1月10日レニングラード国立バレエ「バヤデルカ」
「バヤデルカ」といえば、私がルジマトフを初めて見たときがキーロフ(マリインスキー)の「バヤデルカ」でしたし、レニ国の「バヤデルカ」はそれこそルジマトフでしか見ていないし、それ以外の「バヤ」は見ていないので、私にとってはどうしてもソロル=ルジマトフだったのですが‥‥。(同じく「シェヘラザード」の金の奴隷=ルジマトフというのもあるけれど。)
今シーズンはルジマトフは膝の手術をしたのかしないのか、芸術監督の仕事が大変なのか、悲しいことに出演しないことになって、イーゴリ・コールプがソロルを踊ることになりました。(え~ん‥)もちろんコールプが素晴らしいダンサーだというのはわかっていますが、最近のコールプは、アクの強いキャラを自分でも気に入っているようで、あれでソロルを踊られた日には、二股かけた悪い男のとんでもない話になりそうだ~とちょっと心配でした。
ところが、キエフの「ライモンダ」のときのようにノリノリですごいことになるのかなと思いきや、そうではなかったんですね。それが一つ驚きでした。あんなワル顔をしてるけど、真面目に、真剣に役に取り組む熱意が感じられたし、踊りもシャープでかっこよくて、すごくよかったのです。
第1幕
1幕のソロルはトラの皮を腰に巻いたような、ルジマトフと同じような衣装で、何かとても似合っていましたね。まあ、思っていたほどとんでもなくはなくて(アブデラフマンは想像以上だったので)ほっとしました。コレゴワのニキヤは、これが神に仕える舞姫ですか~?というくらいいきなりソロルとラブラブな感じがちょっと違和感。シェミウノフの大僧正~!彼は背が高くて映えるし、とても若くて美しい大僧正だけど、やっぱりこういう役ばっかりなのはちょっとかわいそう。(若いのにロットバルトに王様に大僧正だよ)でも、ニキヤに自分の位を捨ててもいいとまで言って迫る様子とか、二人を見て嫉妬に苦しむ様子とか、なかなか見ごたえあるお芝居をしていました。
聖なる火に愛を誓った、幸せな寺院の前庭でのシーンのあと、場面は藩主の宮殿へ。ここでソロルは藩主に娘と結婚するように言われて戸惑います。未来を約束されたガムザッティとの結婚話。もちろん断ることなどできません。招かれて踊るニキヤをまっすぐには見られず、ときおり苦しい表情でちらちらと見るソロル。一方大僧正がやってきて、ソロルとニキヤの仲をバラしてしまいます。藩主は怒ってニキヤを殺してしまえ、ということに。大僧正は自分の嫉妬から話したことなのに、とんでもないことになってしまったとあわてます。
これを立ち聞きしていたガムザッティ。ニキヤを部屋に呼んで、自分のブレスレットや宝石をはずしてニキヤに与え、ソロルと別れてちょうだい!といいますが、ニキヤは応じるはずもなく、宝石を投げつけます。このあたりのお芝居がすごかった!ニキヤは思わず刃物を持ってガムザッティに斬りかかり、取り押さえられてしまいます。ニキヤ殺害を決意するガムザッティ。
あらすじばっかり書いているようですが、実は私、今までルジマトフの姿ばかり追っかけていたせいか、他はボーっとして何も見ていなかったようで、こんなにいろいろお芝居をしているのは初めて見たような気がしました。バカですね~。あとの2幕のニキヤが踊るシーンでも、苦悩するソロルの周りで、藩主とガムザッティのやりとりとか、マグダウィアのあわてぶりとか、大僧正の様子とか、もうどこを見ていいかわからないくらいいろんなことが起こっているのを、今まで何一つ見ていなかったようで、我ながらあきれてしまいました。
