「オーロラ」
先月、日産村山工場の跡地にできた大型ショッピングモール「ダイヤモンドシティ」。その中にまた大型映画館ができ、私の家の周りもいつのまにか映画館がいっぱい。映画といえば新宿か吉祥寺に行っていた頃がうそみたいです。でも、立川も昭島も武蔵村山も、上映作品は似たりよったり。お子様向け、ファミリー向けが大半で、見たい映画がないのはどうしたものか。
仕事が一段落し(でもそれで終わりじゃないのよ、主婦は!)、これから気合を入れて年末の大掃除(片付けも大変)や、年賀状作成にとりかからなくちゃいけないので、その前に一息入れようと(「頑張った自分へのご褒美」って、こういう言い回しをよく見かけるけど、実は嫌いなんだよね。)前から見たかった映画を見に行きました。
パリ・オペラ座のエトワール3人を含む、35人のトップダンサーが出演する豪華バレエ映画、と銘打った「オーロラ」を見に行きました。都内でも2ヵ所しかやっていなくて、渋谷の文化村と有楽町。渋谷はいつも混むので、有楽町まで行きました。ちょうど冬休みが始まったばかりで、娘が暇そうにしていたので連れて行きました。
でも、結論から言うと、わざわざ時間と交通費使って行くようなものじゃなかった!突っ込み好きの娘も、さすがにあきれてしまったのか言葉がなく、最後に「FIN」と出たときには、私も噴出しそうになりました。ほかの観客はまじめに見ていたようで、申しわけないので黙っていましたが、映画館を出たあと「何、あれ~!」から始まり、さんざん酷評してしまいました。バレエ友達を誘おうと思ったけど、年末だし、主婦は忙しいだろうと思ってやめておいて正解でした。誰を誘ってもきっとボロクソだっただろうなあ。
主役の子は、パリオペラ座バレエ学校の生徒で16歳。かわいいし、初々しくて、踊りが大好きなお姫様の役はぴったり。大根なのはこの際許しても、というか、彼女に落ち度はないのよね。悪いのは全体の構成。
彼女が恋をする画家はニコラ・ルリッシュ。最近は見る機会がないけれど、以前は「ドン・キホーテ」のバジルとか、シルビー・ギエムと踊った「マルグリットとアルマン」とか、若々しいエトワールぶりを拝見し、かっこいいなあと思っていました。が、そんな彼ももう30過ぎでしょ。年齢はどうでもいいけど、あんまり安っぽい映画に出ないで~。
まず、すごーく退屈。登場人物が少ないし、場面が古いお城の中だからしょうがないけど、暗い。王様と王妃様が愛し合って結婚したなら(そういうことになっている)もっと家庭も城の雰囲気も明るいはずなのに、それがどうしようもないほど暗い。どうして王妃の大好きだった踊りを禁じたのかが不明確。側近につけ入れられるほど夫婦仲は硬直化していたようにしか思えない。
踊ることを禁じていても、娘は中庭で堂々と踊ってるし、それを城の上から望遠鏡でのぞいてる王はまるで変態?いくら子供といっても姫と弟の王子が一緒の部屋なんて、財政が逼迫してても王子は跡取りなんでしょ。そばにお仕えする人もいないなんて考えられない。でも、この王子役の子がすごくかわいかった。かわいいし、けなげだし、唯一よかったです。
ラブストーリーにしてもファンタジーにしても、一番大事なのは二人の関係じゃないですか。それなのに、どうしてオーロラが身分の低い画家を好きになったのか、その辺の描写が足りないので釈然としないのです。演技の問題というより、心の描写が足りなすぎ。もっとその辺が描かれれば、彼の前で突然ドレスを脱いで踊り始める場面も、切々と心を打った場面になったと思うのに。あの踊りからオーロラの「あなたが好き!」というメッセージが伝わらなかったのは、単に踊り手としての表現力不足だったのか。
それから舞踏会の踊りも笑えました。求婚者の王子が自国の舞踊団を引き連れてきて披露したことになってるけど、どれもきわどい踊りで、16歳の少女に見せるようなものじゃないですよ。あれを見せて「私と結婚してください」はないでしょう、常識として。
それでもアラビアの踊りみたいなので中心で踊っていたのはエトワールのマリ=アニエス・ジロ。さすがにきれいで見とれてしまいました。筋肉がすごい!
「ジパンゴ王国」とかいう国の王子は、何か着物のような衣装で、これ、日本のことかな?と思ったけど、それがすごく変。踊りも前衛舞踏というか、わけのわからない気持ち悪い世界でした。国内では無名でも外国では受け入れられている前衛的な芸術があると思うけど、そんなのが日本の印象になっているのでしょうか。
結局、政略結婚は成立せず、画家は殺される。それで、オーロラは雲の上に飛んで行って彼と一緒に踊る。王子は「広い世界を見てくるよ」と言って旅に出る。めちゃくちゃなお話でした。財政が苦しいにもかかわらず、王が民を思って増税をしないような暖かい国なら、こんな結末は納得できないです。悪い側近を倒したのに、何の解決もない。やっぱりあの王様、阿呆か変人だったんだ。
それか、ただバレエを見せるという映画だったのなら、もっと美しい世界を見せてほしかったと思います。天上なのにまるで地獄の亡者のような、あの不気味なコールドはどうでしょうね~。「グランディーバ」あたりがすぐにもパロディでやりそうな感じでしたよ。
オーロラちゃんが中庭で踊ってたのは、うちの子もレッスンでやってるおなじみのパがたくさん入ってて、ああ、パリ・オペラ座バレエ学校でも同じようなメソッドをやるんだなと興味深かったけど、そのぐらいかな。ニコラ・ルリッシュ様にもっと踊ってほしかった。雲の上の白い衣装は見とれましたが、生前も?踊ってほしかったです。
結論は、「映画」としてまともに見るのはやめた方がいい。バレエの新しい表現形態として見るなら、試みとしてはおもしろいけれど、純粋にパリ・オペラ座全面協力の踊りだけを目的で見るのでもちょっと??だったかな。でも、ニコラ・ルリッシュのファンなら、見ておいてもいいかも。あの甘いマスクは健在でした。私の見たい映画は近所のシネコンじゃ見られない、と嘆いていましたが、こんな一部の人しか共感が得られない映画は、田舎でやる必要はないのかもと思いました。
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