナネッリがすっきりとした高貴な雰囲気を感じさせてめっちゃ好みでした。こっちのほうがいいじゃん‥‥そう思ったらこの物語は崩壊するので、必死でウヴァちゃんのほうに感情移入してましたが、やっぱパリスかっこよかったのでじ~っと見ちゃいましたよ はい、どうしようもなくミーハーです。

踊りではやはり最大の見せ場、バルコニーがない(ないんですたらーっ(汗))バルコニーのシーンが一番泣けました。何て幸せそうな二人ぴかぴか(新しい) これからとんでもない悲劇が襲うことなど微塵も知らず、今、この刹那を生きる若い疾走感。。これに感動せず、何に感動するのでしょう。美しければ美しいだけ、この後の顛末を知っている観客はどうしようもなくせつなくなります。涙がわ~っと出たところで幕。そして会場がすぐに明るくなったのにはとても困りました。

今まで見た「ロミオとジュリエット」は、あまり前のは忘れてしまっているけれど、モスクワ音楽劇場のワシーリエフ版、シュツットガルト・バレエのクランコ版、そしてこの間見たデンマーク・ロイヤルのノイマイヤー版、あとは映像でしか見たことがないけど(ことし6月には生で見られますね)英国ロイヤルのマクミラン版と、いろんな版があって、皆それぞれに特徴があり、独特な趣向を凝らしています。ここで演じられたのはその中でも元祖のラブロフスキー版ということでしたが、プログラムを読むと、これはラブロフスキーの息子が手を入れて2006年に初演した改訂版だったんですね。

大筋のところはとてもシンプルで、それでいて中間の幕を使った幕前での演技の間に場面転換をするというスピード感ある展開で、オーソドックスではあるけれど全く古さを感じさせないいい演出だと思いました。舞台美術も豪華さがあり、衣装はカラフルだけれど統一感があってその時代のイタリアを感じさせるものでした。

唯一難点を挙げるとすれば、すれ違いのために二人とも死んでしまう悲劇のラストシーンが何だかあっけなかった。もう少し余韻がほしいのに、それを感動する隙も与えずにすぐさま人々がなだれ込んで、何?何?何なのこれは!状態。そして中央でいきなり敵対していたモンタギューとキャピュレットががっちり手を組んで幕‥‥何でそうなるの?死んでしまった二人を見て嘆くこともなく、ここで物語がブツッと切れてしまったのでした。
二人の死によって何百年も敵対していた両家が争いをやめました。めでたしめでたし、ですか~ せっかくどっぷりと感情移入していたのに、あのラストが釈然としなかったと思ったのは私だけでしょうか?

カーテンコールはさすがに最終日で盛り上がりました。もちろんスタオベ。ニーナもウヴァーロフも、そして岩田さんもとても満足感にあふれ、うれしそうでした。思えばこの地方公演もある長いツアーを大ベテランの一枚看板でずっとやってきたのです。いくらでもアンダーのいるパリオペとは正反対。それだけでも本当にすごいことだと思います。その緊張感の上にこれだけのものを見せてくれて、本当に素晴らしい!感謝、感激!

ニーナのお嬢さん、前回のグルジアバレエ来日時にはほとんどよちよち歩きでしたが、もう立派なおしゃまさんになって、小さな花束を持って登場。顔がまんまるでめっちゃ可愛いかったです。何度目かのカーテンコールの時にニーナはグルジアの国旗を背負って登場。ことしのオリンピックで悲しい事故があったために、この国旗はすっかりおなじみになってしまいましたが、ニーナの祖国グルジアはまだロシアとの関係が不安定で、大変な状況と聞いています。そんな中で国旗を背負って現れたニーナの愛国心を、心のどこかにとどめておきたいと思いました。

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2010年3月27日 (土)

パリ・オペラ座「シンデレラ」(13日)

Simg_0002_2 先に「ジゼル」を書いてしまったので今さらという感じになってしまいましたが、私にとって初めてのパリ・オペラ座の全幕はとても楽しかったです。

パリ・オペラ座は今までどうもご縁がなかったというか、見たことがなかったんですね。私が知っているのは2008年に「ル・パルク」のみで来日したとき。それ以前の公演を調べてみたら、2003年にヌレエフ版「ラ・バヤデール」とバランシンの「ジュエルズ」、2006年に全幕「パキータ」とヌレエフ版「白鳥の湖」というのがありました。私がバレエを見始めたのが99年ですから、見るチャンスはあったわけですね。でも、ちょうど少し観賞から離れていた時期で知らなかった。

