今年前半のサボっていた分を一応書いたので、これで次に見たのをすぐ書けるぞ~と思っていたら、またもや中断してしまいました
もうあれから3週間もたってしまったなんて
早いなあ~。待望の「バレエの神髄」だったのに。
新宿文化センターの公演2回が中止となってしまったので、12日の文京シビックホールが唯一の東京公演となってしまいました。大好きなルジマトフの公演、いつもは行ける限り行っていたのに、今回は名古屋、大阪に追っかけする予定もなく、3回のつもりがたった1回見ただけということになってしまいました
そのあとすぐルグリの公演を見たりしたので、あんなに待ちに待っていたせっかくの「バレエの神髄」の印象が、今となってはちょっと薄れてしまったことを残念に思います。
6月は歌舞伎に夢中だったので、何だか久しぶりのバレエ観賞みたいな気がしました。そのせいか、幕が開いてダンサーたちが出てきたときは「ああ、何て軽やかなんだろう!」って改めて感動してしまいました。バレエっていいなあ~。
≪第1部≫
「マルキタンカ」よりパ・ド・シス
エレーナ・フィリピエワ&セルギイ・シドルスキー/キエフバレエ
「コッペリア」の振付で知られるアルテュール・サン・レオンの振付、音楽は「エスメラルダ」や「パ・ド・カトル」を作曲したプーニ。「ラ・ヴィヴァンディエール」という全幕バレエ(ロシア名が「マルキタンカ」)からの抜粋というパ・ド・シス。その全幕自体はストーリーといっても何だかありきたりで、今ではこのパ・ド・シスぐらいしか上演されていないようです。4人の女性と、一組の男女で踊られる作品。
もう、皆さんスタイルがよいの。フィリピエワもかなりベテランなはずなのに、本当に可愛い~
しなやかで、軽やかで、まるで小鹿のよう。小柄だけれど、現れただけでその場がぱあ~っと明るくなる。華があるんですよね。シドルスキーも長身の上に手足がすう~っと伸びて本当にノーブル
高くジャンプしても足音一つしないのが不思議です。1年ぶりに見たけれど、シドさん、おぐしのほうはもうこうなったら全然気になりません(笑)
特に何もストーリー的な展開はないのですが、4人と2人が5人と1人になったり、2人ずつになったり、はたまた全体で一つのフォーメーションをつくったりと、楽しげな作品でした。
「瀕死の白鳥」 白河直子
あえて舞台サイドや正面の幕を全部取り去り、ライトや、バックのパネルなどがむき出しになった舞台に椅子が一客。最初は無音で始まります。ジャンルはコンテンポラリーなのだろうけれど、しなやかな動きの中に時折鋭く力を発するような動きがあり、まるで武術のようでもあります。きっちりと計算され統制された動きであるにもかかわらず、奔放で野生的にも見え、細くて小柄な白河さんの身体から不思議なエネルギーが発せられているようでした。
実は、先月名古屋に行ったときに、愛知県芸術劇場と同じ建物内にある愛知県文化情報センターの「アートライブラリー」というところに行って、2005年に上演された「ダンスオペラ3~UZME」という作品の映像資料を見てきたのです。ビデオには、ルジマトフと白河さんと、もう一人新上さんという3人のダンサーの踊りが入っていました。作品全体は「何じゃこれ?」なんですが、この3人の踊りだけが異次元で、神々しく、素晴らしかった。知らなかったけれど、こんなところでルジマトフと白河さんは共演していたんですね。
「ライモンダ」第2幕よりアダージョ
アンナ・アントーニチェワ&ルスラン・スクヴォルツォフ
グリゴローヴィチ版の、白いマントのジャンとライモンダの踊り。全幕では無事帰還したジャンが、留守中ライモンダに言い寄ったアブデラフマンに決闘で勝ったあとの、2幕最後の踊りです。ガラではよく見ますが、ボヤっとした音楽とスローテンポの変なリフトで眠くなってしまう演目。アントーニチェワは結構なベテランなのでしょうか。スクヴォルツォフはマントの似合う白王子系でしたが‥‥アダージョだけなのであっという間に終わってしまいました。
「ラ・シルフィード」よりパ・ド・ドゥ
カテリーナ・ハニュコワ&岩田守弘
失礼ながら岩田さんのキルト姿??と思って引いていましたが、意外と可愛く似合っていました。ブルノンヴィル版の軽やかな足さばき‥‥というよりはアスリート系?岩田さん独特のエネルギッシュな踊りになっていました。
