レニングラード国立バレエ「ロミオとジュリエット」(12月9日)
ことしは芸術監督も変わったし、中身のダンサーもまたさらに変わったようで、今までの「マールイ」が好きだった方はだんだん変わっていくバレエ団がちょっと心配のような‥‥もしかしたら来年から来てくれないかも‥‥なんてことも考えちゃいますが、ともあれこの冬も見れてよかったです。また、今回の来日公演はルジマトフが3演目も踊るので、ファンとしては本当にうれしいです。
もう2週間もたってしまいましたが、最初の東京公演、新版の「ロミオとジュリエット」を見てきました。以前も「ロミジュリ」を持ってきたことがあったけれど、あの時は情けないことにほとんど覚えてないのです。ジュリエットはハビブリナだったけれど、ロミオが誰だったか記憶にないくらい。面白くなかったんでしょうか?今回もヴィノグラードフ振り付けということで、少し覚悟していたんですよね。だって、映像に残っているキーロフの悪趣味な「コッペリア」‥‥あれはヴィノグラードフ振付なので、押して知るべしみたいな気がして
前もってチケットを買っていたのは大好きなヤパーロワの出演日のほうで、初日のペレン&コリパエフも見たかったのだけれど、やはり忙しくてだめでした。でも、見てみたらなかなか面白くて、2日間とも見ればよかったとちょっと後悔してしまいました。
バレエの「ロミオとジュリエット」というと、まず浮かぶのはロイヤル・バレエがやっているマクミラン版や、パリ・オペラ座のDVDが出ているヌレエフ版。ほかに見たことがあるのはクランコ版、ノイマイヤー版など。 原作はシェイクスピアだし、舞台はイタリアだし、どうしてもヨーロッパのものという印象がありますが、実はこのお話をバレエ化したのはもともとロシアが最初だったんですよね。
3月に、ニーナが踊ったラブロフスキー改訂版というのを見たけれど、あれがバレエになった最初の「ロミジュリ」に近いものでしょうか? 見慣れた西側の、お芝居の要素が強いものと比べるとやたらと舞踊的な表現が多くて、最初はちょっと戸惑いました。そういう意味ではこのレニ国の新版「ロミオとジュリエット」はそれ以上に、お芝居というよりは舞踊。逆に無駄なお芝居などは一切なく、街の人々の騒ぎや喧嘩沙汰までもうすべてが舞踊で表現されていて、多分演劇的な要素の多い「ロミジュリ」をバレエの「ロミジュリ」だと思っている人には、ラブロフスキー版以上にものすごい違和感だったと思います。
≪第1幕≫
最初、何とギターのソロで「アルハンブラの思い出」が聞こえてきたときは「え、何?」と思ってしまいましたが、そのまま幕が開いたときの驚き!前面に柱の並んだ回廊があり、そこに静止したままのたくさんの人々。まるで絵画のような、その色彩の重厚さに思わず息をのみました。静止した人々の中でジュリエットが動き出し、そして離れたところでロミオも動き出す。二人は動かない大人たちの間をいたずらっぽく縫うように行ったり来たりますが、まだお互いを見ることもなく、気付きもせずに‥‥まるでそこだけに光と風が当たっているような不思議な光景が、ギターの奏でる郷愁たっぷりのメロディとあいまって、どこかはかなげでせつない感情を呼び起こすような。そのあと、いきなりプロコフィエフの、最初にあのヴェローナ大公が登場するときの不協和音が響き、そこから人々が動き始める。そんな強烈なインパクトのある幕開けでした。
まず目につくのは舞台セット。前面の回廊が上に引かれ、舞台は3段になった回廊に囲まれています。赤褐色の回廊は古く重厚な感じで、これが街の広場になったり屋敷の中になったり、はたまたジュリエットの家の中庭になったりするのです。最初の広場の場面はバックに大きなつくりかけの騎馬の像。そして同じセットながらロレンス神父の教会の場面では、バックに丸いステンドグラス。最後の墓地の場面では何とクレーターまで描かれた大きな満月。墓地は地下じゃなかったっけ?なんて突っ込みもあるけれど、それぞれとても印象的でした。
次にびっくりなのは衣装。う~ん、全くイタリアには見えないな。というか、主役二人以外はみんな重そうな、まるで鎧みたいな、中世?ドイツ?いや、全く国籍不明なんですよ。むしろSFチックというか、戦隊もののアニメかゲームみたいな、見ようによっては笑っちゃうくらい劇画調のすごい衣装&かぶりものの数々でした。
最初は街の広場でのシーン。そのガチガチの衣装で皆さん踊る踊る!男性群舞の迫力とスピードには驚きました。剣を使った戦いシーンも全部舞踊になっていて、息をもつかせぬ勢いで踊りまくります。無駄なお芝居などはないので、ただただ対立する両家の状況を踊りで表しているのですが、最後は巨大な剣を持った両家の当主?まで現れて、鬼の金棒のように振り回す始末。
それが終るともうすぐにロミオとその友人たちが思い思いの仮面をつけて、楽しそうにキャピュレット家の舞踏会へ‥‥(ロザラインが出てこないので)一体何のために敵方に行く気になったのでしょう?
