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2013年3月10日 (日)

釈然としない‥

一般の方にはあまり馴染みがないと思いますが、今バレエ界、世界中のバレエファンを震撼させるような事件がモスクワで起きています。

1月にボリショイ・バレエの芸術監督が何者かに襲撃されました。それも、顔に硫酸をかけられるという残忍な事件。被害者のセルゲイ・フィーリンは、命には別状ないものの、一時は失明も危ぶまれたような状態だったそうです。それにしても、彼のハンサムなお顔が‥‥!とてもショッキングな事件でした。

そして、今週になってそれが急展開。何と、容疑者の一人として身柄を拘束されたと伝えられたのは同じボリショイのダンサーだった‥‥それがまたさらにショックでした。

襲撃されたセルゲイ・フィーリンは、ちょっと前のバレエファンなら誰でも知っているイケメンの王子様。残念ながら全幕映像(発売されているDVD)は「ファラオの娘」しかないと思いますが、あの複雑な振付の中で見せる美しい脚さばきは永遠に残るものですね。

私がフィーリンを見た最後の舞台は2008年の来日公演での「明るい小川」。あのときはもうすでに引退すると伝えられていたんでしたっけ?いや、既に引退したけれど、日本公演だけ特別に出演したのでしたよね。終演後の楽屋口で、いつまでも帰らない出待ちファンのために臨時のサイン会が開かれたとき、10歳?のかわいらしい息子さんも一緒にサイン会のテーブルに並んでいて、お二人の素敵な笑顔を間近で見させてもらったのがいい思い出です。それからフィーリンはモスクワ音楽劇場バレエの芸術監督を経てボリショイの芸術監督に。

一方、容疑者の一人として報道されたパーヴェル・ドミトリチェンコですが、この名前を聞いて本当にびっくりしました。一度聞いたら忘れられない(変な?)名前だったから。何年か前の私なら見た舞台の感想は大体このブログに書いていましたが、ここのところそれもできなくて何も記録に残ってないのだけれど、実は、昨年2月に来日したボリショイの公演で、彼が踊る「スパルタクス」を見ているのですよ。

ボリショイといえばグリゴローヴィチの一連の作品群。その中でも「スパルタクス」はボリショイを代表する演目です。で、ボリショイを見るのに今一番旬のイワン・ワシーリエフの「スパルタクス」を見ずに一体何を見るのか?と言われましたが(笑)私は例のごとくチケットを買いそびれて、気づいた時にはワシーリエフの日はもうほとんど残っていなかったんです(涙)それで、まだいい席があるセカンドキャストの日に行ったのです。そのときの主役、スパルタクス役を踊ったのがまさにこのドミトリチェンコでした。

「スパルタクス」は珍しく何回も映像化されていて、DVDもウラジミール・ワシーリエフ(68年・77年)イレク・ムハメドフ(84年・90年)カルロス・アコスタ(08年)といろんなのが出ています。でも、映像で見ても何だかぱっとしない作品だったんですよね。画面が暗いし、出てくるのは汗臭そうなマッチョばっかりだし、音楽はドンチャカうるさいハチャトゥリアンだし(笑)

それが、生で見たら全然違ったのでした。圧倒される男性群舞やアクロバティックなリフトの連続など、もうすごすぎ!肉体の躍動感、爆発するようなエネルギーにただただ圧倒されました。そして、その中でもひときわ光っていたドミトリチェンコのスパルタクス。

でも、最初彼が出てきたときは一目でがっくりきたんです。だって、金髪の奴隷ってありえん(爆)そして、腕には大きなタトゥー‥‥あの、やる気ありますか?そしてさらに、容姿は決して美形とは言えず、まだ若いのにかなりワイルドに崩れた感じ。こちらはミーハーですからね、奴隷の親玉だって美形でなきゃ嫌なんです(笑)

それが、だんだん舞台が進むに従って彼のただならぬ吸引力を感じたんですよ。彼が舞台に登場すると一気に温度がぐわ~っと上がるような存在感。これは一体何なの?カリスマ?そして最後の場面まで、息をもつかせぬスピード感。結果的に、とても素晴らしい舞台でした。感動しました。私はボリショイのこのエネルギッシュな躍動感が好きだ~!そう思ったのがまだ去年の2月。

あのときのスパルタクスが‥‥。嘘でしょう。どう考えても信じられません。人にあれだけの感動を与えられるダンサーがそんなことをするなんて。少なくとも私は信じたくありません。

また、この襲撃事件は当初から芸術監督の利権をめぐった大きな闇を思わせる事件でした。それなのに、こんな下世話なスキャンダルに仕立てて、それで終息させたいというのが見えているような気がします。人身御供というか、彼のダンサー生命がこれで終わってしまうかと思うととても悔しいです。