ガムザッティ役のエフセーエワがすごかった。この間(6日)見た幸せにあふれたオーロラ姫とは全然違い、美しく気位が高いお姫様そのもの。去年見たときはかわいらしさがまさっていて「お願い!彼と別れてくれなきゃ私、イヤ!」みたいなところがあったけど、今回はすごいパワーアップ(対前年度比)。最初からすごく高飛車で「彼は私と結婚して藩主になる人よ!おとなしく消えなさい!」みたいな感じでした。対するコレゴワも負けちゃいない。「何よ、彼は聖なる火に誓ったのよ。あんたみたいな高慢ちきな女好きになるはずないわ」って??え?それが薄幸な舞姫ですか~。いや、恐ろしい女の戦いはそんなふうに見えてしまいました。
第2幕
ソロルとガムザッティの婚約式。華やかなディベルティスマンが続く場面です。(後ろに控えている槍や大きな扇を持った人など、そういうエキストラの人たちは、何だか去年見たのと同じ顔ぶれのような気がします。あれは一体どういう人たちなんでしょうね~。)象に乗って現われたディズニーランドのパレードみたいなコールプさんに、思わずふき出してしまいました。ここで踊られた太鼓や壷の踊り、ブロンズ・アイドルなどは、今回もとても盛り上がりました。こういうエキゾチックでにぎやかなのは楽しいよね。
ガムザッティを持ち上げる二人の男性は、配役表にはないけどモロゾフとコリパエフ?去年の夏に「親子バレエ祭り」で見た20歳のニコライ・コリパエフ君ではなかったでしょうか?今年も来てくれてたのね~。君が見られただけでおばさんはとってもうれしいわ。。!容姿端麗な君がいつか素敵な王子様に成長するのを待ってるからね~♡(失礼しました)
コールプは青いターバンに青い衣装。ルジ様はここで白の、ウエストの部分があいた素敵な衣装だったなあ~と思い出してしまいました。まぶしいほどのエフセーエワの笑顔。ツンツンしたお姫様の役作りもうまいけど、やっぱりこの笑顔がいいなあ。
コールプの踊りはすごかった。ガムザッティとユニゾンするところもぴったり合っていて、しかも高さは2段ぐらい高く、シルエットがぴったり重なる感じ。私は前ブロック後方の真正面の席、目の前に指揮者のパブージンさんの頭がぴょこぴょこしている場所だったので、ほんとにど真ん中だったのですが、アントラッセで後ろに振り上げたコールプの脚が頭の後ろからにょきっと見えたんですよ!どんだけ高く上げてるの??何だかニキヤのことはもう忘れちゃったの?みたいに割り切りいいソロルでしたね。ヴァリエーションもかっこよかった~。
何でもルジマトフと比べられては迷惑かもしれないけれど、下手側に向かって高くゆっくりとアラベスクをするところとか、その呼吸がルジマトフを髣髴させる感じでどきっとしてしまいました。ただ最後の決めのポーズののけぞり具合はまだ足りないわね~、といっても別に同じにしてほしいわけではありません。あれはほんとに陶酔して倒れちゃうかのような、ルジマトフにしかできないのけぞり方でしたからね。
さて、ここからが最大の見せ場。ニキヤの登場です。ニキヤは最愛のソロルが藩主の娘と婚約した、その祝いの席で踊らなければなりません。とてもつらくやるせない踊りです。ところが、見るほうはその踊りを見ている暇がないほど周りの人間模様が面白くて、本当にどこを見ていいかわからないほど忙しかったのです。
ソロルは先ほどの元気な姿とはうって変わって、ニキヤの姿をまともに見ることができません。落ち着いて座っていることすらできずに立ち上がったり、また座ったり。ガムザッティは時折藩主と顔を見合わせ不敵な笑みを浮かべたり、ソロルのほうに流し目を送ったりしています。大僧正はこの殺人劇を知っているので、聖職者にあるまじき落ち着かない様子。ニキヤに花籠が贈られると、ニキヤはうれしそうにソロルのほうを見、ソロルも一瞬ニキヤを見つめ、すぐにまた目をそらせます。しかしその怪しいそぶりはまるでソロルもこの殺害計画を知っているかのよう!