舞踏会の場面も、やはり男も女も鎧のような重たそうな衣装で、しゃちこばったような踊りを踊っています。その中で、白い薄物の衣装で軽やかに動き回るジュリエットの存在はまるで異質という感じすらしました。そうなんです!ジュリエット役のヤパーロワのかわいかったこと 先シーズン、彼女の愛らしさに魅せられて断然ファンになりました。ジュリエットはぴったりな役と思っていたけれど、期待にたがわずよかったです。演技力もあるし、踊りもしなやか。またかわいいだけじゃなくて、知的でちょっとシャープな雰囲気も持っているんですよね。今、私がレニ国で一番好きなバレリーナです。
ロミオはモロゾフ。ここ数年随分オジサン入ってきちゃったなあ~(はえぎわも)と思っていたのですが、なかなかいい味出していました。ロミオも何かすごくピュアで、この堅苦しい世界にあっては唯一ジュリエットと同じ、自由な魂を持っている。だから、二人が出会うなり恋におちるというのがとても納得がいく感じがしました。そう、豪華なゴテゴテの衣装や重苦しい舞台美術の中で、軽く柔らかな衣装の二人が無垢な魂のままのように戯れるのが、最初から美しく哀しかった。そういう意味では、この過剰に装飾的な世界づくりは成功しているように思われました。
さて、一番の感動シーンであるバルコニーの場面ですが、舞踏会の場面から一旦前面に最初の回廊が降りてきて、そこは屋敷の外という設定。客人が帰ったあとそのセットが上がると、今度は奥にまた同じ3段になった回廊があり、キャピュレット邸の中庭というスピーディーな場面転換になっていました。しかし、この回廊、バルコニーにしては高すぎるし、階段もないんだけれど‥‥と少々心配になりました。
やがて、ジュリエットがバルコニーに出てきて、バックの星を眺めているところにロミオが。そのあとロミオに気付いたジュリエットは中庭に降りていくのだけれど、階段がないので一旦引っ込みます。その間ロミオが一人で踊っているのだけれど、これが少々長くて、ちょっと~!早くしないと曲が半分終っちゃうじゃない!と心配したほど。案の定、肝心の二人の踊りは2分の1カットという感じで‥‥。
私などはここが一番泣けるシーンなのに、なぜかあまり心に響くものがなかったのはどうしてでしょう?やはりリフトの多い振付になっていましたが、少々ぎこちない気がしないでもない感じでした。最後はジュリエットがバルコニーに戻り、ロミオは舞台前方に出てきてジュリエットとの思いが通じた歓びをかみしめて幕。
≪第2幕≫
余計なお芝居がなくスピーディーな展開ではありますが、幕が開いたらいきなりロレンス神父のもとでの秘密の結婚式の場面でした。その前の、ジュリエットの乳母がロミオに手紙を届けるドタバタなシーンが全部カットというのは、とても大胆ですっきりしています。(すっきりしすぎ?)ロレンス神父は往年のプリンシパルのミャスニコフ‥‥私は映像でしか知りませんが、かなり昔の映像(エスメラルダ)でも生え際がヤバい感じでしたが、もはやそのまんまで「ロレンス神父」でしたね その存在感はさすがでした。
バルコニーの場面で二人が踊るシーンが少なかった分、ここで思いきり幸せな二人の踊りが入っていました。ちょっと子供っぽい感じもしましたが、無邪気で有頂天なところが出ていてよかったです。その直後にどん底に落とされるというのが何とも悲しい。二人がやたら走り回るのも、若さと疾走感にあふれていて素敵でした。
そのあと街に出ると、街の人々の間にいつか二人はまぎれてしまいます。そして間髪を入れずティボルトとマキューシオの戦いがあり、マキューシオの死、そしてティボルト殺害と続いていきます。
マキューシオ役のアルジャエフという人は知らなかったけれど、ロミオよりかわいいじゃん ただ、見せ場の死ぬところで、なぜか道化の仮面をかぶるのです。あれじゃ表情が見えなくて芝居の面白さ半減ではなかったかな?