ニュースを見ると、彼(ドミトリチェンコ)の恋人といわれるバレリーナがからんでいるとか。彼女がコンクール(08年、ペルミ)で優勝した時、当時モスクワ音楽劇場バレエの芸術監督をしていたフィーリンが入団を誘うも、彼女はそれを蹴ってボリショイへ。やがてボリショイの芸術監督になって帰ってきたフィーリンはその時の恨みを忘れていなくて、彼女をいろんな配役からはずしたりした。。。こんな安物ドラマまがいのばかばかしいことまで言われています。特に、ボリショイに入ってから彼女が師事したのが、フィーリンと敵対関係にあると言われるニコライ・ツィスカリーゼ。彼はボリショイの体制に批判的だったため、襲撃事件のあった1月当初から事情聴取を受けていて、ある意味疑われていたのですよね。ツィスカリーゼはいかにも「俺様」だけど、もちろんそんな卑劣なことをするわけがありません。それが‥‥報道では(どこまで本当なのかわかりませんが)フィーリンが件のバレリーナに、ツィスカリーゼのもとを離れるならいい役をやってもいいと言ったとか言わないとか。彼女はそれを拒否、そして役を干されたとも。

さらにひどいのは、昨年末彼女がフィーリンのところへ行き、「白鳥の湖」の主役を踊りたいと相談した時に、フィーリンは「鏡を見ろ、どこが白鳥だ?」と言ったそうです。いや~まるでドラマですねえ。それも昔のバレエマンガ(ライバルのトウシューズに画鋲を入れたりするとかいう)みたいなレベルです。でも、そういう叱咤激励の仕方もこういう世界では割とあるような気もするし‥‥もし本当だったとしても、別にフィーリンの人間性を疑うような話でもなく、それに対して深い恨みを抱いて、侮辱された恋人の復習のためにドミトリチェンコが事件を指示‥‥なんてことはさらに考えられないです。

こんなばかばかしい作り話で、バレエっていう世界はこんな奴らがやっているくだらない世界だと世間に印象付けたいのか、マスコミが報道するドミトリチェンコの写真に犯罪者チックなのを選んでいるのがいかにも意図的でひどいと思います。これを見た何も知らない人は「さも悪そうな奴」と思ってしまうだろうし、彼がどんなに素晴らしいダンサーかというのは全く関係ない話になってしまうでしょう。それが何とも悔しい。

ダンサーは本当にストイックな生活をしているのですよ。毎日毎日レッスンに時間を費やし、ぎりぎりまで身体を酷使して、それであの素晴らしい踊りができるのです。ボリショイのような世界最高のバレエ団で準トップダンサーといえば、一般人には計り知れない努力の道を歩んできた、それはある意味「神」に近付く行為(でないと超一流の舞台の主役で人を感動させることなんかできっこない)だと思うのです。ダンサーとは崇高な人たちですよ!

一方、件の「どこが白鳥だ?」と言われたバレリーナ、アンジェリーナ・ヴォロンツォーワですが、昨年の来日公演のパンフレットを見ると、何とコールドバレエなのに写真付きでプロフィールを紹介しています。一体どこが「冷遇」なの?

私が見た日の「ライモンダ」(マリア・アラシュ&アレクサンドル・ヴォルチコフ)では、アンナ・ニクーリナ(ファースト・ソリスト)とともに「ライモンダの友人」役をやっていました。彼女(ヴォロンツォーワ)の踊り自体は全く覚えていないけれど、ニクーリナがとてもきれいで、もう一人の子がかわいそうなくらい輝いてるな~と思ったくらいなので、多分まだまだ天下のボリショイで主役なんて踊るような子じゃないというか、「どこが白鳥だ?」と言われても文句は言えないというか、ましてやそれを恨んで事件を計画するといったような強い動機にはならないはず。

何か、知りもしないのに長々と書いてしまいましたが、この事件にはもっと黒幕がいる、でもこれで片付けようとしている意図を感じる‥‥だからいちバレエファンとして、ただただドミトリチェンコの無罪を信じたい。彼が再び舞台に立つことができると信じたい。

‥‥引っ張り出してきた去年のボリショイのプログラムには、感動して、帰りがたくて出待ちして、いろんなダンサーにいただいたサインがあります。アレクサンドロワ、アラシュ、バラーノフ、ヴォルチコフ‥‥そしてドミトリチェンコのサインも。素顔は気さくでフレンドリーないいお兄ちゃんでしたよねえ。(いくら私がミーハーでも家が遠いから出待ちなんてそんなにしません。本当に感動したときその余韻を楽しみたいから何となくというのは時々‥‥ボリショイのときはそうでした。去年11月のマリインスキーのときは出待ちなんかしませんでしたよ。って、言い訳?

たった1年前のことなのに‥‥楽しくてうれしくて、昨日のことのように思えるボリショイ公演だったのに‥‥残念な事件です。

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コメント

どもども、このニュースを初めて見たとき…
きっと凄くショックを受けてるだろうなぁと思ってました。

その後のワイドショーも何かしら、面白おかしく取り上げてるところもありましたね。
ボリショイに所属してた経験のある日本人のダンサーにインタビューに行ったり。

確かにあの女性ダンサーは冷遇されてない感じです。
「どこが白鳥だ?」と言われても仕方がないっちゅうか…
下から二番目クラスのダンサーなのに、主役にしてくれは無理では?