ハニュコワは昨年キエフバレエの夏ガラで見たときも初々しくてとてもかわいかったけれど、ことしはそれ以上にキラキラと輝いて見えるくらいきれいになっていました。スター誕生って感じでしょうか。小柄で軽やかで可憐で、妖精そのもののような
好きなタイプのバレリーナです。
「シャコンヌ」 ファルフ・ルジマトフ
小柄な女性ヴァイオリニストが舞台に上がり、バッハの「シャコンヌ」を弾きはじめると、舞台奥の黒いバックに黒シャツ黒パンツに身を固めたルジマトフが浮かび上がる。黒に黒なので、まるで彼の大きな語る手だけが闇に舞っているかのようです。昨年「COLD SLEEP」のときに見ているけど、それともまた違った端正な緊張感。
こう言ったらなんだけど、音が全然違うんですね。ものすごく繊細な音色。そして、踊りもそれに呼応するような、シャープで繊細で、より陰影のあるものに進化していました。ここ数年のルジマトフは、ほかの踊りも全部そうなのですが、まるで茶道などのように、繰り返し繰り返しきちんと手順を踏んだ修練を重ねることで、それが一部の隙もなく連続した一本の線上の、流れるような動きになって見るものを魅了する。すべての無駄がそぎ落とされた、気品ある軌跡をつくりだしているように思えます。派手な動きはないけれど、優雅で繊細な音色とともに、いつまでも心に残る踊りでした。
「バヤデルカ」第2幕より パ・ダクシオン
ナタリヤ・マツァーク&セルギイ・シドルスキー
幕が開くと何これ?のピンクピンクの世界。そういえば今まで見たキエフバレエって、どれも舞台美術や衣装がかなり悪趣味だったのでした。昨年の学芸会みたいな「シェヘラザード」のセットが目に浮かんでしまいましたよ。あれよりはマシ?いや、やっぱり変!
ここは全幕でも一番ゴージャスな場面なのに、コールドがショボすぎます。特に脇の二人の男がひどくて、両脇を支えてジャンプのところはタイミングが合わないわ、二人で脚を支えたリフトのときはぐらつくわでいいところなし。
マツァークは何回か見ているけれど、独特な雰囲気を持ったバレリーナです。大人っぽい美人というか、エキゾチックというか。どちらかというとガムザッティよりニキヤのほうが似合うタイプかも。この日は調子がよくなかったのか、極度のX脚ということもあるのか、軸がぐらぐらで、イタフェはいいけどフェッテは安定感なくてダメダメでした。
シドルスキーも、何を踊ってもきれいだけれど、ソロルというには優雅で王子な感じになっちゃって何か違うんだよね‥‥そう、人がよさそうでダメ男らしくないところ。やっぱりソロルはルジマトフよ(笑)
「扉」 イーゴリ・コルプ
バックに流れる白黒の映像。扉を開けて街に繰り出すけれど、それはいつの時代か、早回しのような、かなりレトロな映像です。コールプは‥‥というと下手のかなり端っこのほうから現れて、何かよく見えなかったけれど、幕の中にいる誰かに支えられてポーズをとったりしていたような。
そして、ベージュのパンツ一丁のコールプは、遠目にはほとんど全裸!という感じに見えます。でも、いつもの泥棒メイクと違って、ナチュラルメイクで若々しく見えました。いつもこうすればいいのに。そして踊り出すのですが、バックの映像に気を取られて‥‥と思ったら、実はこれ、コールプ自身とスクリーンに映ったシルエットの、二つのシンクロした動きを見せる趣向ではなかったでしょうか。最後は上手でばったり倒れて、幕の中の人に引きずられて終わり。いかにもコールプらしい変わった、面白い作品でした。
「白鳥の湖」より 黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥ
アンナ・アントニーチェワ&ルスラン・スクヴォルツォフ
ボリショイの二人による、グリゴローヴィチ版の「白鳥の湖」ですが‥‥こんなにニコニコ楽しそうなオディールって
初めて見ました。二人でピクニックにでも行くのか?踊りもガチャガチャしてて落ち着かないし。そして、最初の演目で危惧したとおり、ホントにこの人たち天下のボリショイのプリンシパルなの?って疑っちゃう。少なくとも「バレエの神髄」なんて大仰なタイトルの公演に出すようなものじゃない。あまりキエフバレエ色が強くなっても‥‥という感じでもう一枚看板を加えてみただけのような気がします。もちろん、そのあとの公演でよくなっているかもしれませんが、東京公演では残念な感じでした。