それと、この版には「生」と「死」という二つの役があって、配役表にも書いてあるのですが、これが全く印象にない。両方とも女性でしたが、特に「生」のほうは今となってはどんなだったか??「死」のほうは、まるでショッカーの手下(初期の仮面ライダーの)みたいな、黒の全身タイツに骸骨が書かれている恥ずかしいいでたち。それが剣を持って、それをティボルトやマキューシオに渡していたような‥‥。
ティボルト役のオマールがすごくかっこよくてびっくりでした。「バヤデルカ」でインドの踊りを踊っていたのは知っていたけれど、あの激しい踊りを踊る人らしく、とてもシャープで切れのいい踊りでした。ヴィジュアルも完璧で、アニメか何かのダークヒーローそのもの。私はちょっと変な人で、ロミオよりティボルト萌えすることが多くて‥‥例えばパリ・オペラ座の映像のジュド様とか‥‥だからティボルトが全くの悪人顔だったりするとがっかりなのですが、そういう意味ではティボルトが素敵なので楽しませてもらいました。バレエの「ドラゴン・クエスト」の「黒の勇者」みたいに、やっぱり「悪」もかっこよくなくちゃいけませんよね。
ティボルトが死んだあと、キャピュレット夫人がオーバーに嘆くというお約束は同じでした。そのあと、一旦幕は閉まるものの休憩はなしでスピーディに場面はジュリエットの寝室へ。この場面、他の版ではいきなり二人のベッドシーンから始まって面食らうことが多いのですが、ここはそうではなく、ジュリエットが一人で悩んでいます。結婚したばかりなのに、当のロミオが殺人犯となってしまったのですから。ロミオは追放‥これからどうなるのだろうという不安。
ロミオが現れても、いとこを殺してしまった彼を素直に受け入れられません。それは当然のことですよね。その辺がほかの版と違って納得できました。ジュリエットの「家」にとっては仇となってしまったロミオ。でもロミオが好き。悲しみのうちのつかの間の二人の時間。そして別れ。
そしてまた、展開がスピーディですから、そのあとすぐに両親がパリスを連れてやってきます。後継ぎであるティボルトが殺されてしまったので、ジュリエットの婿取りをいそがなくてはならなくなったのです。パリスは長身のシェミウノフ。小柄なヤパーロワと並ぶとまるで巨人!それが、笑っちゃうくらいエレガントで心優しいパリスで、ジュリエットが全く彼にそっけないのがお気の毒なほど。なぜか周りと全然そぐわない衣装で(確か青!)一人浮きまくっているのですが、彼もまたかわいそうな人でしたね。ただ、墓場でロミオに殺されないから、それはよかったかな
とにかくヤパーロワちゃんのかわいいこと。一瞬一瞬がもう大好き なのに踏んだり蹴ったりな大悲劇!彼女は何も悪いことはしていない。敵対する家の息子と知らずにロミオを好きになっちゃった、ただそれだけです。それなのにそのロミオはいとこを殺しちゃうし、二人は別れ別れになっちゃうしで本当にかわいそう。パリスと無理やり結婚させようとするキャピュレットはまるで鬼!抵抗するジュリエットにすごい剣幕で家庭内暴力級のひどい仕打ち!「やめて~」と言いたいくらいかわいそうでした
(泣けるところが違うだろう?)
彼女は運命にもいじめられ続けます。信頼するロレンス神父に泣きつくと、騙されて変な薬を盛られるし(爆)ロミオとの連絡もいい加減で結局はすれ違い。(もしかしてロレンスが一番悪いんじゃないだろうか?)ロレンスは1幕最初の両家の争いの場面でも確か出てきたのです。端のほうで様子を見ていて、この街の状況を何とかしなければと深く考えていた様子でした。それが、ち~とも思慮深くなくて、結局ジュリエットは実験台にされちゃったのよ これでもかというくらいいじめられ続けるジュリエット。(「おしん」か~という突っ込み)
ジュリエットは意を決して薬を飲み、すぐに墓場の場面へ。そこへ駆けつけるロミオもまた全力疾走で、ジュリエットの死を嘆く間もなく、あっという間に自殺してしまいます。そして目覚めるジュリエットの生命の息づきが、わかっていても哀しい。
とにかく2部構成で、かなり時間的にも短くて、無駄なところがなく(潔く大幅カット)サクサク進んで、内容的にはかなりあっさりなんだけれど、あの圧倒的迫力の重厚なセットとゴテゴテ、ガチガチの衣装、そして群舞のパワフルな踊りでもう十分という感じです。そして、そんな中にやはり白一色の薄物の衣装をまとった二人のピュアで柔らかな存在が際立ちました。それが最後までこの暗く硬く重い世界に溶け込むことができず、生きる場所すら見つけられなかったという、その対比がまたせつない。そういう意味では、このマンガチックなまでに大仰な舞台づくりも素晴らしかったと言えるのではないでしょうか。
最後、二人が死んだあとに両家の人々が現れて、「和解」とまではいかないけれどお互いにこの悲劇を嘆き合うと、再び前面の回廊が降りてきて、最初のシーンに戻ったかのように絵画の中に納まって幕、というところがよくできていました。最初のシーンと何も変わることがないように見えるけれど、その中に若い二人はもういない。でも、人々の心の中は多分何かが変わっているだろう‥‥そう思わせるような終わり方でした。
突込みどころはあったし、マクミラン版などを見慣れている人にはかなりの違和感だったと思うけれど、私はよかったと思います。これだけ大掛かりな舞台セットを持ってきて2回しか上演しないのはもったいないと思いました。そうそう、私はあまり音楽のことはわからないのですが、オケもとてもよかったです。プロコフィエフの複雑に絡み合うような音楽も楽しむことができました。毎年専属のオーケストラを連れての公演はやはり贅沢な気がしますね。金管と打楽器が特に迫力がありました。
さて、来週はもうルジマトフ・オン・ステージが開幕ですね~!最初が「ジゼル」というのがドキドキです。楽しみ~これから来月半ばまで、しばらくルジさまの世界に酔いしれたいと思います。そのためにも、これから忙しい年末の主婦のお仕事、頑張らなくっちゃ!
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