後日の報道を見ると、金銭面でのゴタゴタやらた他方面にも、どうなるんでしょうね。

監督は秋くらいに復帰するようですが、ドミトリチェンコはどうなるのでしょうかねぇ。

投稿: simogamo | 2013年4月 5日 (金) 13時52分

shimogamoさん

そう、大変なショックでした。
続報ではドミトリチェンコの自白は強要によるものとか、ボリショイの関係者ら300名の署名を集め彼の救済を求めているとか聞きましたが。
表現力豊かなまだまだこれからの人なのに、何とかならないの?と思ってしまいます。


今ね、こんぴら歌舞伎を見に琴平に来ているんですよ。
念願のおもだかや登場で、私もこんぴら初観劇です!
今日のお練りもバッチリ、彼らの晴れ姿を見届けました。
また後日レポしますね。

投稿: ゆかり | 2013年4月 5日 (金) 23時40分

たまたまこの事件を題材にした映画を今見て、気になって少し記事を読んでいましたが、私もパヴェルが犯人だとは思えません。彼女を愛していた彼を利用した誰かがいたのでしょう。半分諦めたような半笑いで天を仰ぐみたいなパヴェルの顔を見ていたら、可哀想で仕方ありませんでした。主役級の役を踊る為には才能に恵まれるだけでなく、忍耐力や協調性や高い知性が求められたはずですから、彼が愛のために犠牲を払わされたというのが真実な気がします。あなたの記事を読んで、少し楽になりました。ロシアのバレエは素晴らしいですね。豊穣で、理性を超えた圧倒的な何かがあります。パヴェルにも幸せになってほしいです。ありがとうございました。

投稿: hajimemasite | 2018年1月31日 (水) 20時18分

hajimemasiteさま

はじめまして。
こんな全然更新のない忘れ去られたようなブログにコメントありがとうございます!
しかも何年も前の記事を見つけてくれて、感謝感激です。

ごらんになった映画とは「ボリショイバビロン」でしょうか?
私は見たのがだいぶ前で記憶が怪しいのですが、復帰したフィーリンが組織の中で孤立してしまい、何だかかわいそうな感じがしたのを覚えています。
それにあの外見もはや昔の華奢なイケメンのフィーリンを覚えている人はいないのかと悲しい思いがしたものでした。

あれから私も、ミハイロフスキーバレエに移籍したヴォロンツォーワの「ジゼル」などを見て、意外にもかわいくて、若いのに演技力もあるんだ~と驚いたり‥‥。
ボリショイを追われた?ツィスカリーゼがなぜかワガノワバレエアカデミーの校長に収まって、セクハラまがいの(笑)直接指導をしているところなんかをドキュメンタリーで見たり‥‥‥。
既に5年たって、事件は遠くなりにけりという感慨があります。

それでもなお、変わらない気持ちは、バレエとはこんなワイドショーネタになるような下世話なものではない。
大きな組織ですから政治的な陰謀や策略はあるにしても、それはダンサーとは全く異次元のもの。
ダンサーは皆子供の頃から厳しいレッスンを積み、身体で表現することを会得した崇高な存在だと思うのです。

ドミトリチェンコが逮捕され、服役したあとは何事もなかったかのように‥‥やっぱり彼は犠牲になったのかなとも思います。

一昨年だったか、ボリショイのライブビューイングで「スパルタクス」を見たとき、主役はロブーヒンだったんですが、ドミトリチェンコのスパルタクスに感動した記憶のある者にとっては、なんかもう一つだったような‥‥‥と思ったら、帰りのエレベータの中で
「ロブーヒンはマッチョなだけじゃない」
「ドミトリチェンコのほうがずっとよかった」
と話している人がいて、思わず
「そうですよねっ!」と話しかけたい衝動にかられました。
(話しかけませんでしたが、話しかければよかった)
あの一回限りの感動を覚えている人がいる!ととてもうれしかったから。

あのときの、爆発するようなハチャメチャなエネルキーを持ったドミトリチェンコが忘れられません。
まさにスター誕生かと思ったけど、懲役6年とか聞いて、ああこの人のダンサー生命も終わりかと残念に思ったものです。
時のたつのは早いもの。
もうそろそろその6年も終わりに近づいていますが、釈放されても元のダンサーには戻れないでしょうね。
残念で仕方がありません。

>主役級の役を踊る為には才能に恵まれるだけでなく、忍耐力や協調性や高い知性が求められたはずですから

本当にそのとおり。
そう言っていただけて私もうれしいです。
彼のその後の人生が豊かでありますようにと祈りたいです。

投稿: ゆかり | 2018年2月 1日 (木) 01時42分

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