愛するソロルが最後に贈ってくれた花かごを持って、悲しみを隠しうれしそうに踊るニキヤ、ところがその踊りが終わるか終わらないかで、花籠から出てきた毒蛇にかまれてしまいます。ところがソロルは何が起こったのかと驚くどころか、目をそらしてしまうじゃないですか。やっぱりあなたもグルだったのね!出世のために共謀して邪魔な恋人を殺すなんて、何て悪い男でしょう!(ほんとはこんな話じゃありませんよ、あくまでも私がそう見えたというだけです)
大僧正のあわてぶりったら!この若い大僧正は決してよこしまな心なんかじゃなく、純粋にニキヤを愛していたのね。かねて用意していた解毒剤をニキヤに渡しても、ニキヤは意を決して死を選び、せっかくの解毒剤を大僧正の足元に投げつけてしまう。またも拒絶されて嘆く大僧正。かわいそ~。
苦しむニキヤを正視できなかったソロルも、いよいよニキヤが死ぬというそのときに、やっとニキヤに駆け寄り、嘆き、悲しみ、謝罪します。自分は間違っていた!でも、こうするしかなかったんだと。ニキヤは愛するソロルの腕の中で死んでいきます。このあたりが息をもつかせぬテンポで、とてもドラマチックでした。(だから、やっぱり最後の結婚式のシーンは絶対蛇足!)
第3幕
自分のせいで死に至らしめてしまった、ニキヤへの罪の意識にさいなまれるソロル。今度はプログラムに載っていたあのベージュっぽいパジャマみたいな衣装です。長椅子に倒れこむ勢いがすごくて、本当に自虐的な様子。マグダウィアがそんなソロルを一生懸命慰めようとします。あのコブラの踊りはあんなにユーモラスだった?以前は全く目に入らなかったから(もちろん、ソロルに一点集中のため)気がつきませんでした。アヘンを吸うところなど、うつろな目つきが超妖しくて、コールプさん、やっと本領発揮か?
ここからは幻影の場。紗幕の向こうに高い岩山があり、そこから一人二人と精霊たちが舞い降りてきます。ゆっくりとアラベスクを繰り返しながらスロープを降りてくる幻想的なシーンです。ところが、このコールドは何?最初っから脚を上げるタイミングとか、上げる速度とか、キープする時間とか、下ろすタイミングがみんなバランバラン!何で~?スロープを降りながらそろえるのはとても難しいことだと思うけど、今まで絶対こんなんじゃなかったはずです。どうしちゃったんでしょうか。その前の2幕のディベルティスマンのときも、私は真正面だったのでよくわかったのですが、並ぶ間隔が一定でなかったり。こんなことって今までありませんでしたよ。コールドの人もかなり入れ替わっていると聞きましたが、まだ慣れてないにしてもプロなんですからね。
32人ずらっと並んだところはさすがに揃っていて壮観でした。一応コールドの見せ場ですからね。でも後ろのほうでぐらぐらしてる人もいて、そんなもんかなと思うことも。「薄暗く青いライトの中、白い衣装の精霊たちのゆっくりと揃った動きを見るうちに、観客の頭が朦朧としてきて、幻想の世界に入っていくようにできている振付」ということを何かで読んだことがありますが、頭がボーっとしかかると、何かで現実に引き戻されて、なかなか幻想の世界に入って行けないコールドでした。
影のヴァリエーションの3人はミリツェワ、ペレン、コシェレワと並んで豪華!3人の息は合っていましたが、なぜがミリツェワはヴァリの最初、音に合っていなくて、え?と思ってしまいました。そういえば「眠り」のフロリナのときも、一瞬何が起こったんだと思ったくらい音に遅れていて、ドキッとしたんだっけ。後半は持ち直したけど、どうしたんでしょうね。無表情気味に踊っていてもミリツェワはかわいらしく、ペレンは本当にクール・ビューティの雰囲気。コシェレワはやっぱりどこか温かみを感じる雰囲気があって、そこがそれぞれの個性なんでしょうね。
前回も書きましたが、コレゴワの踊りはきっちりした優等生の感じで、ある意味完璧です。でも面白みがない。無表情はわかるけど、単にきちんきちんとこなして、あっさりと終わっちゃっただけでは物語にはならないわけで。例えば、この「影の王国」は霊界というよりは、アヘンを吸ったソロルが見た全くの幻影の世界で、ソロルの懺悔の心と、ニキヤへの愛と、許してほしいという究極の願望の世界であってもいいと思うのです。どうせラリった男が見たしょうもない幻想なのよ。