チケットの値段は調べられませんでしたが、今のような価格設定だったら知っていても多分行かなかったでしょう そうなの、バレエ・フェスなみに高い!S席25,000円って一体何事!?でも今回の「シンデレラ」は好きな演目だし、カール・パケットが映画スター役で出るし、これは見なきゃいけないでしょうということで、S席奮発しました 結果はとても満足な公演でした。楽しかった~。

ヌレエフ版の「シンデレラ」はルテステュ主演のDVDが出ていますが、私は86年のギエム主演のビデオ版が好きです。あれはヌレエフ自身がプロデューサー役で出演していて、とってもいい味を出していました。ジュドの映画スターも超素敵だったし、何より最強のバレリーナと思っていたギエムが、ガラス細工のように繊細でたおやかで、そしてとてもかわいらしいことを初めて知ったのです。

ビデオでは感じなかったのですが、これは実際の舞台で見たらとてもスペクタクルな作品でしたね。プロデューサーが魔法使い(仙女)の位置づけになっているのですが、まさに魔法のよう!大きなマリリン・モンロー?のような人形が上から下りてくるわ、かぼちゃがオープンカーになるわ、他にも巨大キングコングや、チャップリンの「モダンタイムス」を思わせる大きな歯車のついたやぐらなど、セットも映画並みにすごいのです。そう、これはお城の舞踏会ではなくて、30年代のハリウッドの撮影所という設定になっているのです。そのために、昔の映画はよくわからないのだけれど、それらしいものが次々に現れる面白さ。これを見たら、ヌレエフって天才!と思ってしまいました。

多分、昔の映画を知っていたら何のパロディかわかるのでもっと面白いんだろうな~。例えば最初に映画監督が現れるとき、飛行機乗りの扮装で、操縦桿のようなものを握っていましたよね。まるで墜落して天から降ってきたみたい。あれも何かのパロディかなあ~。私は、時代は違うけどすぐに「愛と哀しみの果て」や「イングリッシュ・ペイシェント」なんかを連想してしまいました。そんなふうに何だかわからないけど、映画の世界を思い起こさせるんですね。

シンデレラがお父さんの服を着て、ステッキを持ってタップダンスをするところも、洋服掛けを振り回したりしているところが、いかにもという感じ。チャップリンが酔いどれて街頭にもたれかかっているようなスチール写真をどこかで見たことがあるけれど、きっとあれですよね。あとで撮影所で行われるシーンも、看守と牢の中の囚人が入れ替わっちゃうコメディとか、ロココ調のドレスを着た男たちがドタバタ劇を繰り広げるシーンとか、リロ(ディズニーの)みたいな南洋の女の子がインディアンたちにキングコングの生贄にされそうになるところとか。それから、ごちそうを乗せたワゴンを押してメイドさんたちが現れるところも、数え上げたらきりがないんだけれど、その一つ一つが意味はわからなくても面白かったです。

何かこうやって書くと「シンデレラ」という物語からはかけ離れているみたいだけれど、そうではありません。継母と二人のお姉さんに執拗にいじめらるところはもう殴る蹴るで必要以上にリアルだし、酔っ払いのお父さんからお酒を取り上げて「もうお酒はやめて」と懇願するシンデレラはどうしようもなくやりきれなくて悲しい‥‥この不遇を絵に描いたような女の子に、やがて後見人が現れて、日の当たるところに出て、そして幸せを勝ち取っていく。これが「シンデレラ」のお話なら、舞台がお城の舞踏会であれ、映画の撮影所であれ、同じことだと思うのです。その斬新な発想もさることながら、こんなにいっぱいのシーンを、同じプロコフィエフの音楽を使ってめいっぱい作品の中にぶち込んだというのはすごいことだと思いました。

それと、ヌレエフといえば意味もなくガチャガチャした、こうるさい振付という感じであまり好きではないのだれど、これはヌレエフ流ドラマチックバレエというか、ほとんどモダンに近いくらいに動きで状況や感情を表しているところもあるし、逆にショーダンスやパントマイムに近いところもあったり‥‥そしてコミカルな中にも何気に超絶テクニックが入っていたりして、面白い振付だなあと思いました。ほかのヌレエフ作品のように単純な古典の焼き直しでないことや、ヌレエフ自身が主役を踊ることを想定していないということで、意外にいいんですよね。それぞれのキャラクターの性格や特徴、そして細かな心情までも、複雑怪奇な振付の中にちゃんと表現されているのには驚きました。