「ボレロ」 ファルフ・ルジマトフ
この公演のために新たに制作し、急遽持ってきてくれた新演目。舞台上には二つのかがり火。上半身裸で、下は何か黒の袴のような?太いテレっとしたパンツのような衣装。ムム、これじゃせっかくの見事な脚の筋肉が見えないじゃないですかって
‥‥振付は、岩田さんではありませんが、「阿修羅」や「COLD SLEEP」と似たような路線で、リズムの取り方もベジャールの「ボレロ」の呪縛から脱しておらず、特に目新しい作品ではないようでした。
‥‥が、この「ボレロ」が一番感動的だったのです。ある意味期待の「カルメン」よりも。一つの旋律が繰り返され、次第に盛り上がっていく20分弱もあろうかという長い曲の間、たった一人で観客の目を釘付けにしてしまうルジマトフのすごさ。ほんの一瞬もよそ見など出来ないくらい、その気迫に圧倒されました。
この人って、やっぱり踊ることに命をかけているんですよね。1月には怪我で走ることもままならなかった彼が、この長い踊りの中、飛んで、回って‥‥しっかりあの時のリベンジをしてくれた。そして何より、彼の「祈り」が伝わってきたのです。遥か昔、日本に伝わってきた西方の神々。阿修羅も、帝釈天もこんなふうだったかなと遠く思いをはせ、思わず涙してしまいました。
多少、まだ海のものとも山のものとものうさん臭さはあったけれど、多分大阪、名古屋と回を重ねるごとによくなっていく作品だったと思います。その深化の過程を見られた方がうらやましい!
「カルメン組曲」
エレーナ・フィリピエワ、ファルフ・ルジマトフ、イーゴリ・コルプ、セルギイ・シドルスキーほか
以前、ザハロワ&ウヴァーロフや東京バレエ団などで何回か見ていますが、そのどれとも違う「カルメン組曲」でした。
感動よりは、何かツボにはまったというか‥‥もう意外や意外!以前フラメンコで見せてくれたセクシーなホセとはかなり違っていました。何とあのルジマトフがとってもかわいかったのですよ(
)ファンになってこのかた、素敵だとか超カッコいいとか素晴らしいとか思ったことは何回もあったけれど、よもや彼が「萌え」だったり「かわい」かったりするなんて思ってもいませんでした。
最初の、上官に服従しているようなカクカクした動き。それが真面目で忠実な部下としてのホセの性格を現しています。しかし、カルメンと出会ってから、だんだんと彼女の魅力に抗えなくなって、ついに殻を破ってしまうのです。軍服から赤の衣装に変わってからは、人が変わったようにせつなくてかわいい
どうしようもなく惹かれてしまうのに、自由なカルメンの心を自分だけのものにすることはできない‥‥そのせつなげな表情!かなりヤバいと思いました。48歳にして胸キュン路線に転換か!(?)
フィリピエワのカルメンは、カルメンにしちゃ線が細いような気がするのだけれど、十分妖艶で蠱惑的なカルメンでした。肩をくりくりっと動かすしぐさがとてもかわいい。コールプのエスカミーリョは‥‥妖しい腰の動きといい、何か花形闘牛士(つまりスカッとしたスポーツマン)というよりは、もっと怪しげな変な人のような感じなんだけど
(どんな変な人?)本人ノリノリでやってくれたのが、さらにコワイ人になっていました。。。
アロンソ版のホセは何と、かのルジマトフでも初役。本人もずっと踊りたかった役だそうです。彼ほどのスターでも長年の夢がかなったという思いがあったのか、ルベランスの最後に他の出演者に向かって深々と頭を下げ、感謝の意を表していたのにはちょっと感動してしまいました。
そしてまた、恒例の熱烈ファンからの花束贈呈。あとからあとから豪華な花束が贈られるあの「花束隊」がことしも健在で、ああ、まだまだ日本も大丈夫だ‥‥なんて何の根拠もないのに無性にうれしくなってしまいました。ルジマトフのちょっとはにかんだ顔、おばさま方の幸せそうなお顔が拝見できて、私もとても幸せでした
ありがとう。ルジマトフも、ルジマトフのファンの方々も、みんなみんな大好きです
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