だから影たちは冷たくなくて、虫のいい話だけどそこに癒しがあってもいいのだし、ニキヤに一目会って許しを請いたい、「あなたを愛するゆえに私は死を選んだのです」とやさしく言ってもらって、この苦しみから救われたい。そんな夢のような場面だったら美しいじゃないですか。
コールプのソロルにはそんな愛と、ひたむきな願望と、せつなさがありました。でも、ニキヤはサクサクと踊って消えた感情のない亡霊だったかなあ。もう少し心の通い合う雰囲気があったらよかったのに。白いベールをもった踊りも、手繰り寄せてはまた離れていくベールのように、もうこの世では触れ合うこともない。でも心はこのベールで永遠につながっている、という象徴なのだと思うのだけれど。虫のいい願望はならず、かわいそうな一方通行でしたね。
ニキヤが下手奥に消えていくところ、ここでルジ版ソロルはルルベでじっと低いアラベスクをキープしながら見送って、それからおもむろに体をそらせてあとを追っていく。そこがとってもツボだったのですが、やっぱりそんな真似っこはしてくれませんでしたね~(涙)
ルジマトフがソロルのときもやっぱりそうでしたが、ジゼルの2幕と違って、音楽も泣かせる音楽ではないし、けっこう後半、影たちも華々しく踊るし、設定も感情移入しづらいので、この「バヤデルカ」で泣けたことはないんですよ。それでもなきゃいいのになぁと思うのは、やっぱり最後のオカルトシーン。あれは怖かった。
幻影の場から現実に戻り、宮殿ではガムザッティとソロルの結婚式が行われています。踊る二人の間に、いつしか白いベールをかぶったニキヤの亡霊が現われて、誰にも見えないのだけれど、3人で踊るのです。そして踊りながらソロルがガムザッティに捧げた花を、いつの間にか奪い取っていくニキヤの亡霊。少なくともシェスタコワのニキヤにははかない悲しみを感じましたが(それでも怖かったけど)、今回は本当に「おのれお岩、迷うて出たな!」の世界になっちゃって、しかもソロルは誓いの瞬間に上からばらばらと花が落ちてきたのに気付いて、何じゃこれはぁ!と言わんばかりに花を拾い上げ、ガムザッティに投げつける!それはないでしょう。あなたも知っての陰謀だったのに、ガムザッティかわいそすぎ!
続く寺院の崩壊は、まさしく天罰!恨みを晴らしたお岩は晴れて成仏し、じゃなくて、ソロルとニキヤの愛の象徴である白いスカーフが天に昇っていき、ひとり大僧正だけがおのれの妄執の顛末を見せつけられることとなりました‥‥‥。去年は帰りがけに周りの人たちが「あの大僧正が一番の悪者なのに、何であいつだけ生き残るのよ、変じゃない?」などと言っているのが聞こえましたが、今回は「人の世の無常と人間の欲望の空虚さを悟り、人々のあとを弔う決意をした」ようなラストだったかな。きっとそのあとは心を入れ替えて、立派な大僧正になったことでしょう。めでたしめでたし?ごめんなさい、そんな話じゃないですよ。だけどもともと解釈に苦しむ物語なのですよ、多分。
どうなることかと心配したコールプのソロルも、全然奇をてらったところがなく、むしろ真正面から王道のソロルで勝負してきたことに、この役に対する彼の真剣さを感じました。コールプの端正な踊りに似合わぬワル顔、パンクな趣味、怪しげな外見に引いていた私ですが、改めて好感をもったし、素晴らしいダンサーだと確信しました。あとは色気?
だけど、1階でも空席が目立つ会場はどうしたことでしょう。コールプさん、よかったのにもったいない。(もう来てくれなくなったらどうしよう‥‥)芸術監督としてカーテンコールに現われたルジマトフも、残念に思ったのではないかしら。去年のレニ国の最終日の「バヤデルカ」。忘れもしないオーチャードホールでのスタンディングオベーション。鳴り止まない嵐のような拍手、何回も繰り返されたカーテンコール。あんなことはもう2度と起こらないのかなあ。感情移入はできにくかったけど、踊りは素晴らしかったし、全体的には面白かったですよ。でも、そんなわけで一抹の寂しさを感じて会場をあとにしたのでした。
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