さて、肝心の当日の舞台です。ずいぶん鮮度の悪い感想ですが、とにかくカールさまが見たい一心だったので、その点では満足でした。カール・パケットはヌレエフ版「白鳥の湖」のDVDでロットバルトを演じていて、そのクールな美しさに思わずファンになってしまいました。いや、ファンとまではいかないけど、前回書いたように馬面ばっかりのパリ・オペの中では一番すっきりした美男子だし、好きです。昨年の暮れに、遅まきながら32歳でエトワールに昇進したんですよね。おめでとうございます!

カールは、登場の瞬間からとびっきりのスターのオーラを放っていました。ただ、最初の踊りはスピード感はあったものの、ちょっと重めで伸びやかさがないかななんて思ってしまったけれど、それは変な振付だからですよね。あれは小柄で敏捷な人に向いた振付なんじゃないでしょうか。ビデオのジュドさまはあの変な振付をエネルギッシュにこなして、思いっきりのキラキラ感を表現していましたよねえ。そのあとのヴァリエーションのほうが大きい動きが多くて、それが豪快で、カールに合っていて素敵でしたハート達(複数ハート)

シンデレラ役はマリ=アニエス・ジロー。この方は確か「オーロラ」という映画で、すごく妖艶な中近東風の踊りを踊っていましたよね。あの恐ろしいほどの腹筋にはびっくりでした。私は本当にパリ・オペラ座のことは知らなかったんですが、ジローは美しい顔に似合わずかなりな大女だったんですよね。YouTubeにアップされている「ライモンダ」を見ていたら、長身のジョゼ・マルティネスのジャンが相手の時はよかったのだけれど、ニコラ・ルリッシュのアブデラフマンを相手にしたとたん‥‥もうニコラが気の毒になるほどの大女(しかも重量もありそうたらーっ(汗))ということが発覚してしまったのでした。カールも大柄ではあるけれど、ジョゼほどの身長はないと思うからちょっと心配でした。

1幕では、ジローのシンデレラはお姉さんたちよりもずっとでかくて強靭そうで、いくらいじめても全然平気な感じたらーっ(汗)それでいて内気でフェミニンな雰囲気はちゃんとあることに好感を持ちました。2幕で美しい衣装に変身し、毛皮の襟付きのマントをはおった姿はすごくゴージャスで、ファッションモデルみたいに素敵で、あのたくさんのカメラを持った男たちを従えた登場シーンに素晴らしく映えていました。

回転椅子をつかった美しいパ・ド・ドゥはやはり涙ものでした。ただ、リフトしてぶんぶん振り回すようなところが多いので、大柄なカール様にも輪をかけて大女なジローのサポートはかなり大変そうで、見ていて必死な感じがしてしまった分、ちょっとマイナス点がありました。それでも、二人のアイコンタクトは本当に幸せそうで、こちらも幸せな気分を十分に分けてもらうことができました。

忘れてたけど、継母役はジョゼ・マルティネスだったんですね。もうそのスリムな美しさにびっくり。そして思いきりコミカル。彼の王子は私は趣味じゃないけど、こういう役なら最高!シンデレラの靴を試すときだって、絶対に入りそうにないもの。いや、大女の靴は見るからに大きくて、お姉さんたちにはすっぽりと入っちゃいそうでした。危ない危ない、これが入っちゃったら物語が破綻しますものねえ

そうそう、お姉さんたちですが、そのはじけっぷりは見事でした。でも、私にはやっぱりビデオのイザベル・ゲランとモニク・ルディエールの素晴らしい意地悪ぶりが忘れられません。あのイザベル・ゲランの、足が一体どっち向きについてるの??という信じられないような踊りは、あれは彼女の特技の範疇で、他のダンサーには到底真似できないものだったんですね。

ラストシーンで、隅のほうで一人佇み、葉巻をくわえながら二人を暖かく見守るプロデューサー。これは初演でヌレエフ自身が演じた役です。何かその姿が晩年のヌレエフとダブって見え、思わず泣いてしまいました。今でもヌレエフはここに生きているって。この作品の中で、この作品を踊り継いでいるパリ・オペラ座の中で。

仕事と名声、愛と幸福を手に入れたシンデレラの、静かだけど輝かしいラストシーン。リフトされて風に吹かれて流れるスカーフをもっと見ていたかったのに、さっさと幕が閉まってしまいましたね。多分相当重かったのでしょう‥‥めでたし、めでたし。

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2010年3月22日 (月)

パリ・オペラ座「ジゼル」(20日ソワレ)その2

順番で言えば「シンデレラ」のほうが先なのに、こちらが先になってしまいました。やはり感想は鮮度が命‥‥1週間もたったら忘れてしまいますよね 書く気がおきない舞台というわけではなかったのですが、忙しさにまぎれてしまい、それに打ち勝つだけのエネルギーがなかった。でもこの日の舞台はすご~くそのエネルギーをもらった気がします。

≪第1幕≫
幕が開くと村人たちが楽しそうに踊りながら通り過ぎて行きます。中には女性をリフトしたり‥‥ほかのところの版よりはずいぶん舞踊的。
ジゼル&アルブレヒトはきのうも書いたとおりビジュアル的には「中年版」‥ヒラリオンはやはりかっとなってナイフを抜く危ないタイプ(笑)

村の男女の衣装は、バックの書き割りの絵画の世界に溶け込むような、オレンジ~薄いベージュの柔らかい色合いでとても美しい。そしてその村人たちの踊りがかなりのスピードで、難しいステップなのです。これからすればキーロフのDVDなんかはフォークダンスだな~‥‥などと思ってしまうくらい。クーランド公、バチルド姫一行がやってきて飲み物を所望し、村人たちが接待する場面で、ふつうはジゼルとバチルドの首飾りのやりとりが終わるとすぐにあっけなく解散ですが、ここでは貴族一行に村人たちが踊りを披露するという形でペザントのパ・ド・ドゥが踊られます。このほうが自然な流れかもしれませんね。

このペザントを踊ったのはリュドミラ・パリエロとアレッシオ・カルボネというダンサーで、両方ともエトワールの下のプルミエ・ダンスールの人でしたが、これが素晴らしかった。こんなに見ごたえのあるペザントは初めてで驚きました。最初二人で踊るところは躍動感あふれていました。男性はヴァリエーション2種、女性は二つあるヴァリエーションのうち第2のほうを踊り、間に村娘たちの踊りが入ります。カルボネは細かい足技も着地も完璧。きびきびした踊りが小気味よかったし、バリエロも早いステップをきっちり踊り、さらにバランスもきれいで素晴らしかったです。

8人の村娘もまた複雑なステップを息つく暇もなくこなしてすごかった。多分袖に入った途端にバタっと倒れ込むぐらいの勢いじゃないでしょうか。スカートが遠心力で広がるくらいひたすらぐるぐる回るところは圧巻でした。これを見終わったところで、うわ~、これはすごい!「中年版ジゼル」だなんて茶化してる場合じゃないかも‥‥と思い始めて、それからはぐいぐい引き込まれました。

見ているといろいろ細かいところが面白かったです。バチルドと話しているときに、ジゼルが「私の結婚相手は」‥‥といってアルブレヒトを紹介しようと探す場面、普通はちらっと見まわすだけだけれど、ここではジゼルが村人たちの中をぐるっと探し回って、残念そうに「いません」というの。それから、あとでアルブレヒトがジゼルのしている首飾りを見て「え?何これ?やばい」という顔をしたのが面白かったです。あと、クーランド公が家の中で休息しようと引っ込む時、ジゼルの顔を上げさせて、誰かに似ている?とでもいうようにじっと見ているのが気になりました。そういえばジゼルの父親って出てきませんよね?誰か貴族の落としだねだったのかしら??

貴族たちが思い思いに出て行ったあと、ジゼルは収穫祭の女王?に選ばれ、そこでヴァリエーションを踊ります。普通は首飾りを母親に預けて踊るのだけれど、ここではしたまま踊りましたね。ムッサンは意外にもかっちりとした硬質な踊りでした。そしてまた村人の踊り。本当にこの村人がすごいというか、誰一人気を抜いていなくて、みんなで心を一つにして舞台を作り上げている緊張感がひしひしと伝わり、それが「パリ・オペラ座」の高いクオリティを保っているようで、その気迫に圧倒されました。

そして‥‥思い出した。ムッサンは映画「パリ・オペラ座のすべて」の中で、あの鬼気迫る「女王メディア」の、子供に赤い絵の具べちゃべちゃ‥‥のシーンを演じていた人ですよね。。。狂乱のシーンはもうそのとおりの迫力で、怖いくらいでした。腕の中で崩れて行ったジゼルを、信じられないという思いで何度も抱きしめようとするアルブレヒト‥‥ヒラリオンに挑みかかっては止められ、村人たちにはただ拒絶されてとりつくしまもなく、狂わんばかりに走り去った‥‥このペッシュの演技もまた濃くてよかったです。

≪第2幕≫
2幕は前回も書いたとおりとにかくムッサンのジゼルがよかった。霊的というか、何かがとりついているよう。アルブレヒトに対して聖母のような愛を感じさせる人も多いのですが、ムッサンはあくまでウイリーなんですよね‥‥。墓を訪れたアルブレヒトを見て、あなたは何を泣いているの?と近寄っていくときも、何か遠い記憶をたどるような雰囲気があって鳥肌が立ちました。裏切られたことなんて、そんな世俗のことは忘れてしまっているのですよ。ジゼルがアルブレヒトに降り注ぐ花も、ミルタにささげる花も百合じゃなくて野の花なんですよね。それにも思わず涙が出てしまいました。

ただの雰囲気や演技力だけではなくて、高度な技術に裏打ちされてそれが人を感動させることも改めて知りました。とにかく恐るべき身体の統制なのですよ。多少足音はしていましたが、リフトされるときの紙の人形のような軽さ、無機質さ。そして神がかり的なバランス。速いパ・ド・プレで後ろ向きに下がっていったところなども、何と言っていいかわからないです。

ミルタ役のエミリー・コゼットもよかった。最初の細かいパ・ド・プレで現れたときの、闇にぽっかり浮かんだような浮遊感、女王としての威厳、強さ。そして鐘が鳴って朝になったとたん能面のようになって去っていくところまで、どれをとっても素晴らしいミルタでした。

そしてやっぱりコールドの張り詰めた一体感がすごい。揃っているということにかけては東バや新国のほうがびしっと揃っているのかもしれないし、足音もかなり響いていたけれど、何といっても独特の緊張感がすごかった。このコールドもまた動きが半端じゃないんです。振付がやはり細かくて複雑な上、女王ミルタの意思によって動いているという一体感。ミルタは中央で微動だにせず、皆がミルタに向かって手を差し伸べるところや、ジゼルを墓から呼び出すところ、一斉に手を横に伸ばして拒絶のポーズをとるところ、そして後ろ向きのパ・ド・プレで去っていくところまで、ふわふわとしているんじゃない、きびきびとしたタイプのちょっと怖いウイリーたちでしたが、一瞬たりとも気を抜かないコールドのすごさを見せつけられた感じでした。

それからペッシュのアルブレヒトですね。やはり予想通り「苦悩の表情」が素敵でした それと、この人がこんなに情熱的だったとは。ウイリーになっても、やはりジゼルに会いたい、ジゼルに触れたい、そんな一心で見えないところを手探りで、何度も近づいていく。気配は感じるのに、この手で捕まえることのできないもどかしさ。そんな彼の情熱に対しても、もはやジゼルは冷たい精霊にすぎないのだけれども。その温度差が何とも切ないのです。ウイリーに囲まれて踊るヴァリエーションは壮絶で‥少しでも心が通ったと思ったラストのあたりはもう号泣。。

最後どうしたんだっけ‥‥消えて行くジゼルをずっと目で追っているのだけれど、墓に差し掛かったところで見えなくなってただ墓を見つめるばかりなんですよね。そして気を失って倒れ込む。やがて朝日の中目覚めたアルブレヒトは、自分が捧げた百合の花をまた取り上げて舞台中央まで行くのだけれど、そこではたとこの夜に起こったことが鮮明に蘇り、花をバラっと落としてしまう‥‥そして放心状態のまま立ち尽くして幕‥‥だったと思います。見ているこちらも放心状態でした。

ジゼルでこんな値段?と思って見ない予定だったけれど、本当に見てよかった。世界最高レベルの舞台というのはこういうものなのだというのを見せつけられた気がします。いつも見ている某国バレエ団も、そのゆる~い雰囲気はまた愛すべきものだけれど、これほどまでに細部まで磨かれつくした舞台もまた一つの到達点という意味で、すばらしいものを見て驚くと同時に、高いチケット代以上に満足することができました。

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